26.ダンスの噂とレティシアの情報
先日の春夜会でジルクハルトがレオンの手を取りダンスをしたことで、想定通り『ジルクハルト殿下は男色なのでは』と噂されている。
それだけではない。
『男色であることを隠すためにレティシア嬢を探す振りをしているのではないか』とまで噂されている。
例え男色であっても、子を成す必要があることから婚姻相手は必要だ。
男色ならレティシアである必要はない。
男との情事に目を瞑れば、自分が王太子妃、未来の王妃になれると思えばジルクハルトの婚約者になることは魅力的だ。
お妃教育の大変さなど知らず、王太子妃や王妃の良いところしか見ていない令嬢からすれば、王城で贅沢な暮らしが出来き権力者に愛され気に入らない者を無碍に扱っても咎められる事のない地位に見える。
「あの夜会ではルルも驚いていたよ。レオンが女性のパートを完璧に踊って、しかも、誰よりも正確に綺麗だったからね」
ドレスではないことでレオンのステップは丸見えだった。間違えても隠す事ができないのは、余程、ダンスに自信がないと出来ない。
「レオンは何故、女性のパートを踊れたんだ?」
リベルトは『俺は練習しても無理だ』と。リベルトの婚約者も驚いていたそうだ。
「弟にダンスを教えるのに私が女性のパートを踊れた方が練習になるから」
侯爵令嬢だったのだから踊れて当たり前。
丁度良い言い訳は弟しか出てこない。
でも、これも事実。
男性パートのステップを覚えてから、セシルにはダンスの経験がないことを思い出し、せめて、学園へ入学する前に基本のステップくらいは教えておこうと思い立った。
それで久しぶりに女性パートのステップを思い出すために講師の動きを確認し、自宅ではセシルにダンスを教えていた。
セシルは飲み込みが早く、基本のステップ以外にも柔軟に対応して、ある程度は踊れるようになった。が、音楽を流せないから完璧に踊れるのか確認ができない。
「レオンは弟のためなら何でも出来そうだな」
「まぁね。弟のために生きているから。将来は弟の世話になる」
「レオンらしいや」
そうして突然手を取られホールドを促される。リードを渡され男性パートのステップを踏む。
今は昼の時間で食堂にいる。
多くの生徒が、突然の出来事に食事を中断した。
ラウルが、レオンの手を取り女性パートのステップを踏んでいる。身長差はあるが、何とか、レオンはリードを取っていく。
数分、ダンスをした後は開放された。
「どうだっ!俺も練習したんだよねー。女の子は凄いよね、ヒールでこのステップはキツイだろうね。俺はこれが限界!レオンのリードは踊りやすいな」
「あ……ありがとう。突然で驚いた」
男性パートも踊れる、ラウルはそれを証明するために生徒の多い食堂で踊り出したのだ。デザートを食べている生徒が多いから、数分程度のダンスなら迷惑にはならないだろう。
「ラウル、あまりレオンを驚かすな」
「ジルクハルトばっかズルイじゃん?だから俺も踊ってみたんだよ。今度、俺がジルクハルトの相手をしてやろうか?」
「それもいいかもな」
愉快に笑うジルクハルトは機嫌がいいのだろう。あまり、二人きりにはなりたくないから学園が終わった後に王城へ行きたくないと思ってしまう。執務中はクロードが出入りするが、それ以外は二人きりだ。
夜会と昼のダンスの所為でチラチラとレオンを見る生徒の数が増えた。コソコソと話したりと気分が良いものではない。
仕舞いには『ラウルまで籠絡したのでは?』と噂されて迷惑極まりない。
しかも、ルルは『レオンと共有するなら光栄だ』と、爆笑しながら言い出す始末だ。
学園での授業と生徒会活動が終わり帰宅して王城での執務時間になった。
数日程度で噂も収まるだろうけど、今はジルクハルトの機嫌の良さの方が気になる。
王城へ到着後は与えられた部屋で護衛の制服へと着替える。
この部屋はレティシアの頃に与えられていた部屋より少し狭いが、今住んでいる家より広く質の良い家具が揃えられている。
ジルクハルトの部屋とは違い、アンティーク調で女性の部屋ほどの華やかさはないが百合の紋様が多く使われている。
護衛用に近くに部屋が用意されており、直ぐに使えるように一通りの家具が揃えられていたようだ。
レオンが護衛に着くまでは使う予定のなかった部屋。レティシアがジルクハルト隣に部屋が必要なら使っていたかもしれないと。
着替えた後はジルクハルトの部屋へ迎えにいく。
部屋へと入ると既に着替え終えていてソファーに座り書類に目を通していたようだ。
ーーーー優しい顔をしている
「嬉しそうですね、良い報告ですか」
「あぁ。レオンが来てから良い事ばかりだ。レティシアの目撃情報だ」
「そ、うですか。良かったですね。どちらで目撃されたのですか?」
どこで見られてしまったのか、過去か現在かーーーーーー
「デマだろうな。南にあるダーク領の修道院だそうだ。どう思う?」
ダーク領、ダーク伯爵の息子はライナハルトに侍っていたはず。
「さぁ、どうでしょうか。確認してみない事には判断できませんね。修道院だと弟は何処にいるのか気になります」
「そうだろ?弟の情報は死んだ、と」
「弟が亡くなって修道院はありえる話ですね」
「レティシアの属性が光なら治癒が可能だ。治癒ができない即死なら殺害された事になる。なら、何故、レティシアは生きている?慰み者になった後に殺されるか、弟と一緒に殺されているだろう」
ついでに、と、情報源を辿るとオースティン侯爵家の手の者が関わっているようで、騎士を派遣してダーク領へ行くのは得策ではないと判断した、と。
ジルクハルト直轄の影が様子を確認しに行ったようだ。
「それと、もう一つの報告は信憑性がある」
「もう一つですか?」
「王都から寄付金が届けられている。定額を定期的に。ヴィクトリウス侯爵領の教会宛だ。二箇所あるが、交互に寄付金が届けられている。それも、匿名で」
いつか知られると思っていたが、もう少し、気づかれずにいたかった。
「今もなお、寄付金が届けられている。貴族からすると少額だが、平民からすると生活費の一部くらいだ」
「そうですか」
「だから、二人は生きていると俺は考えている」
生きていて嬉しそうというよりも、寄付金が届けられている事に満足しているような……寄付をしている行為に安堵しているようだ。
「ジルクハルト殿下?」
「ん?あぁ……いや、生活に困ってはいないのだろうな、と。食べる物に困っているなら寄付は出来ないからな」
「えぇ、最低限の生活は維持出来ているのでしょうね」
次の寄付金を送るタイミングから取り止めてしまえばジルクハルトに気づかれる。レオンとセドリックがレティシアとセシルであることに。
暫く続けて寄付を中断し、学園を卒業した後に再開しよう。
執務室では紅茶を出すのは侍従の仕事、毒味をするのは護衛の仕事、両方やる意味あるのか?と突っ込みたいが面倒なので毒味もする。
ジルクハルトは笑っているが、自分で自分の注いだ紅茶の毒味をする意味がわからないのはジルクハルト以上に理解している。
毒味をする必要があるのか?と、最初の頃に問うてみたが、『ないけどしておけ』と適当に返されたので自分で紅茶を注いで自分で毒味をする。
レオンは何のための毒味なのか、もう、毒味していれば文句言われないから面倒だしやっておく、と、消去法で毒味している。
稀に、気づいてくれたクロードが『意味ないことはやめろ』と止めてくれる。ラウルがいれば代わりに毒味してくれるが、ジルクハルトが嫌そうにしているし視線が刺さる。
リベルトなんて我関せず、面倒事に巻き込まれないよう、執務に集中している。
現実逃避、それが心を安定させる。
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