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36.魔物の討伐訓練①

昨日の活動報告に小話アップしています。

いつも通り六時に起こしに来たレオンは何事もなかったように振る舞った。気にしたら負ける、と、何度も呟き昨夜の失態は無かったことにした。


朝方、部屋へ戻った時は大変だった。

セドリックにジルクハルトの部屋へ入ってからのことを全て吐かされた。

アレコレ事細かく、ジルクハルトがどこに触れたのか、何故、飲めもしないアルコールを口にしたのか。


前回と同様、ソファーで寝ていたと伝えてみたが納得してくれなかったのだ。『あの男が兄さんをソファーに寝かせて自分が寝台を使うなんてあり得ない』とまでいう始末。



(セドリックってジルクハルト殿下は優しいと考えているからソファーで寝かすはずがないと言ったのかしら)



ジルクハルトを毛嫌いしながらも認めているようなセドリックの言動の真意がわからない。



「今日は魔物の討伐講義だったか」


「あ、はい。そうですね。午後からになりますが小さい魔物相手に討伐する訓練です。魔の森で行うそうですよ」


三学年目になると男子生徒は小さな魔物を討伐する訓練をする。これは、己の腕前を知っていることで、どうするべきか対応できるようにするためだ。


実地訓練で魔物を倒す腕がないと解れば不用意に戦うことはしない。逃げることを覚えるためでもある。


見栄で護衛と同じように振る舞うと足手纏いになる。主が剣を取った際に、庇いながら戦うのは護衛にとっても全力で挑むことができず討伐できずに返り討ちに合う可能性があるからだ。


『逃げることを知る』

それが今回の訓練目的。


「何かあっては困りますのでジルクハルト殿下は私とペアを組みます。お手を煩わせることのないようにいたします」


「それだと訓練の意味がないだろ。私が攻撃してダメだったら逃げる、だと目的に沿う。攻撃が強く怪我をする場合はレオンが片付けろ」


「畏まりました」


士官学校では小物の魔物は倒せて当然なのでレオンにとっては簡単なこと。大きな魔物になると苦戦するが魔術を使えば中型位なら一人でもどうにか出来る。


学園へ到着し午前は魔物討伐について学んだ。午後からは男子生徒は魔の森へと移動した。教師から説明を受けペアを組み、それぞれ指定された場所へ。ペアはクジで決めるが、ジルクハルトだけは相手はレオンと決まっている。


討伐方法は剣、魔術、逃げる、どの方法であっても良いとされ、大型の魔物が出現した際には合図を送ることになっている。

大型の魔物が出現した際は付き添いの騎士や魔術師が対応するからだ。


ジルクハルトとレオンは指定された川の方へ向かって歩く。訓練にしては珍しく、森の奥深くが指定された。他にも数ペア、森の奥深くを指定されていたようだ。


「士官学校でも魔物を討伐したのか」


「はい。王都付近には滅多に出現しませんので地方へ遠征に出かけて訓練をしました。野営の訓練にもなりますから」


「大変ではなかったか」


「大変ではありましたが楽しかったですよ。まだまだヒヨッコの自分達に出来ることを考えて仲間達と戦術を組み立てたり、充実しました」


「そうか。士官学校は寮生活だったのだろう。部屋は個室なのか」


「私は個室でした。奇数だと一人余るので個室を利用させていただきました。本当はジェイドが個室だったのですが、何故か私に譲ってくれて」


「それは安心だな」


「何がですか?」


「いや、こちらの話だ」


士官学校に興味があるのだろうか。ジルクハルトも卒業すれば王太子として騎士を指揮することもあるだろうから、そのために士官学校のことを知っておきたかったのだろうか。


到着した場所の川は浅く、魚が泳いでいた。



(綺麗な川……水は冷たいし飲んでも問題ない透明度だわ)



歩いて喉が乾いていたので、川の水を手で救い飲む。



「美味しい!動いた後の水は美味しいですねぇ」


ぷはぁ、と声が漏れそうなくらいたくさん飲んでいた。その姿を、隣で愛おしそうにみているジルクハルトの視線が痛い。


「あまり飲むとトイレに行きたくなるから気をつけろ」


「わかってますよ。毒味です」


「川まで毒味するのか」


「上流で何を仕込まれているかわかりませんからね。私に確認せずに飲まないでくださいよ」


「あぁ、そうする」


この川の付近で待っていれば訓練のために魔術師が放った魔物が出現し、訓練開始となる。



近くの茂みからガサガサと物音がした。レオンが覗いてみると、ウサギが草を食べている音だった。

周りを見渡しても魔物の気配はしない。


まだ始まらないのだろう、と油断した。







ぐぉおおおおおおおおんっ!







突然、中型の魔物が出現した。

訓練のために放つにしても大きすぎる。



「ジルクハルト殿下!」


迷いなく護るためにジルクハルトの前に立ち魔術を発動させる。魔物に傷を負わすことは出来たが深傷ではないようだ。


「私が魔術を使ってもいいのか?」


「この魔物は身体の皮膚が硬いようです。それに対応できる魔術を発動してください」


「わかった」


ジルクハルトが詠唱すると闇魔術の陣が構成され、発動すると魔物は倒れた。闇魔術の威力の大きさが羨ましい。


「まだ息があります。ジルクハルト殿下、とどめを刺すことは出来ますか」


「あぁ」


ジルクハルトが光魔術で魔物を清めたことで姿が小さくなり息を引き取った。


「ジルクハルト殿下の訓練でしたのに手を出してしまい申し訳ございません」


「問題ない。護衛としては正しい判断だ」


その言葉に安堵するが、レオンとしては自分より威力のある魔術を使えるジルクハルトに敗北を感じる。護衛が護衛対象に護られそうで悔しい。



(魔力量の違いにしても基礎体力と体幹、それと魔術のセンスはジルクハルト殿下に及ばない。私が出来ることは魔術を発動させるまでの僅かな時間、攻撃されないようにサポートすることかしら)



魔物の訓練は三時間。その間、魔物が出現すれば対応し、出現しない間は、その場で待機となる。



中型の魔物を討伐してから二時間が経過した。もう討伐訓練はないのだろうと疑問に感じていると、とても強い魔力を感じ、恐る恐る後ろを振り返る。


ジルクハルトも魔力を感じたのか瞬時に結界を張った。



「お……大型の魔物が何故?」



この魔の森は王都に近い。

ここで大型の魔物が出現すると、短時間で王都へ移動されてしまう。


レオンは急いで待機している騎士と魔術師へ合図を送る。その合図を受け取った教師は訓練に参加している生徒に帰還するよう合図を送り、魔の森を離れる。


騎士と魔術師は討伐のために、魔の森へと入るが数名は騎士団へと連絡のために森を離れる。


大型の魔物がレオン目掛けて攻撃を仕掛けたが、間一髪でかわした。

ジルクハルトを護るために体勢を戻すと、いたはずの場所にいない。周りを確認するが姿を見失った。


「レオン!こっちだ」


右斜め前方にいた。急いでその場所へと移動すると、既に陣を構成しており、レオンが魔物から離れたタイミングで発動させた。


攻撃は魔物に当たったが大きな傷を与えることは出来なかった。


「もう一発放てば隙が出来るはずだ。その時、七時の方向へ走るぞ」


「はい!」


ジルクハルトは直ぐに魔術を発動させた。先程より大きなダメージを与えることができ、魔物はよろめき、後ろに倒れた。


致命傷には至らないだろう。

起き上がるまでの数分で、どこまで遠くに逃げ切れるか。



恐らく現場に騎士が到着しても討伐はせず、魔術師が結界を張り王都への侵入を防ぐにとどめるはずだ。


今回の付き添い人数では足りない。

騎士団が到着してからの討伐では夕刻を過ぎるだろう。

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