02.思いがけない再会
手早く安定した給金の職へ就くために士官学校へ入学し、女と暴露ず卒業し騎士団の王都警護班に配属された。弟と二人で暮らすには充分な給金を受け取ることができ、寮へ入らなくても部屋を借りて慎ましく生活できる。
「姉さん、今日は王城へ行くの?」
警護班へ配属されて二日目の今日は、上司へ挨拶をすることになっている。
「そうなんだ。城に篭っている警護班の上司へ挨拶が必要でね。忙しい方みたいだから、同僚と挨拶へ行くんだよ」
「王城なんて、王太子や貴族がいるじゃないか。心配だよ」
「大丈夫だ。死亡したとして処理されているだろうから、まさか男として生活しているなんて思わないさ。それに、練習したおかげで低い声を出せるようにもなったしね。あとさ、王太子殿下も暇じゃないよ」
ジルクハルトと同い年の側近候補達と義妹のマリアンヌは王立学園へと入学し一年半が経っている。王太子であるジルクハルトは未来の国王として地盤を固めるために学園在学中から政務に携わっている。それに、生徒会長をしているだろうから、人一倍忙しいはずだ。
(学園生活と政務で忙しいはずだから、王城内をウロウロしているはずがないわ)
王立学園は貴族の令息令嬢が入学し、一握りの優秀な平民が特待生として学びの場を与えられている。地方貴族の子供は寮へと入り、王都に邸のある者は通学している。
生徒会は爵位の高い者が任されるため、必然的に王太子であるジルクハルトは生徒会長をすることになる。
「セシルは優秀だから、頑張れば王立学園へ入学できそうだね。入学金と授業料は減額されるはずだから頑張って貯金するよ。入学までには貯まるから」
「姉さん、俺も士官学校へ行くか市井で働くよ」
「ダメだ。学園を卒業すれば働き口が増えるし信用もつくから将来のためになる。セシルは勉強して特待生になって入学して欲しい」
「うん……それじゃぁ、また、夜に勉強を教えて」
「あぁ、約束する」
日中、セシルは家事をしながら勉強をして、空いた時間に孤児院の子供達に勉強を教えている。
レティシアが士官学校の寮へ入っていた際に教会が運営する孤児院で世話になり、その縁で子供達に読み書きや遊びを教えている。
「それじゃぁ時間だ。行ってきます」
「いってらっしゃい、レオン兄さん」
レティシアは名前をレオンと名乗り生活している。出自は平民としているため家名はなく、後見人がいないことで士官学校への入学が危ぶまれたが、魔力量の多さと高度な魔術となる氷属性を使えることで特別に入学が許可された。
「ジェイド!待たせたな!」
「レオン、遅いぞー。道にでも迷ったか?」
「まさか!王城なんて行くからさ、緊張してんだよ」
子爵家次男のジェイド・バイロンは士官学校の同期生で仲の良い友人だ。
許可証を提示して教えられた道を思い出しながら上司のいる部屋へと向かう。数年前まで毎日通った見覚えのある道を辿ると昔のことを思い出す。
(あの庭園の薔薇、変わらず咲いているのね)
時折見える風景に懐かしさを感じて胸が締め付けられる。
上司であるヴィンスのいる部屋の前に到着する。警護班の班長が詰めるには場違いな豪奢な作りの扉に唖然とする。近衛の騎士団長ですら、この豪奢な、王城でも場所の良い部屋は与えられていないはずなのに、何故、王都警護の長となる班長が、この部屋にいるのかレオンとジェイドは疑問に思い目線を合わせて頷き合う。
「「失礼します」」
扉を開けて中に入ると黒を基調とした家具が配置された落ち着いた色合いが目に入る。日当たりの良い明るい部屋だが机やテーブルには書類が乱雑に置かれ散らかっている。
視界に入るのは近衛騎士団長と魔術師団長、近衛隊班長に護衛班長、宰相の息子のクロード・アマルフィ公爵令息だ。
(このメンバーで何を話しているのかしら。メンバーからすると王太子に関係する重要案件のように思うけど、部屋に入って良かったのかな)
ふと、足元に落ちている書類を拾い上げると、そこには一人の女性の絵姿があった。
金髪で翡翠色の大きな瞳に腰まである長い髪、毛先に向かって緩くウェーブがかかっている。胸より上、顔がよくわかるように描かれた絵姿と全身の絵姿があり、本人をよく知る、もしくは、本人を見ながら描かれたとわかるものだ。
少し幼さの残る顔立ちだが一目で高位の貴族令嬢とわかる。さらにもう一枚には、想像したであろう、十六、七歳位の姿が描かれている。
「うわっ、絵姿なのに凄い美人だな!こんな美人は初めて見たよ」
「え?あ、あぁ。だれ、だろうな」
(ど……どうして、この絵姿がここに?!)
レオンは動揺を隠すように深呼吸して、もう一度絵姿を見る。
それは、何度見ても、見直しても、数年前に捨てた自分の姿、女の姿をしている自分だ。
ドクンと、心臓が脈打つ。
頭に音が響き他の音が聞こえない。
ジェイドが何か話しているのに。