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17.予定外な休日の過ごし方

「レオンごめんな。偶然は仕方がないよな」


少しだけ、少しだけ、申し訳なさそうに眉を下げて謝罪を口にするラウル。その隣には、ジルクハルトが食事の乗ったトレイを持ち、とても良い笑顔をしている。


ラウルは食事を取りに行き、おまけと一緒に戻ってきたのだ。酷い裏切りだ。今日は休暇のはずだったのに。いや、休暇なのに王城へ来ているレオンが悪いのだ。ここは、ジルクハルトの自宅でもあるのだから。


レオンはラウルとジルクハルトに解らないように溜息をつく。



(このまま食事だけで済めばいいのだけど、ジルクハルト殿下の笑顔が怖いと感じるのは気のせいかしら)



とても良い笑顔のジルクハルトにレオンも笑顔を向ける。


「王城に来ているにも関わらず、ご挨拶もせず申し訳ございません。お昼をご一緒してもよろしいですか」


「構わん。元々、休みなのだから気にすることはない。ラウルが連れ出したのだからな」


と、レオンがいるから当たり前なのだろうけど、ジルクハルトは自身の食事をレオンの方へ置く。毒味をしろということなのだろう。


レオンはいつも通り毒味をし、食事をジルクハルトへと戻す。

毒味をしている間は、ラウルが目を凝らして陣の展開と発動を確認していた。


よく見るとジルクハルトの服装は制服や執務の時に着ている王族用の物ではなく、動きやすさを重視したラフなものだ。


ラフな装いでも本人のオーラなのか、他の男が着るよりも補正かかっているようだ。この男は何を着ていても目に優しくない。


それでも、普段のジルクハルトを垣間見たようで嬉しくなる。


「レオンに毒味してもらうと安心できるな。休みの日にまで、ありがとう」


「えっ……いえ。御身をお護りするのが私の役目ですから」


そう伝える為に継ないだ言葉が気恥ずかしい。御身をって……まぁ、妃でもその考えは必要なことだ。


レオンは照れてしまっていないか、頬が赤くなっていないか気にしながらも、いつも通り食事を始める。


「レオンに教わったから、今日からは食事も陣の展開と発動をさせながら食べることにする。食事なのに疲れるってすげぇよな」


ラウルは一口含む前に陣を展開し、口に含んでから発動させ咀嚼をする。それを食事中、ずっと行うのは魔力を消耗するので疲れが出る。


慣れると魔力の消費量が減るが、慣れるまでは何倍もの魔力を消費するので通常は、最初の一口以外では行使しない。


「うーん、まぁ、慣れるまでは回数をこなした方がいいから、やってみるのがいいかもね。倒れないようにだけ気をつけて」


そう忠告したが食事の後はラウルが倒れ込んだ。毒ではなく疲労だ。慣れないことを数時間も続けたことで疲労が溜まり魔力を消耗した。


なんとか馬車まで連れて行き、マインラート家の侍従に事情を説明してお帰りいただいた。ラウルの魔力なら充分な睡眠を取ることで回復するだろう。


「迷惑かけたな」


「いえ、気にしておりません。こちらこそ、お忙しいのに申し訳ございません」


「気にするな。ラウルは友人だしな。レオンはどうする?暇なら付き合え」


暇ではあるが暇ではない。可能なら帰りたい。主に対して言えるものなら言ってみたい。


ジルクハルトはレオンの返事も聞かずに王城の執務室のある方へと向かう。


護衛の制服を着ていないのにジルクハルトの執務室へと向かうのは、少し居た堪れない。女顔であることから身体の線を隠せない私服より近衛の制服の方が安心できる。


「少し執務をするんだが、書類を整理して欲しい」


「畏まりました」


ジルクハルトに任される書類整理は、見られても問題ない物ばかりだ。雑用係が必要なのに、今まで一人で整理していたらしい。

シリウスに書類整理をさせるよりも、他の重要案件に携わらせた方が効率がいいらしい。


執務室へ移動してから一時間半ほど、お互い何も話さず集中して執務をこなしていた。

時折、ジルクハルトがレオンに視線を移し黙って見ていることがあり、レオンは気づいていても気づかないフリをして視界から外れたりしてやり過ごしていた。



(何を見ているのか……能力を確かめられているのか、何か気づいているのか……見ているだけではなく、たまに笑顔になるのが怖い!!)



暫く痛い視線を受けながら書類整理を進めていると、手を置いたジルクハルトに話しかけられる。


「レオンは、いつから騎士を志望していたんだ?」


「え?いや……いつから……騎士の給金がいいことを知ってから、でしょうか。国のためとか、そのような精神ではありません。ただ、弟を学園へ通わせたいな、と」


嘘をついたら覚えておかなければいけない。誰に何を言ったのか、そのストーリーさえも覚えておく必要がある。物語を作り、その主人公になり台本通り演じる覚悟が必要だ。が、それは覚えて演じているうちにボロが出る。


なら、真実と嘘を織り交ぜて真実に近いことを話せばいい。


性別の偽りだけでも大変なのに細かいことまだは気が回らないし、セシルと嘘の内容を共有して二人分、覚えておく必要がある。


「そうか。それは、何年前だ?」


「え?いや……覚えていません。少なくとも二年前くらいかと」


「二年前か。その前は何をしていたんだ?」


「その前は教会や孤児院で手伝いを。暫くは両親の残してくれたお金で生活をしていました。あの、私のことなら調べているのでは?王族の方だと、そういったことをしていると思ったのですが」


影と呼ばれる者達に内密に調べさせているはずだ。影がどこまで自分たちのことを調べたのか気にはなっている。


「いや、だいたい二年前くらいの話は調べた通りだなと。疑っている訳ではない。レオンから直接、話を聞きたかっただけだ。不快な思いをさせたなら謝罪する」


「いいえ!王太子殿下なら確認されるのは当たり前のことです。気にしておりません」


調べた内容と本人の申告が同じであるが、嘘偽りがないか確認したのだろうとレオンは捉え、すぐに作業へと戻る。




その後、ジルクハルトは執務を終えたらしく席を立ち、ソファーにいるレオンの隣に腰をかけた。


隣にしては近い、そう思い離れようとした瞬間、腰に手が回され振り向くとジルクハルトの顔が近くに。


「ジ……ジルクハルト殿下っ!!近いですっ!」


「そうか?」


「貴族の男性は、こんなに距離が近いのですか?!」


「んーー、そうかも?ラウルも近いだろ?」



ラウルは抱きつく頻度が高い。ジルクハルトとよりも距離が近くなることが多い。そう考えると、今のジルクハルトとの距離は適正に近いのかもしれない。



(……パーソナルスペースどうなってるの!?あのままセシルも貴族だったら、男友達との距離はこのくらい?うん、今でも私との距離は近いからなぁ……)



腰に回されていたのは片方だったはずなのに、今は両手で押さえられているようだ。ジルクハルトの顔が近いので、赤く染まった頬

を見られないようにしている。


そのせいなのか、今、肩にジルクハルトの顎がある。ジルクハルトの息遣いが耳に触り、何とも言えない感覚が身体を走る。


「なぁ、お前、甘い香りがする」


唇が耳に触れそうで、ジルクハルトの声で耳が犯されそうなくらい、色香のある声音だ。

身体がビクリと反応する。

腰の辺りがゾクゾクする。

知らない感覚に飲み込まれそうで、でも、その場で蕩けてしまいそうで逃げられない。


「や……やめて……ください」


ペロリと耳朶に柔らかい感触が与えられ、それが何かと理解した瞬間、顔が真っ赤になった。


「なっ……!」


すでに腰から手は離されていて身体が自由になっている。ソファーの端まで逃げ耳を抑えジルクハルトの方を向き涙を溜めた瞳で睨みつける。


ジルクハルトは、ふわりと優しく微笑んだ後、クツクツと笑う。


「反応が可愛らしいな。安心しろ、とって食ったりはせん」


また、揶揄われたのだ。

そう、ジルクハルトのお遊び。


「か……揶揄うのはやめてくださいっ!!」


「揶揄ってはいない。お前の甘い香りに誘われただけだ。で、聞きたいことがあるのだが」



(甘い香りに誘われたって……犬なのっ!?平民になってから香油なんて使ってないし、湯あみだって……水魔法で簡単にシャワーくらいだし……)



平民では貴族が使う香油は値が張りすぎて手に入れることは出来ない。それに、湯あみに使う水は多くて平民には贅沢だ。それでも、貴族として育ったことから、湯あみやシャワーをせずに眠りにつく事が出来ず、水魔法を使って身体を清めていた。


「聞きたいこととは?」


先程までの揶揄っていたのとは違い真面目な表情のジルクハルト。何か執務のことについてか、近衛の護衛の事だろうか。


「レティの誕生日が近いのだが、何を贈ったらいいと思う?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] バレてるのかばれてないのかドキドキです。 続き楽しみにしています。
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