13.マリアンヌ・ヴィクトリウスの浅知恵
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ジルクハルトに声を掛けたのは濃茶の髪に茶色の瞳の小動物のように愛らしい雰囲気のある可愛らしい少女。男が好む仕草や言葉を知っている、少女のように見えるが時たま見せる表情が妖艶で男子生徒から人気が高い。
「ジルクハルト殿下、心配で声を掛けてしまいました。あの……」
ジルクハルトを見つめた後、意味ありげに視線を落とし上目遣いで見つめ直す。大抵の男はマリアンヌの仕草に心を奪われる、が、ジルクハルトはマリアンヌに視線を向けても答えない。
「あの……わたし」
瞳を潤ませてジルクハルトの反応を待つ。ジルクハルトの言葉に合わせて好感のある言葉を返そうとしているのだろう。
「ヴィクトリウス侯爵令嬢ですね。ジルクハルト殿下への用でしたらお早めにお話いただけますか」
護衛として侍従としてレオンがマリアンヌに『モタモタしないで用があるなら早くしろ』と暗に伝える。
「わ……私はジルクハルト殿下に話しかけたのです。私より身分の下である平民の貴方に声を掛けられたくはありません!」
キッと睨みつけるようにレオンを見たマリアンヌは、よく見ると綺麗な顔をしているレオンに頬を赤くする。
「私はジルクハルト殿下の友人ですが護衛でもあります。多少の無礼はジルクハルト殿下より許可をいただいています」
「護衛?」
「はい。ジルクハルト殿下にご用でしたら私が伺います。お時間がかかるようですし。返答の必要があればジルクハルト殿下からの言付けをお預かりしてお伝えします」
「私はジルクハルト殿下に用があるのです。貴方には話したくありません。それに私は二人で話すこともある仲なのですよ」
確かにヴィクトリウス侯爵家では侍女が控えていたが二人で仲良く話している姿があった。ただ、ジルクハルトからはヴィクトリウス侯爵令嬢とは二人にはなりたくない、言葉を交わしたくないから護衛として間に入るようにと指示されている。
(ジルクハルト殿下は、いつからマリアンヌを避けているのかしら。もしかして男色でレオンの方が気に入ったとか?!それはお断りしたいわ。ないないない!絶対あり得ないし無理無理!)
食堂にいる者達はジルクハルトがマリアンヌへどのような対応をするか様子を伺っている。
平民の女に入れあげている噂やレティシアが行方不明になっているにも関わらず婚約を破棄しないこと、マリアンヌが婚約を希望していること、他の令嬢も婚約を希望している、誰がジルクハルトの寵愛を受けるかで貴族達の出方も変わるからだ。
マリアンヌが寵愛を受けるなら、仲良くしておくことで甘い汁を吸える。特にマリアンヌと仲良くしている男達は運が良く暴露なければ王太子妃のお気に入りになれる。
身体の関係があれば尚のこと、自分の子供が王位を継ぐ可能性が生まれる。
「仲の良いご令嬢はレティシア様だけと伺っています。他に言葉を交わすのは他国の王女と友人の婚約者であると」
レオンの言葉に苛立ったのか、一瞬だけ目を細めたが直ぐに表情を保ち胸の前で手を握り上目遣いで微笑む。
「私達はジルクハルト殿下のお噂を心配しているのです。平民の女性が王城に入り浸り、殿下にご迷惑をかけているのでは、と。お姉様の事を気に掛けてくださっているのに不貞と捉えかねない行動を、その女性に謹んで欲しいのです」
レオンが言葉を発しようとしたとき横から愉快そうにラウルが割り込んだ。
「その噂って何?別にジルクハルトが誰と仲良くしようとアンタには関係ないだろ」
ラウルがケラケラと笑うと気に障ったのかマリアンヌは眉を顰める。
「ですがっ……」
「それはアンタが心配してジルクハルトに進言することじゃない。レティシア嬢がすることだ」
その言葉を聞いたマリアンヌはムッとした表情でラウルを睨みつける。庇護欲を唆るようなお淑やかな表情を保つ事は出来ないらしい。
「そーれーにー、ジルクハルトが入れ込んでるのってレオンのことだろ?毎日毎日、飽きもせず仲良くしてるからなー。俺も妬けちゃうよ〜。俺だってレオンと仲良くしたいのに〜」
レオンに『俺とも仲良くしよーよー。必要なら邸に部屋を用意するしさー』と抱きつく。
「え?平民の女が相手なのでは?」
「ジルクハルトが入れ込んでるのはレオンだよ。ジルクハルトとクロードと同レベルの頭脳!俺が惚れるくらいの魔術!で、剣の腕はリベルトの方が上か?それでもリベルトが認める腕!それくらいの能力があるなら、アンタもジルクハルトの寵愛を受けられるかもな。まっ、せいぜい頑張れよ」
ラウルは早く早く!と、生徒会室への移動を促し食事を後にした。
午後は選択科目で試験に合格して必須単位が足りれば受ける必要はない。
成績優秀なジルクハルト、クロードにリベルトとレオンは午後の選択科目は免除されているので、レポートの提出と気になる授業への参加、社交のための授業への参加でよい。
それでも学園で学ぶ内容は将来、役に立つので、週の半分以上の時間は授業に出席している。
もちろん、レオンの受ける授業はジルクハルトと同じものだ。
「ふぁ〜〜、アイツはしつこくて困るよねぇ〜」
生徒会室へ戻るとラウルは、やれやれといった雰囲気で制服の上着を楽にしてソファーに腰掛ける。レオンはその隣に座りジルクハルトは生徒会長の席、リベルトとクロードは目の前に腰掛けた。
「レティシアがいた頃は大人しく振る舞っていたが二言三言目にはレティシアに嫌がらせされているなどの虚言が多くて対応が面倒だったな。笑っていれば大人しいから放置していたが、それがヴィクトリウス侯爵令嬢に勘違いさせるキッカケになったのは後悔している」
(えっ……?)
マリアンヌがレティシアのことを陥れるように話して自分をいいように見せているのは知っていたが、ジルクハルトが気付いていたとは意外だった。
「入学当初からジルクハルトの周りにいたよな。お姉様の事で〜って話しかけてくるのが多かったように思う。お姉様が戻らなければヴィクトリウス侯爵家には私もいますからとか」
付き纏いが迷惑なほど頻繁だったのだろうか、リベルトも当時のことを思い出して溜息をつく。
「彼女は多くの男性と仲良くしているようだからな。その行動がレティシア嬢の印象も悪くするから控えて欲しくて何度か注意したら勘違いされたよ」
「あー!『男性には声を掛けられたので無碍にできずお話をしていたのです。クロード様にご心配いただけるなんて……今度、ジルクハルト殿下には秘密にしますから邸に来ませんか?』って誘ってきたやつねー。すごいよね〜、婚約者でもないのに邸に誘うなんて」
「それだけならいいが、何故、彼女は必ず身体に触れてこようとするのだろうか?」
「うーーーん、何故だろうねぇ?男の身体に触るのが好きとか?リベルトは筋肉あるから触るのが好きなのかもよ?」
しばらくクロードとラウルとリベルトはマリアンヌの行動の真意について話していた。
「レオンはどう思う?」
書類を見ながら話半分に聞いていたら突然、話を振られて何を問われたのか分からず首を傾げた。
「レオンのソレ、可愛いから好きぃ〜」
ぎゅぅっと音がなりそうな勢いで抱きつかれたので慌てて引き離した。身体に触れられると女だと気づかれる可能性があるからだ。
(ラウルって懐っこいから身体への接触が多くて困るわ!暴露るじゃない!)
「えっと……何がですか?」
「えーーー、聞いてなかったのかよぉ〜。ヴィクトリウス侯爵令嬢の謎行動だよ〜」
あぁ……あれは普通の男だったらコロッとマリアンヌに好意を寄せるのに、ここにいる四人には謎の行動に感じられるのか。
「身体に触れるのは市井の女性はよくやりますね。ボディタッチと言って好かれたい男性の身体に触れて自分を意識させる時にやるようです。無邪気さを装って腕に絡みついたりして自然な流れで胸を男性の身体に触れさせて女を意識させたり、胸が当たった時に男性がドキッとして好意を持っていると錯覚させるのに有効なようです。可愛らしい無垢な女性がすると効果的なようですよ」
以前、セシルが話していたことを思い出した。市井に出て孤児院や教会、人の集まるところへ顔を出す機会が多いセシルは女性に言い寄られることもあるらしく、ボディタッチをされて驚いたらしい。すぐにボディタッチの意図を理解して近寄る女性に警戒をしたようだが、割と頻繁にあるみたいだ。
「へぇ……ボディタッチねぇ。でもさー、婚約者のいる男にするのは非常識だよねー。婚約者のいない男相手でも常識的とは言えないけど〜」
「彼女の嗜好や性癖まで分かりませんから、婚約者のいる男性に言いよる理由までは……」
「性癖!それだよ!彼女は沢山の男に好かれたい性癖とか!」
「ラウル、それは女性に対して失礼だろ」
「リベルトだって困っていただろ?人前で腕に絡みつかれて無碍に出来ないって」
「それはそうだが…」
「ラウル、そのくらいにしておけ。まだ彼女の話を続けるのか?私は不愉快なんだがな」
書類仕事をしながら眉間にシワを寄せたジルクハルトが話を終わらせろと言わんばかりの圧でマリアンヌの話題を終わらせた。正直、助かった。マリアンヌの話をすると、邸のことを思い出す。あの甘い鼻につく香りのことも。
あの頃の私が想像していたよりも、ジルクハルトを含めて彼らはマリアンヌのことを見極めているようだ。あの時も……とは思えないが、レティシアが行方不明になったことで考え直したのだろうか。
それともーーーーー貴族であるが故に言葉の裏では彼女を慕って牽制し合っているのかもしれない。ジルクハルトも?そう思うと途端に胸が苦しくなるーーーーーー。




