31.ライト・オースティンとの接触と参加目的
放火事件から二週間が過ぎた。
王城では変わらずジルクハルトの隣の部屋を利用している。レオンは、この二週間、部屋を変えて欲しいと頼んだが聞き入れてもらえないでいた。
王城に勤める貴族達からも、近衛騎士ではないセドリックがジルクハルトの隣室を利用していることを問題視し始めた。
クロードも事情を知っているとは言え特別扱いが過ぎると苦言を呈する程だ。
「だから、セドリックが同室である以上は部屋を変えるべきだ」
「何処へ?」
「他の近衛と同じように騎士が使っている棟が無難だろ」
「それこそダメだ。セドリックとの約束に反する」
「だが……」
「あいつの協力がなければ解決できないんだ。破れば永遠に手に入らない」
「なら客室か?使用期限は限られるぞ」
「四ヶ月」
「四ヶ月?」
「四ヶ月の使用許可を。その後、レオンは今の部屋に。それなら都合つくだろ」
「まぁ、四ヶ月後にセドリックは部屋を必要としないが」
「それで決まりだ」
最近はジルクハルトとクロードの二人で執務室に篭ることが多い。その間、レオンは扉の外で待機している。
「あの計画でいいのか?」
「あぁ。護って攻めるにはベストな方法だ」
「あの邸はどうする?」
「……夜会とか開かないのか?」
「誰が?」
「アマルフィ公爵家」
「……招待しろと?」
「全員纏めて招待すれば真意を隠せる。で、全て回収する」
「夜会だろ?一ヶ月後なら」
「頼んだ」
夜会の準備は夫人が担う。招待客も夫人が夫や子供の交流を考えて選定している。普段ならアマルフィ公爵家が招待しない相手をもてなす必要がある。
一ヶ月後の夜会開催を母親に頼んだクロードは後悔する。招待して疑問を抱かれても来たくなる餌が必要と説得されたのだ。
アマルフィ公爵家の夜会はお見合い会場になるだろう。
公爵家嫡男の婚約者探しと思われるように仕組んだ夜会を開催する。
令嬢だけではなく、アマルフィ公爵家の夜会で出逢ったという話題欲しさに参加する令息もいる。
公爵家の夜会でもジルクハルトは参加しない。あくまでも主役は婚約者のいない令息令嬢だ。
一ヶ月後のアマルフィ公爵家の夜会は社交界でも噂になった。アマルフィ公爵家の嫡男であり次期宰相候補のクロード・アマルフィは同年代の令嬢からすると一番の高位貴族だ。
ジルクハルトやライナハルトを狙うよりも現実味がある。それに、公爵夫人なら王妃や王太子妃、王女に継ぐ、女性にとって地位が高い立ち位置だ。
公爵夫人なら自由が効く。
夫となるクロードはジルクハルトの側近であるから帰宅も遅い可能性がある。
あの邸で大きな顔をしていられる。
沢山の使用人を従えることができ、夜会や茶会を開けば自分より高位の身分となる女は来ない。王城で開催される茶会があっても年に数回、その時だけ王妃や王太子妃にゴマをすればいい。
必要なことは夫が全て上手くやってくれる。
何より、アマルフィ公爵家の私財は膨大だ。それを制限があっても今よりも多く自由に使える。
令嬢達はクロード・アマルフィの興味を惹くために念入りに準備する。例えクロードに見染められなくても、アマルフィ公爵家が主催する夜会なら他の令息も高位の身分なのだから何かしら引っ掛けられるだろうと打算する者が多い。
全ての令嬢が考えていることではないが……純粋に婚約者を探すために参加する令嬢もいる。
マリアンヌ・ヴィクトリウスも招待状を受け取り、両親と共に参加する。
両親はアマルフィ公爵と言葉を交わすため。そして、ジルクハルトの婚約者となれない可能性がある以上、マリアンヌを高位貴族へ嫁がせる準備も必要だからだ。
夜会当日
開場時間になると招待客が集まり、ヴィクトリウス侯爵令嬢の姿もある。
ダーク伯爵家の息子のブルネド、オスキャル伯爵家の息子のダンも招待していた。
オースティン侯爵家には息子がいる。ライト・オースティンはジルクハルトより二つ上だが婚約者はいない。
オースティン侯爵家に娘がいればライナハルトの婚約者にしただろう。娘が気に入ればジルクハルトに当てがおうとしたかもしれない。
アマルフィ公爵家の夜会には滅多に顔を出さないが、珍しくライトが参加している。
大方、遊ぶために来たのだろう、そう考えるとクロードは深くため息をつく。
目眩しになると思い子爵家の令嬢令息へも招待状を出した。それはいい。問題は、伯爵家でも下位であったり子爵家や男爵家では貞操観念が低い者もいる。
ライトの遊び相手は貞操観念が低く爵位の下の者だ。遊ばれても文句が言えない相手を選んでいる。
既に夜会が始まってから三時間が経過している。主催者ということもあり数名の令嬢と言葉を交わしダンスをしたが、クロードは特定の令嬢と一緒にいる様子はない。
たまに一人になり会場を見渡していた。主催者として参加者を観察するためだ。
「アマルフィ殿、お招きいただき感謝する」
「オースティン殿か。ついに婚約者を決めるのか?」
「それは君の方だろう。私は心に決めた人がいるからね」
いつになくライト・オースティンは饒舌だ。到着早々に令嬢と姿を消したのだから発散して開放的にでもなっているのだろう。
「君に心に決めた人がいるなんて初耳だ。どこのご令嬢だ?」
「それは言えないね。この国一番の美女だ。私にこそ相応しい女性だよ」
「ご令嬢との仲は良好なのか?」
「口説いているところだ。捕まえたら身も心も私無しでは生きていけないようにしてみせるよ」
恐らくご令嬢はこの夜会には参加していない。なら、どのご令嬢か。既に婚約者がいるなら参加しないだろうし、興味がなければ両親を説得して夜会への出席を……取り止めているか。
「この夜会には何しに来たんだ?」
「体を持て余している女性を慰めようと思ってね。優しいだろ?」
「あぁ、優しいな。未婚の令嬢ばかり手を出すなよ。侯爵家へ嫁ぎたい女性は多いだろうからね」
「今夜の主役はアマルフィ公爵家の嫡男だよ。私は添え物みたいなものさ。その分、楽しませてもらうさ」
来て早々に一人を抱いたのに、まだ足りないのかと突っ込みたいが我慢する。機嫌を害して面倒は起こしたくない。
「あのご令嬢はどうだ?先程からオースティン殿を見ているようだが」
「あぁ、あれね。あれはダメだ。君もわかるだろ?」
オースティンに熱い視線を送っていたのはマリアンヌだ。オースティンなら喜んで連れ出すと思ったが違うようだ。
「何がだ?」
「あれは頭が弱い。仲間内では有名だからね」
「へぇ、選んでいるんだな」
「面倒にならない相手が一番だ。本当は既婚者がいいんだろうけど、初心さがあった方が唆るしね。それに、姉の方が美味しくいただけそうだ」
マリアンヌの姉はレティシアだ。
ジルクハルトの婚約者を、そのように見ていた事に腹が立ち態と表情に出してオースティンを睨みつける。
「こわいこわい、冗談だ。でも、妹より姉の方が誠実だろ?それなら結婚相手には誰もが姉の方を選ぶだろうさ。生まれてきた子供が他の男の子供なんてごめんだね」
まぁ、マリアンヌを相手にすると子供の父親の問題は出てくる可能性がある。それに魔力がないなら問題外だ。
「アマルフィ公爵家としては、あそこの伯爵令嬢なんてどうだい?」
「あれは来てすぐに君と休憩していた令嬢だろ。私の好みではないな」
「なんだ知っていたのか。共有するのも楽しいのに」
ケラケラと下品に笑いながら断りを入れてオースティンは立ち去った。目当ての令嬢を見つけたのだろう。
途中、マリアンヌがオースティンの腕に手を絡めようとしたが断られていた。
こちらに来られる前に適当に会場を抜けようとした時、ふと、視界に入ったプラチナブロンド。
とても、とても美味しそうに食事をしている。夜会の場で一人で食事をするのは珍しい。
あれは確か……シルヴィア・ラファエル侯爵令嬢だ。レティシア嬢が茶会を開いた時に必ず参加していた令嬢で仲が良さそうだった。
クロードは魅入っていた。
シルヴィアの事は何度か見かけていた。
無意識にシルヴィアの方へと向かっていた。
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