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51.王太子妃となり望むもの

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「え?」


問いの意味がわからず声を漏らすマリアンヌにジルクハルトは溜息を吐きながら再び問う。


「王太子妃となり何を望む?何を成すために、その地位を欲しているのだ。私はレティシアと面会した調印式の日に『王太子妃になり何を成したいか』と問うた。まだ十にもならない令嬢に。私が望んで婚約したからレティシアにとっては婚約の調印式事態が突然のことだった」


婚約の調印式を王城の謁見の間で行った際、ポーッとした顔でジルクハルトを眺めていたレティシアは問われてすぐ表情を引き締めて答えた。


誰も、ジルクハルトが問うことは知らなかった。突然のことだったのにレティシアは自分の考えを述べた。


一目惚れしたジルクハルトはレティシアに逃げ道を用意しただけだった。

調印する前に問うて、子を成すこと以外に考えが及ばないならお妃教育の内容を変えるか、本人が無理だと悟れば婚約自体をなくそうと考えていたのだ。


レティシアの成したいことを聞き、ジルクハルトは国を繁栄させるためにレティシアとなら共に歩んでいけると感じた。


「答えられないのか」


十歳にもならないレティシア以上に、考える時間は十分にあったはずだ。


「ジルクハルト殿下の御子を産みますわ!一人ではなく何人も産んで跡継ぎの心配をさせることはありません。それに、執務でお疲れのジルクハルト殿下を心から癒せます。それと……」


これだけでは不味い、というのはジルクハルトの雰囲気で察したマリアンヌは目線を下に迷わせ必死に考えている。


ジルクハルトに伝えるために考えたこともなかった。王太子妃になり王城で暮らし夜を共にし朝は執務へ見送る。昼間は茶会を開き自分より身分が下となった女達の上に立ち優越感に浸れる。


欲しい物が高価でも、今以上に簡単に手に入れられる。

多くの侍女や王城で働く者に世話をされお姫様として暮らしていける、そんな、物語のお姫様に憧れていた。


「私でしたら、王妃様のしていた慈善活動をしっかりと引き継いでみせますわ」


マリアンヌが考えている隙にエミリカは過去の王妃の活動を思い出し、自分もするのだと言う。


「で?他にはあるのか」


「ジルクハルト殿下のお望みのことをしてみせます」


「ほぅ。ならナタニエル伯爵令嬢は私の代わりに毒を飲み死なないことは可能なのだな」


「えっ?」


「私の望むことをするのだろう?なら毒を飲み死なずに生きてみろ」


「そ、れは無理ですわ」


「では先程の発言は虚偽と捉えるが」


「……身代わりになる事など出来ません。それは護衛のなさる事、王太子妃のする事ではありません」


エミリカは女として求められることなら望まれたらすると言ったのであって護衛のようなことするつもりはない。


「お茶会で夫人たちのお話からジルクハルト殿下に必要な情報をお伝え出来ますわ。私、邸でも頻繁にお茶会を開いておりますから慣れています」


具体性が必要なのだろうと考えたマリアンヌの話も内容が薄い。そんなこと、下位貴族の夫人ですら出来ることだ。


「私が必要としている情報は何かわかるのか」


「えっと……教えてくだされば聞き出しますわ」


「教えられなければ解らぬようなら王族の妃は務まらない。知識のない者が口伝えすると情報は歪み使い物にならぬ」


それが赦されるのは下位貴族の妻だけだ、と、周りには聞こえぬようにマリアンヌに伝える。


夫を支え家の繁栄に貢献するためには高位貴族の妻には学が求められる。でなければ、領民の納めた税を湯水のように使い破綻するからだ。


領民を苦しめないためにも賢い妻が必要なのは王族も同じ。王妃が散財すれば国庫を圧迫し民への負担が増える。

民が負担を感じれば王家への反感に繋がる。


「貴方達二人は十歳に満たないレティシアよりも考えが浅いようだ。もう少し学ぶ事をお勧めする」


ジルクハルトはレオンを連れて場を離れ王族席へと戻る。



(ただ贅沢な暮らしがしたい、権力が欲しいだけの女だとは思っていたが、あそこまであからさまに頭が弱いと教育のしようもない)



頭が弱いとはわかっていたが、想定以上に薄っぺらい話で疲れた。


「レオン、レティシアは今も変わらぬ考えを持っているだろうか」


あの頃と変わらず民のことを想ってくれているだろうけど、言葉が欲しかった。


「お変わりないと存じます」


そのレオンの言葉に安堵する。

変わらず共に未来を歩んでいけるのだ、と思えるから。


「兄さん、面白いパフォーマンスだったよ」


席に戻りクスクスと笑うライナハルトは愉快そうだ。


「これで、あの二人は兄さんと婚姻できなかったら下位貴族にしか嫁げないだろうね。あ〜、よくても爵位を息子に譲った男の玩具かな」


『子が出来ぬように施してからね』と付け加える。跡取り問題の火種を消してから年のいった男の玩具にしかならないと含みを持たせる。


あそこまでの醜態を晒しジルクハルトに言外に『馬鹿』と言われたら高位貴族は嫁にしないだろう。後妻でもお断りだ。


「兄さんは嬉しそうだけど、あんな事の後に何かあったの?」


「あぁ、やはり私の隣はレティシアしかいないのだと解ったからな」


「僕もレティシア姉様に逢いたいや。覚えているかな?」


「お前のことは弟のように接していたから覚えているだろう。レティシアの弟の名前はセシルだ、覚えておけ」


「へぇ、セシルねぇ。稀代の魔術師と同じ名前だね」


「偶然だろう。貴族では一般的だ。ルル嬢のお父上の名もセシルだからな」


「そうか。変に勘ぐってしまったよ」



レオンは変な汗が背中を伝った。

稀代の魔術師の名が『セシル』で知り合いの弟とはレティシアの弟を意味しているのでは、と。


あれ程の魔道具をセシルが作り出せたことにも驚くが、いつ、どのようにセシルとして接していたのか、もしかしたらレティシアの事もセシルから聞いたのではないか、と。


「あと少しだけど、こちらは準備ができているよ。あの女は、もう壊れちゃった」


「壊すな」


「だって本当のことを知っているのに思い込みが激しくて僕の話を理解できないんだよ?元々、壊れていたんだし」


「アレは王妃が亡くなったから壊れ始めたんだ」


「壊れる状態で来たんだから自業自得だよ。あと少しで僕も解放されるね」


「すまないことをしていると思っている」


「僕の命を守るために陛下が決めた事だから仕方がないよ。だからこそ、この年まで生きていられたんだ」


「あぁ」


側妃の事を話しているようだがライナハルトは何処となく他人事だ。それがレオンにとっては違和感でしかないか。母子の関係性は良かったはずだから。



(私がいなくなってから何かあったのかしら。壊れたって??離宮にいらっしゃるみたいだけど何をしているのだろう……ライナハルト殿下の言葉も寂しそうでもないし)



普通なら母親のことになれば少しでも感情が動くはずなのにライナハルトにはそれがない。母親に対してジルクハルトが側妃と接しているときのような距離を感じる。


「私は退席する。ライナハルトも遅くならぬようにな」


『行くぞ』と声を掛けられジルクハルトの一歩後ろにつき従う。



いよいよ、レティシアとしての答えが必要になる

次回、明日はどーなる?!

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