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12.平民レオンの実力

入学して二週間、想定していた以上に平穏に過ごしている。ジルクハルトの隣を歩くレオンをチラ見してヒソヒソと噂する者もいるが、それ以上は触れられない。


女子生徒はレオンが平民ではなく伯爵位くらいなら婚約したかったと話題にしている。


表立って説明はしていないので、レオンが近衛の二番隊に所属していることを知る者はいない。


レオンのことよりも『ジルクハルトが平民の娘に入れあげている』という噂で、お相手探しが白熱している。レオンの出自や経歴よりもジルクハルトのお相手の方が貴族にとっては重要だからだ。それでも、不穏な空気を出す男子生徒がいるので警戒は怠らない。


今日は久しぶりに学園内の食堂でランチをすることになった。レオンが入学してからは溜まっていた生徒会の仕事を片付けるためにテイクアウトをして生徒会室で食べていた。


ジルクハルト達が現れると騒ついていた食堂が少しだけ静かになる。久しぶりに食堂を利用したことで驚いているのだろう。あの事件以来だから警戒して二度と食堂は利用しないと考えられていた。


ジルクハルトの前に食事が運ばれる。王城程ではないが、腕の良いシェフを雇っているので高位貴族の令息令嬢からも好評価を得ている。


周りの生徒はジルクハルトの隣に座るレオンに驚いていた。

本来、その場所はクロードが座っていたからだ。当のクロードは気にした素振りもなくジルクハルトの目の前の席に当たり前のように腰をかけている。


それに合わせてレオンがジルクハルトの毒味をしているような様子を見て生徒達の動きが止まる。毒味をしたあと通常はカトラリーを変えるがジルクハルトはそのまま使い、クロードが何も言わないからだ。



「ジルクハルト殿下、カトラリーは変えた方が良いのでは?周りの生徒が驚いていますよ」


「変えたカトラリーに毒が付着していたらどうするんだ」


「それならシルバーのカトラリーにすればいいですよね?」


「シルバーと偽られたら対処のしようがない」


「いやいや、シルバーは触ればわかるだろ」


レオンとしては自分が使ったカトラリーを使われるので気恥ずかしいが、ジルクハルトがいうことももっともなので強く言えず、周りからの冷ややかな目に耐えるしかない。



(恥ずかしいのを我慢するのはツライ……顔が赤くなっていなければいいのだけど……どうしてこの人は気にならないの?)



レオンとしてはジルクハルトがカトラリーを変えずに食べていることで生徒達が注目していると思っていたが、周りはレオンの所作の綺麗さと平民であるのにジルクハルト達と一緒に食事をしても遜色ないマナーに驚愕していた。


五人での食事は貴族らしく静かで周りの生徒達は見惚れるほどだ。



食後の紅茶を運んできたのはジルクハルト達は初めて見る顔の男で、何故か手が震えている。


こちらをチラチラと気にする素振りの男子生徒が二名、レオンはリベルトに伝えて対応をお願いする。



カチャ



ティーカップを置いて頭を下げた男に声をかけ、その場に留まらせる。


「あの……」


「いやぁ、綺麗に注いでくれたからお礼を言いたくてね」


レオンが人懐っこい笑顔を見せると男は安心したように『そうでしたか』と笑みを見せ、その場を後にしようとするがーーー


「ジルクハルト殿下、お手を触れないように。香りも嗅いではなりません」


ジルクハルトがカップに手をかけたのをレオンが制し、その言葉をジルクハルトは素直に聞き入れて手を離す。


「ねぇ、一緒に飲みませんか?私の分を差し上げます」


「い……いえ、あの、私は勤務中ですし」


「ジルクハルト殿下からのご好意ですよ」


「そうだな、君も席について飲むといい」


レオンの言葉で何が起きているのか察して、クツクツ笑いながら席を進める。目を細めていて誰から見ても笑っていないのがわかるから周りは事の成り行きを見守っている。


「いえ……それは恐れ多く……」


「それなら私とならいいだろう?平民とお茶は飲めないかな?」


とても爽やかに微笑んでみせたが相手にとっては恐怖なのか上手く反応できずにいる。レオンの後ろで座っているジルクハルトは面白そうにクツクツと笑いクロードは顎に手を置いて眺め、誰一人としてレオンの行動を咎めない。


レオンは自分用に注がれた紅茶を口に含み優雅に微笑んだ。その姿を見て男は目を見開き身体を硬らせている。


「さぁ、君も飲んだらどうかな?あぁ、私が立ちながら飲んでいるのが気になったのか?君は気にせず、そこの席に座るといい」


ジルクハルトがレオンを咎めるわけでもなく、男は飲むまで場を離れることができない威圧に耐えかねて紅茶が注がれたカップに視線を落とし意を決したように口に含む。



テーブルにカップを置いた瞬間ーーーー



「くっ……あっ……」



ガタンッ



男が椅子から床に倒れ込み喉を抑え苦しそうに悶え、その姿を見ながら優雅に紅茶を飲むレオンに向けて手を伸ばしている。




「「「きゃぁあああああ!!!」」」




様子を見ていた生徒達が悲鳴を上げ、女子生徒では気絶した者も。


「お……おい、お前!毒を盛ったのか?!どうしてお前は倒れないんだ?!」


「私は毒を盛ってなどいない」


レオンは倒れた男が飲んでいたカップを手に取り残った紅茶を口に含んだ。その瞬間、周りの生徒が叫んだが……


「うん、ジーク産の茶葉は好みの風味だ。でも、シェール産の茶葉の方がケプスの毒を入れた時に味わい深くなるのに……勿体無いな」


やれやれと溜息をつきながら残りの紅茶を飲み干す。


「レオン、ケプスの毒で間違いないか」


「間違いありません。作り方が下手くそすぎて苦味が残っていますけどね」


「美味い作り方があるのか?」


「ありますよ。ただ、茶葉がこれだと苦味が増すので、やはりシェール産の茶葉の方が味はいいですね。それと殿下、私の足元にいるコイツはどうします?」


喉を抑えながら苦しんでいる男は、そろそろ息を引き取りそうだ。泡を拭いている。周りにいる生徒は青ざめ微動だにせず、ジルクハルトとレオンの声が響いていた。


「打ち消せるか?」


「できます。完全に打ち消しますか?」


「調書が取れたらいいから頭と耳と口が使える程度で」


「それなら五割程度は打ち消しておきます」


倒れた男に手をかざして陣を発動させ体内に広がった毒を感じ取り打ち消し、数秒程で打ち消しが終わり男の呼吸が紅茶を飲んだ直後よりも落ち着いた。


男の呼吸が落ち着いた頃、騎士を連れたリベルトが食堂へ戻ってきた。倒れた男を騎士に任せ、もう一組のところへ移動する。


「ねぇねぇ、その紅茶は飲んだかい?」


「えっ……?いや……まだ」


少し離れた席にいたチラチラと見ていた男子生徒にレオンは声をかけた。その姿を見たジルクハルトは笑いを堪えている。


「えっと……まさか……」



ガタンッ



「うっ……あっ…どう……して」


話しかける前に隣の男が紅茶を口に含んでいたようで椅子から床へ倒れ込んだ。


「あ〜あ、飲んだのか。協力者だけど君たちも捨て駒だったみたいだね。チラチラとジルクハルト殿下の方を見てるからバレバレだよ?貴族なんだから感情を読み取られないようにしないと生き残れないよ?」


人が良さそうに話しているがクスクスと笑い小馬鹿にしている。


「レオン、そいつのも打ち消してやれ」


「はいはい」


ジルクハルトの指示で五割程度は打ち消した。もう一人は紅茶を飲んでいないので、そのまま騎士に連行された。


「あ、ねぇねぇ、ここに主犯と繋がっている人がいたら雇い主に伝えて欲しいんだけどさ〜、毒を盛るなら毒を飲んでも死なない人間を使わないと使い捨てにもならないよって教えてあげてよ」


レオンは食堂にいる生徒に向けて言葉を放った。恐らく、ジルクハルトに害を成すために学園で協力者を募ったが、レオンの出方を見るために捨て駒を使ったのだろう。


今回の実行犯と協力者を尋問しても得られる事はないだろう。ジルクハルトの近くに侍ることになったレオンの実力を確かめるためだけに毒を盛り加害者を作り上げた。


実行犯と協力者も自分の意思で手を汚したなら罪を償うことも受け入れられるだろう。


ジルクハルトが席を立ち食堂を後にする。その横にクロードとリベルトが並び、後ろを着いていくラウルの隣にレオンは並んだ。


「なぁなぁ、毒の耐性があるのか?どの陣を使って打ち消してるんだ?」


魔術が絡むと興味が湧くのか楽しそうにラウルは尋ねる。


「毒の耐性はあるよ。水魔術の陣を使って打ち消してる」


「俺もやってみたい!今度、練習に付き合えよ」


「んーーー、魔術師団長と殿下の許可があれば」


勝手なことをして打ち消しが出来なかった時に責任問題になるので、自分の父親に許可もらってこいよ、ついでにジルクハルトにも話を通しておけよと暗に伝えると嬉しそうに『絶対に許可取るわ!俺も打ち消し出来るようになれば便利だしな!』と微笑んでいた。


「ジルクハルト殿下!」


食堂を出る直前、ジルクハルトを呼び止める声は昔聴いた悍ましい女の声ーーーー

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『倒れた男に手をかざして陣を発動させ体内に広がった毒を感じ取り打ち消し、数刻程で打ち消しが終わり男の呼吸が紅茶を飲んだ直後よりも落ち着いた。』と、ありますが、 数刻とは『2、3時間か…
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