33.ジルクハルトの婚約者選定①
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放火事件から三週間が経った頃に部屋を移動した。セドリックと同室なら客間の利用となり、別室なら近衛としてジルクハルトの隣室になると説明され、レオンはセドリックと同室でと即答した。
それ以来、王城の客間を利用している。
市井に部屋を借りることをジルクハルトへ伝えたが護衛として側にいた方が便利だからという理由で願い叶わず王城に留まっている。
部屋の移動について説明をしているクロードは淡々としていたが、ジルクハルトはとても機嫌が悪そうだった。セドリックは無表情であったが。
アマルフィ公爵家の夜会が終わって一ヶ月経つ頃、その夜会で出逢った令息令嬢が婚約を発表し、夜会の成果が報告されている。
クロード本人が婚約者を見つけていないので、また、アマルフィ公爵家で夜会が催されるのではと期待する者もいる。
が、この一ヶ月でクロードは数度、シルヴィアと会う時間を作っていた。
誰にも知られないようにしてクロードはシルヴィアとの時間を楽しんだ。
セドリックが入学して四ヶ月が経ち、定期テストでも高得点で首位を維持している。二点差で二位がライナハルトだ。
四ヶ月が経過してもセドリックはライナハルトと話す事はなく、王城ですれ違うこともない。借りている部屋が王族の居住区と離れているということもあるが、執務室付近を歩いていてもライナハルトを見かける事がない。
ジルクハルトは最終学年となったことで婚約者問題が再浮上し、貴族会は行方不明のレティシアは死亡とみなして新たな婚約者の擁立を始めた。
ゼロから考えて婚約者候補を擁立したため、既に婚約者のいる令嬢の名前も挙がっている。殆どの令嬢はオースティン侯爵家に関わる家の娘であるが、ラウルとリベルトの婚約者も候補として名を連ねている。
オースティン侯爵はライナハルトを推しながらジルクハルトにも自身の手駒をあてがい外戚として確実な地位を得ようとしている。
度々、妹である側妃への面会希望を出しているが本人から断られている。嫁入りする際に仲違いした噂は本当なのだろう。
「この後の議会で婚約者の選定方法が決まる。どうするんだ?既に決定事項として議会は動いているぞ」
「陛下や宰相は承認していないから決定ではない。それに、レティシアは生きている」
「でもなぁ……証拠を見せろと言われるぞ。見せられるのは市井で見つけた髪の毛だけだろ」
「最悪の場合は婚約者の選定方法を難易度の高いものにすればいい」
「それは?」
「私の命を救った者」
ジルクハルトはクツクツと笑っている。
「その選定方法だと筆頭候補はレオンになる」
「ならレオンにするか?」
「現実的な選定方法を求められる。相手が男になる選定は無理だ」
「レティシア以外は婚約者として認めない」
「それで貴族会を黙らせてこい」
「どうしても決めろと言われたらラファエル侯爵令嬢の名でも出すか?」
ジルクハルトに話していないが知っていたのだあろう。クロードとシルヴィアの逢瀬を。クロードがシルヴィアに好意を抱いていることも。
「お好きにどうぞ」
「嫌ではないのか?」
「王太子殿下の決めることには逆らいません」
「好きになった女を諦めるほど俺は愛されているようだな」
「いいえ?報復は必ず。そうですね……貴方とシルヴィア嬢が婚約したなら私はレティシア嬢と婚約するでしょう。それはジルクハルトにとって一番ダメージが大きそうですね」
「ぐっ……」
負けた負けたと、ジルクハルトは降参する。
ジルクハルトは色恋話のなかったクロードを揶揄いたかっただけだ。
「隙を見せるとルル嬢と婚約が決まるぞ」
「それはない。マインラート家は彼女を離さないだろ。魔力量が多い令嬢は貴重だからね」
歴代、優秀で魔力量の多い魔術師を輩出しているマインラート家は家柄以上に魔力量を重視している。
「オースティン侯爵が関わっているからあてがわれるのはエミリカ・ナタニエル伯爵令嬢だろうな。最近、オースティンの邸へ出入りしている」
「そんなに人目につくようなことをするか?」
「と、見せかけて別の令嬢か?どれだけネタを持っているんだよ。いいご令嬢はライナハルトに勧めているさ」
以前、ライナハルトの婚約者としてエミリカの名前が挙がっていた。諸事情で婚約者候補から外れたが、その事情が重要だから貰い手を探す方が大変だ。
時間だ、と話を区切りジルクハルトは執務室を後にする。扉の外で控えていたレオンはジルクハルトの後ろに付き添う。
「今日の会議は長引くと伺っています。重要案件なのですか」
「あぁ、この国の未来に関わるな。レオン、お前は私が他の令嬢と婚約する事が決まったらどう思う?」
ジルクハルトは振り返りレオンを見る。突然の質問にレオンは首を傾げた。
「その、ジルクハルト殿下に相応しく、この国のためになる方なら喜ばしい限りです」
尋ねられた事でジルクハルトの婚約者問題を思い出す。恐らく会議では婚約者候補のご令嬢達から選定することになるのだろうと考えにレオンは至った。
(ジルクハルト殿下の側にいたことで昔の私は誤解していた事がわかった。でも、国のためにしっかりとした身分のご令嬢との婚姻は必要不可欠。亡くなられた王妃が他国の出身なのだから国内の古参貴族から……)
視線を下げ考え込んでいた姿をジルクハルトは気づいていた。その様子を伺い、ふっと笑みを溢す。
「そう気に病むな。俺がレティ以外を妻にする事はない」
頬に触れジルクハルトは屈んでレオンの瞳を覗く。レティシアと同じ翡翠の澄んだ瞳。
唇が触れそうな距離、いや、ここは会議室近くの廊下だ。いくら男色の噂があっても現場を目撃され噂を確定させる訳にはいかない。
レオンは慌ててジルクハルトから離れ腰の剣に手を添えた。
「ジルクハルト殿下、次、同じ事をしたら剣を抜きます。正当防衛になりますよね?」
笑っているが黒いオーラを纏ったレオンに圧倒されジルクハルトは観念し『次は無理にはしない』と約束した。
(思わず目を瞑りそうになったじゃない!!あの男は何を考えているのよ!!無理にはしないって何よ!)
近衛が護衛対象に剣を抜くなんて、と、自分で突っ込みつつ、身の安全を護ることを優先した。それはジルクハルトを護ることに繋がるはずと、矛盾していることに気づきながら。
会議室へと到着し、ジルクハルトは中へと進む。護衛であるレオンも入室が許可された。狸と狐の馬鹿し合いだと言うが、思惑を持った貴族達を黙らせるのか掌で転がされる振りをするのか……ジルクハルトの表情からは読めない。
レオンも表情を消しジルクハルトの座った席の後ろに控える。
ここでジルクハルトの婚約者が決まるとレティシアとして会うことは永遠に叶わなくなる。
それを願っていたのに決まらないで欲しいと矛盾した感情が湧き出るーーーー