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48.好きな花とセドリック

「何か思い出したのか?」


「薔薇、かもしれません」


「薔薇?」


「はい。以前、レオンは誕生日にセドリックから一輪の薔薇をプレゼントしてもらったと話していました」


「そうか、薔薇、か」


そうだ。

あの時、男のクセに薔薇でそこまで喜べるのかと呆れた。


あの薔薇は確か、栞にしたと聞いた。よく本を読むから栞にしたと。あの火事の日もセドリックは大切な栞を持ち出してくれたとレオンは嬉しそうにしていた。


色は……濃かった。


「色は……珍しかったのですが覚えておりません。赤、ではないような」


「赤ではない珍しい薔薇……」


「レオンは知りませんがセドリックが高価で一輪しか買えないとボヤいていました。その、レオンには内緒にして家庭教師の仕事をしていたようで、そのお金で購入したと」


セドリックはレオンが働いたお金ではなく自分が稼いだお金でプレゼントを購入するために商家の子供の家庭教師をしていた。


「本当にアイツは兄貴想いだな。だが、珍しい色の薔薇なら二つある」


「二つ?」


「あぁ。青と紫だ」


「青とむらさ……、紫です!青い薔薇は見たことがありませんが紫のは見たことがあります!」


そうだった。

珍しかった。紫色の薔薇は高位の貴族でも手に入れるのが難しい。それは王族の瞳の色と同じだからだ。セドリックは何処で入手したんだ……?


ジェイドは考えるが紫色の薔薇など見かける事はなく、入手先が想像できない。


「市井で紫色の薔薇は入手できない」


その言葉を聞いてもジルクハルトを見ることしかできない。

入手できない薔薇をセドリックがどうして手に入れたのか解らないからだ。


「で、は、貴族街で?」


「それも無理だ。紫色の薔薇は」


「???」


ジルクハルトは大きく息を吐き窓の外を見た。


「この王城にしかない」


「えっ……?」


紫色の薔薇は品種改良された特別なものだ。青色もだが、紫は王族の瞳の色と同じであるから特別な薔薇とされている。


「おう、じょうのみ……」


驚き目を見開き視線を彷徨わせる。

セドリックはいつから、いつから……


「全く気がつかなかった。セドリックが自ら王城へ来たとは考えにくい。リベルトと知り合いのようだが薔薇の入手には関わっていないだろう」


「ではっ、どのようにっ?!」


「さぁ?調べれば直ぐに解るだろう。いや、解るようにしているのだろう。恐らくアイツの手の内の者が薔薇園へと忍び込み盗んだと考えるのが妥当だな」


「高値、とは」


「雇った男への支払いか、嘘か」


あの、兄さんを大切に想っている優しい男が……。孤児院で子供達に優しく接して優男のようにしか見えない、あのセドリックが、この警備の厳しい王城に人を忍び込ませていた。


「冗談ですよね?あのセドリックですよ?」


「冗談ではない。でなければ紫色の薔薇は手に入らない」


「で、すが」


「証拠が無いから罪に問うつもりはない」


「そうではなくて!あのセドリックが、そのようなことをするとは……」


「あのセドリックだから、だ。恐らくあの男は幼い頃から周到に用意をしていた。学園へ入学して私に接触することまで考えていたはずだ。そのために必要なのは頭脳と魔力属性だと理解していた」


「それと薔薇のことは……、あ、もしかして」


「そうだ。王城へ探りを入れていた。そして私が気付くか試していた。気付かなかった私はセドリックからすれば間抜けだろうな」


本当にジルクハルトが気付かなかったのか?と、ジェイドは疑問を持つ。


ジルクハルト専属の影や闇がいるにも関わらずセドリックの手の内の者に気付かないはずがない。


「貴方はどこまで、本当のことを話しているのですか」


「さ、てな。だが、私たちが考えている以上にセドリックは優秀だ。そして……」


ジルクハルトが一息付き愛おしそうな表情をする。


「レオンは抜けている」


が、その言葉を発したジルクハルトは至って真面目な顔だ。


「抜けている?」


「意外と世間知らずだ。普通、気付くだろ」


「…………薔薇、以外でも気づける事は多いですね」


「だろ」


士官学校の頃からレオンの知識は偏っていると感じていた。頭が良くて優秀だが、当たり前のことを知らなかったりする。今まで一体、どのように暮らしていたのか、と疑問に感じたこともあった。



「まぁ、いい。レオンの好きな花を知れたからな」


「セドリックからの贈り物だから喜んだのかも知れませんよ?」


「セドリックが贈ったのならレオンの好きなものだろ。なら薔薇が好きで間違いないはずだ」


「セドリックへ手紙を出して確認しては?」


「無理だ。他のことでセドリックと交渉中だ。そっちは要求が大きすぎるのに、この件で上乗せされたくない」


「えぇぇぇ、ジルクハルト殿下はセドリックの掌で転がされているのですか?」


「そうでは、ない。私が手に入れたいものをアイツが持っているだけだ」


「王座を寄越せと言われたら軽々と明け渡しそうですね」


「それで他の目当てのモノが手に入るなら明け渡しは考えるかも知れんな」


「うわぁ……」


この主は目的のためなら国すら手放すのか、と、呆れてしまう。


この男を、ここまでさせる人間はそうそういない。セドリックを大切に扱おう、と、心に決めた。将来、自分のためになる人間で、今のままなら軽口を言い合える仲だから。



残り三ヶ月で、全てが上手く纏まるのだろうか。



捜索をしていないことでジルクハルトがレティシアを諦めたという噂がある。


学園を卒業するまでにレティシアを見つけ出せなければ、エミリカ・ナタニエル伯爵令嬢との婚姻が決まる。


ヴィクトリウス侯爵が騒げば側室としてマリアンヌ・ヴィクトリウス侯爵令嬢を娶らなければならない可能性がある。


それなのに目の前にいる当事者は慌てた様子もなく、三ヶ月後、間違いなくレティシアが自分の隣にいると信じているようだ。



「それで、花を贈られるのですか」


「花の届け先がなくてな」


「なら、ご自身の部屋へ飾れば良いのでは?」


「私の部屋にか?」


「えぇ。きっと喜ばれます」


「そうかもしれないな」


ジルクハルトは薔薇を飾る計画をする。色や本数も細かく指定するのか、書面に書き出し侍従を呼びつけて指示を出していた。


その間もレオンは扉の前で護衛をしている。室内が気になるのか、侍従が出入りする際に扉が開くと中の様子を確認しているようだった。


その日、ジルクハルトは薔薇の手配だけではなくドレスのデザイナーへの手紙も認め侍従に手渡していた。


ドレスのデザインを頼んだようだが、採寸していないのでサイズがわからないからデザインだけ話を進めるそうだ。


卒業式に春を祝う夜会、どちらで大きく動くかは特定できていない。春を祝う夜会まで待つのか、その前に決着をつけるのか。


貴族会は、卒業式で婚約発表をして卒業式の数週間後に執り行われる春を祝う夜会で婚約者をエスコートして欲しいと考えるだろう。


「準備は始めているのですか?」


「交渉完了次第、本格的に動けるな」


「私からセドリックへも話しましょうか?」


「先日の市井でのことが耳に入っているようでね。ジェイドが間に入ると面倒な事になりそうだ」


「……本当にすいませんでした」


「本当にな」


と、ジルクハルトは笑っているから、そこまで迷惑は掛けていないのだろうと安堵する。


仮にもヴォルヘルムの王太子であるジルクハルとに交渉を持ち込むなどと考えたセドリックは将来大物になるのは間違いないだろう。

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