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15.リベルト・ヒネーテとの休日

「リベルト??」


教会へ到着すると思いがけない人物が子供達に囲まれていた。子供達も親し気に『リベルトお兄ちゃん!』と呼んでいる。リベルトも慣れた様子で子供達の相手をしていて微笑ましい。


普段着なのだろうけど、お忍びといったラフな市井に馴染む装いだ。棒を持っている子供達に剣を教えてとせがまれていたところのようで、目が合うと困り顔をしている。


「レオンか。まさか、ここで会うとは思わなかったよ」


「それは私の台詞だ。私は市井に住んでいるのだから不思議ではないだろ。リベルトは何をしに?」


「定期的に訪問してるんだよ。レオンも来ていたのに会わなかったなんてな。あれ?セドリック?」


レオンの側にいるセドリックを見つけて、リベルトはレオンとセドリックを交互に見て納得していた。


「セドリックの尊敬する兄さんってのがレオンか。それは納得だ」


「久しぶりです。まさか、貴族だとは思いませんでした」


「勘づいてはいただろ?」


「まぁ、薄々は。下位貴族かなくらいには」


「相変わらず無愛想だな〜。兄貴の方は人懐っこいのに。お前たち、あんま似てねぇな。レオンの弟なら、もう少し線が細いのを想像していたよ」


「線が細い言うな!人が気にしていることを!」


プンプンと怒りを露わにした態度を取ればリベルトは『すまない』と謝り、子供たちは『いじめちゃダメー!』と宥めてくれる。和やかな雰囲気の中、修道女へ挨拶を済ませて、各々、子供たちの相手をする。


外ではリベルトが子供達に剣を教え、セドリックは勉強を、レオンは絵本を読んで昼食の準備を手伝った。


数人の子供が落ちていた木の枝を剣に見立てて素振りや構えの練習をして立ち回ったりしている。リベルトに憧れを抱いている一人の少年が走り寄る。


「リベルトお兄ちゃんは学園へ通っているの?」


「そうだよ」


「俺も学園へ行きたい!」


「そうか……」


リベルトの通っている学園は貴族と一部の優秀な平民のためにある。平民の学校もあるが、それでも、裕福な商家の子供が通うためにある。身寄りのない孤児が学校へ通うのは夢物語だ。


「リベルトお兄ちゃんみたいに、剣を使って悪い奴を退治するんだ!」


希望に満ち溢れている子供の瞳は輝き、リベルトの心に影を落とす。


剣を扱うなら士官学校になるが、ここも身寄りのない子供が通うためには相当な腕か魔力が必要になる。



日常の生活では感じられない格差が残酷に感じられる。



「そうか、それなら士官学校もいいかもしれないな」


「しかんがっこう?」


「立派な騎士になるための学校だよ。国を護ために力をつける学校だ。そこで剣を学べる」


リベルトはしゃがんで少年の頭を撫でた。しっかりと目を見て希望に満ち溢れている子供を受け止める。


「リベルトお兄ちゃんみたいに強くなって騎士になる!」


その言葉を受けてリバルトは微笑む。この子が残酷な格差を知るのはいつだろうか。その時、士官学校を教えた自分を恨むだろうか、と心に痛みを抱く。




昼食は子供達と一緒に和気藹々と楽しく済ませ、子供たちの午後睡の時に片付けをした。


リベルトは昨年から教会へ通い、隣接する孤児院の子供達に剣を教えていた。キッカケはジルクハルトが視察で教会へ訪れた際に剣を教えて子供達に懐かれたからだ。子供達と関わり教会の運営をサポートしている。半年前に訪問したときにセドリックと出会った。


セドリックの年齢で孤児院にいることは珍しくなく、孤児院の子供と同じように接していたが、別の理由でいる貴族の子息だろうと判断していた。


本人と話す事で貴族ではなく、兄が士官学校の寮住まいの間、一人では心配だからと孤児院で世話になっていると聞いてリベルトは孤児なのに士官学校へ通える優秀な兄がいるのだなと深く考えずにいた。


孤児にも関わらず優秀なセドリックの様子から訳あり感は否めず、先日、ジルクハルトが話していた貴族の血を引いているのは間違い無いだろうと推測している。


平民街で過ごす時間を作り人を観察していたが、レオンやセドリックのような平民は見当たらない。市井でマナーのある人を見つけた時に遠目で顔を確認すると、大抵は男爵や子爵の子供だ。


「この後、レオンとセドリックは予定があるのか?」


「特に?あ、セドリックの勉強用に参考書とかを買う予定かな」


「ならうちに来いよ」


「はい?」


「邸に来いよ。参考になる本があるし貸してやるよ。優秀なセドリックに使ってもらえた方がいいからな」


「いや……でも」


「リベルトさん、是非、お願いします」


「セドリック!」


「兄さん、いいじゃないか。貴族の方が読む本を貸してもらえる機会なんてないよ」


「でも……」


「何も取って食いやしねぇよ。んなことしたらジルクハルトに殺されるわ」


「じゃぁ……お言葉に甘えて」



(何を考えているのかしら……このまま邸へ行くことで……いや、セドリックとリベルトは以前から知り合いのようだから、私がいない時に誘われて邸へ行ってしまうかも……)



レオンは渋々ながらもリベルトの提案を受け入れることにした。



子供たちが目を覚ました後は別れの挨拶をして泣きつかれ、貴族街の近くに迎えに来ていたヒネーテ家の馬車で邸へと向かう。


セドリックは嬉しそうに外を眺めているが、レオンとしては気が気じゃない。

ヒネーテ侯爵とレティシアの実父は仲が良くセシルも何度か逢っている。


色を変えていたとしても、成長したセシルに実父の面影があれば気づかれるかもしれない。ヒネーテ侯爵、もとい、ヒネーテ近衛騎士団長が仕事で邸にいないことを願うしかない。


目の前に座るリベルトの表情が読めない。何を考えて邸へと誘ったのか。迂闊な言動はレオンがレティシアだと気づかれる可能性がある。


数十分後に、ヴィクトリウス邸を思い出させる程の大きな邸に到着した。


邸に入り図書室へと向かう際に、近衛師団長は仕事で詰所にいると教えられた。


これは『助かった』の一言に尽きる。

近衛師団長への挨拶はしてもいいが、セドリックに会わせるわけにはいかない。近衛師団長にもなるくらいの男なのだから、変装を見破ることもたやすい。


レオンとして挨拶した際には、男である先入観が功を成したのか、レティシアと暴露ることはなかったが、セシルは別だ。髪の色しか変えておらず、実父とは異なる髪型にして印象を変えているが、親しい相手に対してどこまで通用するかはわからない。



リベルトに案内された図書室はヴィクトリウス邸の図書室と同じくらい書物が納められていた。



(す……すごい!久しぶりに本に埋れて読書ができる!)



本が好きなレオンは壁一面を埋め尽くしている本を見て目を輝かせる。


「リベルトさん!これ、何を読んでもいいのですか?!」


セドリックも久しぶりの書物の量に歓喜の声を上げる。


「あぁ、構わないよ。ここ数代、騎士になる男が多くて、利用が減っていたんだ。是非、読んでくれ。お茶を用意させるから好きなところに腰掛けていい」


そう告げたあと、侍女がお茶を用意してリベルトは図書室を後にした。

自分はやることがあるからと退室したが、レオンとセドリックは図書室を好きに利用していいと言い残した。



(何がしたくて邸に呼んだのかしら?)



レオンとセドリックに図書室を貸すだなんてヒネーテ家に何のメリットもない。寧ろ、世話が増えるだけだ。しかも平民だし。


好意なのだろうから、企みがあったとしても知識を詰め込むだけ詰め込ませてもらう。利用される前に利用するのは必要なことだ。


学園や市井の本屋では目にする事のないモノを中心にセドリックと読み漁った。

少ない時間で効率的に沢山の本を読むのはお妃教育で必要だったので身体に染みついている。その手法をセドリックにも教え込んだので、二人は短い時間に沢山の本を読むのが得意だ。


夕刻を過ぎた頃、様子を見にきたリベルトは積まれた本の量に驚いた。読み終わった本だと言われたが数十冊以上あり、何故、二人が優秀なのか理解できた。


レオンとセドリックは晩餐に誘われたが、さすがに、そこまで世話にはなれないと断り、代わりに数冊の本を借りた。貴族でなければ手に入れる事のできない本を簡単に貸してくれて、返す時はレオンが届ける事で了承してくれた。


「図書室を利用させてくれるだけでなく、本まで貸してくれてありがとう。邸へ呼んだ理由は他にあったんじゃないのか?」


「いや、ただ招待したかったからだ」


少し目を逸らして告げたリベルトと帰宅前にホールで話していると、夫人が現れた。



(夫人に会わせるのが邸に呼んだ理由か)



友人の来訪であっても、身分の低い者や平民相手に侯爵夫人が挨拶に現れるのは珍しい。恐らく、レオンとセドリックの事を聞き、夫人が興味を持ったのだろう。


「貴方がジルクハルト殿下の新しい護衛の方?」


華奢なレオンではなく男らしい体格のセドリックに尋ねる。


「私は弟のセドリックと申します。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」


身分の低い者が上位の者へとする貴族流の礼をしたセドリックに夫人は微笑む。


「私がジルクハルト殿下の護衛を務めているレオンです。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。リベルト殿とは学園で仲良くさせてもらっています」


「まぁ!貴方が護衛をされているのね。可愛らしいからジルクハルト殿下も骨抜きになるわけね」


「母上、レオンに失礼ですよ。レオン、すまない」


「いいえ、気にしておりません」


「とても優秀だと聞いているわ。ジルクハルト殿下の護衛の任が終わったら、ぜひ、我が家でお願いしたいわ。考えておいてね。また、邸に遊びにいらして。歓迎するわ」


「ありがとうございます」


頭を下げ礼を伝え邸を後にする。

ヒネーテ侯爵夫人は相変わらず可愛らしい。レオンが話している間、たまに、セドリックへと視線が向いていたが気付かれてはいないだろう。



(どんなに頑張って身元を隠して姿を変えても、所詮は小娘の浅知恵よね。社交界の経験のない私なんて侯爵夫人にしたら赤子も当然。正体を見破るのも簡単かもしれない。ジルクハルト殿下や、リベルト、ラウルやクロードに気づかれるのも時間の問題かしら)



見ず知らずの相手に性別を偽るよりも難しい。後一年半、この状態を維持して卒業を迎えなければならない。

この回を書いてから約二ヶ月、執筆できなかった。

六月頃に書いて、次の回は八月になってから。

続きで書きたいのとがまとまらなくなり、放置したあとは一気に書き上げていってる感じです。


明日以降の回も、よろしくお願いします(*´∇`*)

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