表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/73

25.嵌められて逃げて

それはほんの数十秒、考えが纏まらなくて油断した。違う、油断ではない。見惚れていた。ふっ…と微笑んだジルクハルトの顔に。



だから、額の柔らかい感触が何か、理解するのが遅れた。



何が起きてたのか、いや、今、何をされているのか、理解が追いつかない。

額に頬、鼻に首筋に次々に降ってくる柔らかい感触に…………。



「やっ……やめてくださいっ!!本気で怒りますよ!!」



理解できて慌ててジルクハルトの肩を押し除け睨みつける。


「そうか、それは困るな」


困っていないだろとは突っ込まない。だって、嬉しそうな顔をしているから。


「レティシア様に失礼になりますからっ!!」


「レティにならしてもいいのか?」


な、んで。

そんな真面目な顔で聞くんだ。

レオンが知る訳ないだろう、と、下唇を噛む。


「ご本人に確認してください!!」


「俺はレオンに聞いているんだ」


レオンにレティシアの事を聞く意味が理解できない。なのに、なんで、当たり前のように聞くんだ。その声音に、その瞳に縛られる。



「貴方が、貴方が……レティシア様に想いを告げて受け入れられたら、してもいいんじゃないですか?!それか、婚約者なら気にせず出来るんじゃないですか?!」



なんで、レオンがこんな事を言わなければいけないんだ。気持ちが、レティシアの気持ちなんか思い出したくもないのに。



「そうだな、婚約者なのだから気持ちを伝えて受け入れてもらうのが手っ取り早いな。レティは私以外には渡さない」



だ、から。

そんな真剣な瞳で見つめないで。



「そ、ですね。それはレティシア様にお伝えください」


これで話を終わらせよう、そう考えジルクハルトの手を払い除け寝台から降りる。


「あと、お前が気にしているような醜聞にはならないから安心しろ。ワインを飲ませ過ぎて寝てしまったからソファーを貸すと伝えた」


寝室からリビングルームへ戻るとソファーには制服の上着と掛けるために用意されただろうシーツがあった。


自分で脱いだ覚えがないということは、ジルクハルトが脱がしたのだろう。寝るくらいなら上着を着たままでも構わないのに、何故、脱がされたのか考えたくもない。


シャツのボタンを止め身だしなみを整える。


ジルクハルトは寝室から出てすぐの壁に寄りかかり腕を組んでレオンの様子を眺めている。


「シャワーを浴びていくか?」


「結構ですっ!勤務時間が終了しているなら帰ります」


ジルクハルトのペースにのまれるのが怖くてレオンは上着を持ち扉に手をかける。が、開けようとした時に後ろから手を止められる。


すぐ背後にはジルクハルト。

自分より背の高い、ジルクハルトが背後から手を押さえ腕で囲うようにしている。



「そう怒るな。虐めたくなる。それに、お前に害を成す者がいれば、俺が護ってみせる……次こそは」



耳元で囁かれて心臓の音が煩くて最後の方は聞こえなかった。護る?その後は何を言ったのか?それは誰に言ったのか……レオンなのかレオンにレティシアを重ねているのか……聞き返せず、昨夜の醜態を詫びて部屋を後にした。


扉の外の護衛の一人はジェイドだった。


「よぉ、大変だったな。お前が酔って寝ている姿を初めて見たよ」


「は?」


苛々している所為でレオンはジェイドへ冷たく当たってしまう。もう、八つ当たりだ。


「殿下に言われて、お前にシーツを掛けたのは俺だよ。その時にレオンは酒に弱いのかと聞かれてな」


「そうか、済まない。ありがとう。いや、もう、昨夜のは護衛失格だよ」


「そうか?ジルクハルト殿下は楽しそうだったぞ。主の気分を良くするのも護衛や侍従に必要な事だろ。次からは少しでもアルコールを打ち消すようにな。お前の腕なら殿下にも気づかれないさ」


「あぁ、絶対にそうする。可能な限り毒味以外で酒は口にしない」


朝早い時間、王城を出て市井へ向かう。

泊まることは伝えているからセシルも心配はしないだろう。




自宅に着くとセシルはいなかった。

テーブルの上の置き手紙には、制服の仕立てのために外出すると書かれていた。早い時間だが、他の用事も済ませるのだろう。




昼になり食事の支度をしていると扉の外が騒がしいことに気付いた。



(セシルが友達でも連れて帰ってきたのかしら。……そう言えばセシルの友達に会った事ないし話を聞いたこともないわ)



扉を開けると、ジェイドがセシル……セドリックに絡んでいるところだった。相変わらず仲がいい。


「よぉ、レオン!昼を食わしてくれよ。夜番明けで腹減った」


「うちで食うな!他所へ行けよ!」


「相変わらずセドリックは小言が多いっ!!俺、お前の兄ちゃんの友達だぞ」


「セドリック、可哀想だから家に入れてあげなよ。食事くらいいいだろ」


セドリックとジェイドを一緒にすると騒がしい。ジェイドがセドリックを揶揄い、セドリックが嫌がる、の、繰り返しだ。


本当の男兄弟ならセドリックとジェイドみたいな関係なのだろう。レオンとセドリックだと、ただただ、セドリックがレオンを甘やかしているだけだ。


「レオンは優しいな。セドリックも見習え」


「貴方は人として兄さんから学ぶべき事が多そうですよ。ジェイドこそ兄さんを見習ってください」


「お前っ……何、当たり前のことを言ってるんだ。レオンの方が人として優れているのは当たり前だろ。学ぶべき事が多いのはわかってるよ」


ジェイドは真面目な顔をして告げる。

その返しにセドリックは驚くも、あまり表情には出さない。無視してテーブルについた。


「ひっで!無視かよ!」


「兄さん、食事にしよう」


「おーい、セドリック、無視するな」


もうここまできたら、いつものパターンだ。

レオンは黙って食事を用意して席につく。ジェイドも、いつもの場所に座り食事を始める。


「レオン、念のために聞くが貞操は無事か」


突然、溝落ちをくらった気分だ。

セドリックの視線が痛い。


「問題ない。朝までソファーで寝ていたが、ここの寝台よりは寝やすかった」


「王族はソファーも寝台以上かよ。羨ましい」


「兄さん、貞操の危機だったの?」


セドリックはお世辞ではなく、とても綺麗な顔をしている。実父も男らしい筋肉のついた頼りのある身体つきだったが、顔がよく女性に人気があったそうだ。それも、現在の陛下が王太子の頃は、その人気を凌ぐ程だったとか。


顔は実父に似ており優しく美しい顔立ちだ。貴族として社交界に出れば、令嬢たちが放っておかないだろう。


平民だと考えても、美しさと頭の良さで人気になるはずだ。息子のいない貴族なら、娘と婚姻させてもいいと思えるくらい。


レオンの教育もあり、紳士的に振る舞うことも出来る。侯爵令息として必要な立ち振る舞いができるだろう。


その美しい顔立ちは見惚れるが、今の笑顔は怖いだけ。


口は笑っている。目を細めてはいるが笑っていない。それなのに優しい口調で、美しい所作で、ただ、視線が痛い。


「危機ではないし何もなかった。問題ない」


「へぇ……それはどう問題がなかったのかな?」


「ジルクハルト殿下は男色ではないか。それは安心した」


「兄さん、今すぐ王都を出ようか?」


「セドリック、ジルクハルト殿下の護衛がいなくなる。レオンは優秀なんだから近衛を辞められると困る」


「ジェイドは黙ってて!」


セドリックが本気で王都を出ようとしていないことは解っているのに一々、ジェイドが突っかかるから話がややこしくなりそうだ。


「二人とも、私の貞操は無事だし何もないしジルクハルト殿下が男色かはわからない。王都は出ないしセドリックは学園へ入学する。以上だ、わかってくれたか?」


「「はい」」


レオンの本気の笑み何をしでかすか解らない。以前、とんでもない目にあった二人はアッサリと承諾する。



これ以上、貞操と王城でのことは話さず、当たり障りのない話をした。


ジェイドは市井での捜索に必要な拠点を探していたようで、この近くに部屋を借りるらしい。


その時、食事をする際は立ち寄ると話しているので、相手をするのはセドリックになるだろう。学園へ入学するまでではあるが。


↓こちらも連載中!10月6日に完結します。

「狂う程の愛を知りたい〜王太子は心を奪った令嬢に愛を乞う〜」

https://ncode.syosetu.com/n4767gl/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] もうこれはばれてますね、おいしいです、ご馳走様です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ