28.魔力属性検査
入学直後は、特待生であるセドリックのいるクラスへと足を運びにくる生徒も多くいた。
高位貴族と下位貴族でクラス分けがされているが、特待生で成績の良い者は将来、高位貴族と関わることが多い可能性があるので同じクラスになる。
これはレオンが編入した時にクロードから学園に申し付けて新たに決まったことだ。
実際、過去に学園へ特待生として入学した平民は、大臣をしている高位貴族の補佐を担当したり外交を担当している者が多い。
ライナハルトとセドリックは同じクラスになっても直接、話をすることはない。
身分が一番下であるセドリックから話し掛けることはないし、ライナハルトも自分の周りに侍る者たちが害さないようにするために話しかけない。
学園へ入学して一ヶ月経ってから魔力属性検査が実施される。
学園で聴衆の前で属性を判定し偽ることは許されない。
殆どの貴族は魔力を持って生まれる。
貴族の血が薄いと魔力を持たずして生まれることがある。これは下位貴族や元平民に多い。両親のうち片方が下位貴族や平民だと子供に魔力が受け継がれない事が多いので高位貴族同士で婚姻する。魔力が多いのは伯爵家でも上位の家柄以上だ。
極々稀に平民なのに魔力を持って生まれる子供がいる。
ごく稀なことで『先祖返り』とされている。
これは数代前に高位貴族の血が混ざっていた場合だ。
高位貴族でも爵位を継がない魔力を持った次男が貴族席を離れて平民として暮らしたり、騎士となったりして、婚姻相手が魔力をもたない場合、数代後に魔力を持った子孫が生まれることがある。
レオンとセドリックも、それに該当するだろうと思われている。
マリアンヌは魔力がない。
これは父親が子爵家で母親が平民の元踊り子であったことで、魔力が受け継がれなかったためだ。父親は子爵位にしては魔力が多い方だったのに。
侯爵令嬢であっても魔力がなければ結婚相手が下位の伯爵や高位貴族であっても後妻か妾を望むしかない。
本人は王族へ嫁ぐことを夢見ているが……王族相手なら良くても愛妾だ。
それを解っていないのは本人達だけ。
ただ、ジルクハルトが寵愛し意思を曲げなければ妃とすることも可能だ。
この場合は、正妃との間の子に王位を継がせず魔力の多い令嬢を側妃として娶り子を成せば問題にはならない。
魔力属性検査では魔力量も測定する。
測定するための訓練場には在校生でも高位貴族が観覧する。ーーーー魔力のある者限定で。
高位貴族で魔力のない者は愛人や後妻の子供、諸事情で親の爵位が変わった者だ。
魔力のないものが新入生の魔力属性を確認する必要はないことから観覧席にはいない。
もちろん、マリアンヌも観覧席にはいない。
「これから魔力属性検査を行います。この検査は在校生も承認者となります。複数の属性を持つこともあるので、後から違う属性が発覚しても大きな問題にはなりません。その際は追加で属性を登録していただきます。ただし、魔力量の偽りは処罰の対象となります」
順次、属性の検査が行われる。
王城に登録している魔術師団の魔術師数名の目の前に置かれている水晶に手を翳すことで足元に陣が浮かび上がり属性が判定される。
故意に属性を偽る事はできるが、大体は、魔力の質の多い属性に反応する。
セドリックの番になったが、何故か、先にライナハルトが水晶の前に進んだ。
水晶に手を翳し足元に陣が浮かび上がる。
業火の炎に包まれた。
上位の属性である炎だ。現国王が炎だから受け継がれたのだろう。
「ジルクハルト殿下はご存知でしたか?」
「幼い頃に攻撃魔術を教えたことがあるからな。アイツの炎は攻撃に向いている」
最後になったセドリックは、一度、こちらを見た。レオンではなくジルクハルトを見て口の端を上げた。
(約束通りにしてよ……!)
今朝、魔力属性検査では水を判定させる方法を教えた。セドリックはやり方を覚えたはずだ。素直に従っていたから。
水晶の前でセドリックで立ち止まる。
平民であることから魔力はないだろう、と、皆、席を立つ準備を始めていた。
水晶に手を翳すと足元に陣が浮かび上がり、魔術師達が慌てた。そう、想定とは違い魔力量が多いのだ。
慌てた魔術師達は結界を張り生徒達へ危害が及ばないようにする。レオンもジルクハルトを守るためために結界を張ったが、魔力の暴走は起きなかった。
セドリックが光に包まれている。
それも、レティシアよりも濃く強い光だ。
「ひ……光!魔力属性は光です!!!すぐに魔術師団長へ連絡をっ!!」
魔術師が驚き、観覧席にいた教師や生徒達も平民が光の属性であることに驚いている。
「すいません、魔力量は確認できましたか?」
「いや、まだ終わっていない……ん?魔力を封じているのか?」
「はい。魔力が多いので幼い頃に封じました。兄しか解除できません」
光が落ち着いた頃、セドリックの魔力が放出、暴走しないよう封じられていることに気付いた。
レオンは思わず舌打ちをする。
それをジルクハルトやクロード、ラウル、リベルトが見逃すはずもない。
「レオン、解除しろ」
「…………」
幼い頃、セシルが病弱だったのは魔力量が多く器となる身体が小さくて魔力量過多の状態だったからだ。
小さな身体でもコントロールできれば問題ないが、それすら出来ないほどの魔力量だったので実父が封じたのだ。
それでも魔力のコントロールが難しく酩酊状態になることが多く、身体が成長した頃には実父は亡くなり解除者がレティシアに継承された。
「レオン、大丈夫だ。私がいる。セドリックに危害は加えさせない」
ジルクハルトは観覧席に座っていた。その後ろに立って控えていたレオンは手を引かれ耳元で囁かれる。
「はい……」
レオンはセドリックのいる方に身体を向け手をかざす。
「解除」
詠唱し終わるとセドリックが手を翳していた水晶に罅が入り、パリンーーーーと音がして割れた。
「ま……魔力量測定不能!正確な魔力測定は王城で行います!!」
測定できない程の魔力である場合は、該当者の素養や性格を緩和見て対応を決めるため、一度、王城へ招く必要がある。
特別待遇と勘違いさせないために招待するのではなく『王城で魔力量の測定を行う』としている。
「レオン、セドリックの魔力量を知っていたな?自分と同じ、だったか?」
「いえ……自分と同じか少し多いくらいです。少しの捉え方の違いでしょう」
言葉遊びである事はわかっている。
嘘はついていない。
言い方が悪かっただけだ。
「すっげぇ……レオンの弟って魔術師になるのか?治癒術師でもいいんじゃないか?文官より高給だぞ」
ラウルが話した事は知っていた。
光属性があると治癒ができる。
治癒術師は国にとっての宝だ。
王城に部屋が与えられ、王族への治癒を第一優先としている。
現在は妙齢の女性が一人、治癒術師をしている。治癒術師は王族とは婚姻しないが、王弟や王家の血を継いでいる家系の嫡男と婚姻する。
「うーーん……あまり治癒術師にはなって欲しくないかな」
王城に王家を優先して治癒する女性の治癒術師がいる場合は、男性の治癒術師は争い事が起これば現場へ赴くことになる。他国との争いであれば最前線の近くで怪我人の治療にあたる。
危険な場所へ行かせたくないから文官になって欲しい。
レオンは自分の我儘だろうか、と思い悩む。セドリックから何をしたいのか聞いた事はなかったから。
(将来についてちゃんと話を聞こう。私一人で張り切って満足していたみたい)
放課後、セドリックは魔術師同伴の元、王城へ赴くことになった。
ジルクハルトも放課後はセドリックの魔力測定に付き合うため生徒会の仕事はせずに直ぐ帰宅することになった。
平民なのに魔力持ち。
親の代より前に高位貴族の血が絡んでいるのかも?と、思う人は思う。
親が平民なら訳有りで家を出たのかも。とか。