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37.魔物の討伐訓練②

ジルクハルトとレオンは魔物から離れ辺りを見渡せる場所を探した。その途中、木々の間から視線を感じる。



(狙われている?)



魔力を感知しようにも隠蔽しているようでわからない。態とらしく気配は消さず恐怖を煽る。


森を抜けると開けたところに辿り着いた。

結界を張り辺りを見渡す。


「ジルクハルト殿下」


「あぁ」


先程まで隠していたはずの魔力を感知出来た。相手もやる気なのだろう。


「狙いは私の命か」


声を張り隠れている者達に問う。

ジルクハルトの命を狙い魔物にやられたと見せかけて殺すのが目的だ。


「大人しく殺されるつもりはない。姿を現せ」


黒い影が現れ、攻撃魔術が放たれる。

レオンが結界を張るのと同時に攻撃魔法を放ち威力を相殺する。


ざっと周りを見ると五人の人影。

ジルクハルトとレオンを中心にして囲っている。


「レオン、そちらと六時の方向を任せる。私は反対側を対応する」


「ですがっ、私が囮になりますから逃げてくださいっ!!」


「アイツらは王太子を狙っているんだ。お前じゃ囮にならん」


「わかりました。お怪我だけはされぬよう、お願いしますよ。私の首が物理的に飛びますから」


「善処する」



互いに背中を預け、目の前の敵と対峙する。魔術師団へ伺候していない手練れの魔術師だろうか。


敵を前にジルクハルトに背中を預けてもらえる程の信頼を得たことを嬉しく感じながら目の前の敵と対峙する。


敵が動き魔術の発動を感じ防御魔術を発動しながら攻撃を繰り出す。相手も一歩を引かず、けれど、接近戦に自信がないのか近づいては来ない。


こちらから近づくと、その分、距離を取られる。近ければ剣も使い敵を切り倒すことができるのに。縮まない距離が歯痒い。


滑らかに呼吸するように魔術を繰り出していく姿を視界の端に捉えたジルクハルトは、レオンの魔力を補助してジンの発動を手助けする。


たまにレオンが舌打ちしているのは気にしない。


目の前の敵に攻撃魔術を放ちながら一方でレオンの補助をしていることで陣の形成に集中できずにいる。


「ジルクハルト殿下!私は攻撃を受けても多少なら反魔でやり過ごせます!陣の形成に集中してください!」


「気づいていたのか。すまんが少し任せる」


ジルクハルトはレオンへの魔力補助を取りやめ防御魔術の発動を最小限に抑えて陣の形成に集中する。


レオンの攻撃魔術により二つの影が足元から崩れ落ちた。残り三つの影。


「レオン!私の背に!」


気づくと足元には大きな魔術陣が形成されていた。闇の上級魔術の陣だ。

頭上が暗転し足元の陣に魔力が流れて光る。

 



闇浄化(ダークセレナイト)




ジルクハルトは残り三つの影に攻撃をしたと同時に、大型の魔物や、この地にいる魔物を浄化する魔術を発動させた。



闇と光の合成魔術



魔術が発動したことで三つの影は足元から崩れ落ちた。離れた場所に見えていた大型の魔物の姿も消えている。


「ジルクハルト殿下、お怪我はありませんか」


「私は問題ない。レオンは大丈夫か」


「少し怪我をしましたが擦り傷です」


レオンの腕には擦り傷にしては深い傷痕と血が滲んでいる。


「お前は……まぁ、レオンだしな。治してやるから腕を貸せ」


ジルクハルトの前に腕を出し治癒魔術で傷痕を残さず綺麗に完治した。

包まれる光は強いが優しく心地良い。

ズキズキとした痛みが消え、怪我をする前の状態に戻っている。


倒れた五つの人影を確認すると、自分達で顔を潰したのか判別不可能な状態になっている。


「魔力痕から正体の特定は可能だろうか」


「魔術師団長なら特定可能なはずです」


マインラート魔術師団長は魔術に優れていて僅かな魔術痕から犯人を特定したと聞いたことがある。


既に亡くなっている五人の遺体を一か所に置き弔う。


五人全員がジルクハルトに敵対することを望んだわけではないだろう。愛しい人や家族を人質にされていた可能性がある。


雇い主に迷惑を掛けないためか、家族を想ってかはわからないが顔を潰したということは知られると迷惑のかかる相手がいるということだ。



(人の弱みにつけ込んで操り、不要になったら簡単に命を捨てるなんて、あの頃と変わっていない。あの頃から……ううん、助けることを諦め、自分達が生き延びることを選んだのは私だもの)



侯爵令嬢や王太子の婚約者という立場であれば、弱みを握られる可能性のある人々を救えたかもしれない、何もできない自分が悔しくて涙が溢れる。


「レオン、全てに救いの手を差し伸べることは出来ない」


「でもっ……こんな、利用されたかもしれないのに」


「今出来ることは死を弔うことだ。このように利用される民が減るよう、今回のことは私も心に刻もう」



ジルクハルトはレオンの肩を抱き、ぽんぽんと、頭を撫で慰める。

弱いものが虐げられる現状を少しでも改善していこうと心に誓う。



ポツリ、ポツリ、と雨粒が落ちてきた。



遺体が雨で濡れないよう結界を張り、現状維持の魔術で腐敗を防ぐ。このままでは術者が一定以上の距離を離れると魔術が解除されてしまうが、ジルクハルトは髪の毛を数本取り固定魔道具の代用とした。


髪の毛を固定魔道具としたことで術者が離れても維持できる。


「雨が強くなってきた。あそこに岩場が見える、洞窟があれば雨風を凌げるかもしれん。急ぐぞ」


ジルクハルトとレオンが向かった先には洞窟があり、少し狭いが雨風を凌ぐには問題なく利用できる。


洞窟に着く頃には雨が強くなり雷が轟いていた。全身が水で濡れている。ジルクハルトもレオンも風魔術は得意ではなく、風魔術の属性を持った魔術痕のある髪の毛も持ち合わせていなかった。


なんとか風魔術を行使して乾燥させるが、全身は無理だった。生乾きのようで気持ち悪い。


「この辺りなら洞窟の入り口も近いから火をおこせば問題ないだろう。入口の方に向かって風も吹いているから煙が充満することもないし、多少だが上に隙間があるようだ」


火をおこしレオンが持っていた紐を使い上着をかけられるようにした。敵の拘束や首を締める際に使用できるよう、また、今回のような事態があった場合に備えて持っていた物だ。



(シャツが濡れていて気持ち悪いし張り付いているから身体の線が丸見え……サラシも見えているかもしれない)



抱えていた両膝に顔を埋めてジルクハルトの視線から逃れる。


雷雨ということもあり薄暗い。洞窟まで距離があり思っていたより移動に時間がかかった。もう夜の時間だ。雨が止む気配もなく、騎士団も二次被害を起こさないために捜索を断念するかもしれない。


「捜索、きますかね」


顔を埋めたままジルクハルトに聞いてみた。

すると背中に温もりが。


「で、殿下っ?!」


「雨で気温が下がってきた。夜になる頃には今よりも下がる。身体が冷えるぞ」


背中にジルクハルトの熱を感じレオンの鼓動が早くなる。


「ジルクハルト殿下は寒いのですか?」


「馬鹿か。俺は寒くない。レオンは身体に肉がついていないから直ぐに冷えそうだ」


お腹の辺りに手を添えるように置き後ろから抱きしめられて緊張して頭が真っ白になりそうだ。

平常心、平常心、と何度も心の中で呟いて冷静を装う。


「二番隊の専属護衛と一緒にいるという理由で捜索は打ち切られているだろう。一晩明かす事になるな」


通常、王太子が行方不明なら捜索を打ち切ることはない。今回は、雷雨が酷く魔の森であること、ジルクハルト直轄の二番隊に所属しているレオンが一緒にいることから、ジルクハルトの命をレオンに託し捜索を打ち切るだろうと。


ジルクハルトは不測の事態があった時に備えて、クロードとラウル、リベルトにはレオンと一緒にいるので被害は最小限に留めるようにと指示を出していた。


「ご自身が狙われるとわかっていたのですか」


「俺はいつでも狙われている。魔の森なんて襲わせていただきますと言っているようなもんだろ。覚悟はしていたが、大型の魔物を持ち込むのは想定外だった」


正妃である母親が亡くなってから表立って命を狙われるようになった。だが、フロレンツ公爵家の後ろ盾があり狙われることがなくなった。


レティシアが行方不明になってからもフロレンツ公爵家は後ろ盾となりジルクハルトが立太子できるよう支えていた。


「レオン、余計なことは考えなくていい。疲れただろ、少し眠るといい」


「あ、いえ。私が火の番をします」


「俺の方が頑丈だ。お前は寝ていろ。その方が俺も助かる」


「へ?助かる?」


「あぁ」


ジルクハルトの方へ振り向くと目の前に唇があり、慌てて前を向く。色香に狂わされそうだ。ジルクハルトに頭を撫でられると、ふわり、と温かくなり意識を手放した。


「おやすみ、愛しい人」


ジルクハルトが最後に呟いた声は届かない。

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