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24.ジルクハルトの罠に嵌る

「シャワーを浴び終わる頃、部屋に来てくれ」


「畏まりました」


「レオンはシャワーを浴びるのか」


「ジルクハルト殿下の部屋を伺ってからにします。それまでが勤務ですから」


「夜会までが勤務だ」


「いいえ、部屋を伺うのでしたら、それまでが勤務です」


「堅いな。友人として招いたのだが」


「殿下と友人だなんて恐れ多い。護衛の職務をご理解ください」


「そうか」


ジルクハルトの部屋へ向かいながら言葉を交わすが、レオンの内心は焦っていた。護衛の制服は自分の貞操を護るもの。これを脱げば何かを失う恐怖がある。怖い。


護衛として何故、部屋へと呼ばれたのかわからないが、恐らくはライナハルトと話していたセドリックへの伝言だろう。


「シャワーを浴び終わるまで私の部屋で待っていろ」


「畏まりました」


ジルクハルトは部屋に着くと上着を脱ぐだけではなくシャツまで脱いだ。


鍛えられた筋肉質な身体にドキッとし頬が赤く染まりそうだ。

脱ぎ捨てた上着とシャツを片付けやり過ごす。ジルクハルトが浴室へ向かったことを確認し、その場に崩れ落ちた。



(ちょっとちょっと!いきなり脱がないでよっ!!ど……どうしようっ?!えっと……この後って……どうなるのっ?!部屋に二人きりとか、どうしたらいいの!!!)



上半身だけであっても目に焼き付いたジルクハルトの男らしい身体が頭から離れない。


先程の夜会で踊った時に軸がしっかりとして安定していたのは、鍛えていたからなのだろう。あの身体に支えられていた。


静かな室内にはジルクハルトがシャワーを浴びている音が聞こえる。浴室へ続く扉が、少し空いているからだ。



(だぁーー!もうっ!閉めろっ!!閉めたい!!でも浴室には近寄りたくないっ!!!)



レオンは壁際に立ち目を瞑り隣国との貿易について考えることにした。

もう、考えることは何でもいい。

ジルクハルトの事が頭から離れるなら何でもいいのだ。



暫くするとシャワーを浴び終わったジルクハルトが浴室から出てきた。


ガウンだけで出てくるかと思い覚悟を決めていたが、意外にも寝巻きを着て、その上にガウンを纏っていた。



(た……助かったぁーーーー!!)



ガウンだけで出てこられたら前がはだけているだろうし、そうなったら逃げ出していたかもしれない。


「レオンはそこに座れ」


指定されたのはソファーの長椅子。ジルクハルトが座るソファーの斜め前だ。


シャワーを浴びたジルクハルトは夜会と同じように髪をあげているが、水滴がある事で色っぽさが増している。撫で付けているのとは違い無造作なところが、さらに色っぽくなっているのだろう。


「ご用は何でしょうか」


さっさと用件を聞いて部屋へ戻りたい。部屋は隣だけど。レオンはさっさと終わらせてくれという雰囲気でジルクハルトに尋ねる。


「そう焦るな。酒に付き合え」


ジルクハルトは侍従を呼びつけワインを持ってこさせグラスを二つ用意する。


「勤務中には飲みません。それに私はお酒が苦手です」


「主の命令だ。飲むんだ。それとアルコールを打ち消すなよ?」


内心で舌打ちする。

命令なら口に含んでアルコールを打ち消してしまおうと考えていたのに。


「護衛ですから勤務中に飲みません」


「毒味も必要だろう。そのグラスに注いだ分は飲み干せ」


毒味と言われると飲まないとジルクハルトは口をつけられない。仕方なく口に含み毒がないことを確認する。


「毒はありません」


「そうか」


レオンが毒味をしてからジルクハルトはグラスに口をつける。


「ライナハルトが話していたことだが、出来るならセドリックには、それとなくライナハルトのことを気にかけて欲しい。優秀なら将来はライナハルトの側にいて欲しいと考えている」


ライナハルトの側近候補達は皆、オースティン侯爵家にとって都合の良い家の息子だ。ライナハルトとの能力差も大きく、とても王弟となる男の側近には不釣り合いだ。


「それはセドリックが決める事です。私からは何も言えません」


「そうだろうが、伝えておいてはくれるだろう?命令ではない。周りにいる子息達に惑わされず、ライナハルト本人を見て欲しい。それなら伝えてもらえるか?」


「畏まりました」


ライナハルト本人を見る、それなら問題ない。文官として働くにしても、同僚達のことは周りの評価ではなく本人を見て判断して欲しい。学園は貴族の集まりだから、上辺ではなく内面を判断する力を付ける場所だと思えばいいのだから。


グラスのワインを飲み干すと、ジルクハルトがワインを注ぎ足した。王太子自ら注いだワインを飲めないとは言わないよな、とまで言われてしまい飲まざるを得ない。


飲んでいる間、ジルクハルトに何かを問われ適当に相槌をしていた。問われた事に真面目に答えると正体が暴露るかもしれないから相槌で済ませていた。それでも楽しそうに、ジルクハルトはワインを勧めてくるが、四杯目あたりからレオンは記憶をなくした。




レオンが目を覚ますと陽が昇りカーテンの隙間から朝陽が差していた。


いつもと違う懐かしい柔らかい寝心地と、背中から包まれ、その香りと温もりに癒される。



もう一眠りしよう。



瞼を閉じ再び眠りにつこうとして違和感に気付いた。


知らない場所、いや、学園がある時は毎朝のように見ている部屋の窓だ。


寝起きの所為でぼうっとしていたが、よく考えると、昨夜の記憶が途中から欠落している。


レオンは真っ先に自分の身なりを確認すると、上着は脱いでいるがシャツは着ている。ボタンは上二つが外されているが、中は見えていない。


頭は人の右腕に預け、お腹の辺りに手がある。背中には人の温もり。


間違いない。

間違いなくレオンはジルクハルトの腕枕で眠りについていた。ついでに、お腹の辺りにジルクハルトの左手が添えられ、レオンは逃げ出せない。


寝息が耳にかかる。 

髪の毛が短い所為で耳が出ているから後ろから抱きついているジルクハルトの寝息が耳に触る。


どうしたらいいかと至難しているとジルクハルトの左手に力が入った。身動いだ時に手に力が入ったようだ。


この手が胸元にあったら、寝起きすぐに殴っていたかもしれない。いや、胸元にあった方が何も考えずに勢いで殴れたのに。


目が覚めて暫くすると頭がズキズキと痛みを伴っている事に気がついた。それに喉が乾いている。



(ワインを飲んだ所為だわ。アルコールを打ち消さなかったから二日酔いかしら)



ジルクハルトの腕から抜け出そうとモゾモゾ動いていると、急に抱きしめられ首筋に顔を埋められた。


「ひぃっ!」


思わず声が出た。声が高くなってしまい女のようだ。


お腹にある左手を避けて寝台から起き上がろうとすると抱き締められ耳朶を喰まれた。


「ふぁっ!」


気を良くしたジルクハルトは何度も耳朶を喰む。レオンはジルクハルトの手から逃れようと身動ぎシーツから抜け出そうとするがジルクハルトの力に敵わず腕から逃れる事が出来ない。


「そう動くな。食いはしない」


微睡の中にいるのか、いつもより、ゆったりとした口調で耳元に囁かれる。


「お……おはようございます。その、眠ってしまい申し訳ございませんでした。勤務に戻りますので手を離していただけますか」


「昨夜で勤務は終了している。もう少し寝ていろ」


「いえ、あの……この部屋にいるのはまずいかと。えーーと、ジルクハルト殿下にとって醜聞かと」


「構わん」


「いえっ、あのっ、ダメです」


「相手がレオンならレティは何も言わない」


「どんな信頼ですかっ?!充分すぎるくらい醜聞ですよ!私も困りますっ!男相手にしたなら自分もとか、言い寄られたら叩きのめすのが大変なんです!」


士官学校の時にも言い寄られて叩きのめしたり、やり過ぎて謹慎したりと酷い目にあったのだ。


学園では大っぴらに叩きのめすことはできない。それなのに言い寄られたら対応が面倒だ。


と、突然、ジルクハルトに組み敷かれた。

仰向けにされ、顔の横にはジルクハルトの腕。目の前、直ぐ近くに美しい顔。透き通るアメジストの瞳。 




「私が相手では困るのか?」




トクンと胸が高鳴る。

困るわけはない。レティシアとしてなら嬉しいし、いつまでも、この腕の中にいたい。でも、レオンとして腕の中にいる訳にはいかない。いや、レティシアとしてもジルクハルトに甘える事はできない。



手遅れなのだ。



あの日、あの時、あの邸から逃げ出した時から、レティシアはジルクハルトの手を取る事は赦されなくなった。


例えレオンがレティシアだと知られても、ジルクハルトの側に居続ける事は赦されない。



男装して王族を騙した。

ヴィクトリウス侯爵家に対する罪から逃れようとした。



社交界では充分すぎる醜聞になる。

二度と、社交界へ戻る事はできない。

社交界へ戻れないどころか、セシルも処罰される可能性がある。

それを理解した上で性別を偽り士官学校へ入学して騎士をしている。


「どうなんだ?」


ジルクハルトの問いに応えられない。

この返答次第では、レオンとしての立場が危うくなるかもしれない。


ジルクハルトが冗談っぽく問うてくれたら、簡単に返せたのに、その瞳は、真っ直ぐにレオンを見つめている。



また、見惚れてしまうーーーーーー

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