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11.編入初日

学園までは馬に乗り馬車の護衛をすると伝えたが、その馬を連れて王城へ戻るのが手間だから馬車に乗れと言われ、今現在、ジルクハルトと向かい合わせで座っていて居心地が悪い。


「気にするな、侍従と馬車を共にするのは普通だ」


「そうですか」


「制服が間に合って良かった」


「ありがとうございます」


王城へは二番隊の制服で行ったが学園の制服に着替える必要があり、部屋を断っていたので着替える場所がなく、再びジルクハルトの部屋で着替える羽目になった。


これが毎日続いては困るので明日からは学園の制服で王城へ行こうと考えていたが、護衛兼侍従の勤務中は二番隊の制服でと指示され、何故だかジルクハルトの部屋の隣に着替えるためだけに部屋が与えられた。



(いやいや、護衛兼侍従への扱いではないでしょう!本当に男色なんじゃない!?貞操を守らないと人生終わるわ)



レオンは外を眺めながら深いため息をつくがジルクハルトは楽しそうにしている。レオンが入学することで学園では一波乱起きるから、それが楽しみらしい。悪趣味だ。


学園の入り口に到着すると近くにいた生徒たちは足を止める。

事件後のジルクハルトのことを噂でしか知らない生徒は様子を確認するために、それと一緒にいるかもしれない噂の令嬢を一目見るために。


馬車の扉が開き、先ず見えたのは栗色の髪。周りの生徒たちは噂の令嬢だと錯覚した。小柄な体格が女性だと感じさせたが、次に目に入ったのは男性用の制服を纏った姿。


レオンは馬車から降りて周りを確認するも扉を開けたまま頭を下げて主が降りるのを待つ。その洗練された美しい所作に、周りの女子生徒はため息を溢す。


「周りはお前を見て驚いているな」


面白いものを見たとでも言うようにクツクツとジルクハルトは笑う。


「ご冗談を。ジルクハルト殿下のご様子がお変わりなく安堵されているのですよ」


「そういうことにしておいてやる」


ジルクハルトが歩き出したので後ろに着くと『隣を歩け』と腕を引かれた。


学園の建物へ入ると、話をしていたクロードとラウル、リベルトと会った。ラウルとリベルトと挨拶はしたがクロードほど仲良くはなっていないので微妙な距離を保っている。


「レオン、今日のことでちょっと」


声を掛けられクロードの隣へと移動して予定を確認する。

朝、確認済みだが学園のことはクロードに教えてもらうように指示されていたので歩きながら話す。ラウルとリベルトはジルクハルトと話している。


「あぁ、わかった。クラスまでジルクハルト殿下と同じでいいのか?高位貴族向けのクラスだろ」


「レオンの学力なら高位貴族向けで問題ない。護衛も兼ねているから学園側には了承させた」


さらには護衛ということもあり生徒会の雑用係にも任命された。ジルクハルトが生徒会長を務めているので側にいるなら雑用をしろと。



(例え雑用でも学園生活っぽくて楽しそうだわ)



例え男としてでも諦めていた学園生活を楽しもうと心に決めた。



入学初日はクラスで挨拶をするだけで、その後も事件らしいことは起こらなかったが様子見なのだろう。まさか男が侍るとは思っていなかったのか、嫌がらせをするにも準備が出来ていないようだ。



安心していたが、ジルクハルトに命じられて生徒会で使う資料を受け取りに行った帰り道に嫌がらせの定番、空から水が降ってきた。


水がかかる寸前で気配に気づき凍らせ、その氷を水を落とした当事者に向けて放つと悲鳴が聞こえた。直ぐに溶かしたので証拠は残っていないから問題ないだろう。



(男も女みたいにネチッこい嫌がらせをするのね。まぁ、女同士の嫌がらせよりも可愛いものだわ)



侯爵家にいた頃は義母と義妹から肉体的、精神的苦痛を受けていたレティシアにとって、水が降ってくることは可愛いもので、ここでは魔術で反撃できるからストレスも溜まらない。


「遅くなりました。資料をお持ちしました」


「助かった。一人で問題は起きなかったか?」


クロードも心配してくれるのかレオンの肩が濡れていることに気づき確認する。


「あ〜……水が降ってきましたね」


「それで肩が濡れているのか」


「凍らせたのですが飛沫がかかったのでしょう。ついでに水を投げた人に向けて氷を飛ばしておいたので被害はアチラの方が大きいかと。直ぐに溶かしたので証拠はありません。水を掛けるなんて餓鬼がすることですよね。何しに学園へきているのか問い詰めたくなります」


「ジルクハルトの側近になれば将来安泰だからな。それなのに平民出の人間が側にいるのを許せないと考える奴もいる。あと、ジルクハルトを廃太子したい奴らもいるから少しでも瑕疵を作りたいなら責任という形で側近達を嵌めるんだよ」


「本当に餓鬼ですね。努力の方向を間違えています。側近になりたいなら実力をつける方に努力すればいいのに。貴族は面倒ですね」


「そんなものだよ。それでも、真面目に努力している貴族もいるから、貴族を嫌いにならないでくれよ?」


「全員がクロードのように高潔な精神を持って欲しいですね。腹黒そうだけど」


「おまっ!俺はジルクハルトほど腹黒くはないぞ!」


「何を考えているのか解らないところは似ているぞ?」


ジルクハルトが真面目に生徒会長の仕事をしている横でクロードとレオンが言い合い、ラウルとリベルトは物珍しそうにしている。


「そこの二人、言い合うのはそれくらいにしておけ。あと、話の中で私が腹黒だと決定しているように思うのだが、少しは否定しろ」


「「否定する理由がない」」


「お前ら……仲良いな」


「あっはははははは!レオンって面白いな!クロードを怖がらない奴は珍しいよ。それに、魔力も嫌いじゃない」


人懐っこく笑うのは魔術師団長の息子、伯爵家嫡男のラウルだ。癖っ毛のオレンジ色の髪にオレンジ色の瞳が夕焼けを思わせる色合いだ。


「俺、レオンの魔力好きだな。昼寝をしたい時に近くにいてくれると気持ち良く眠れそうだ」


魔力量が多く苦手な魔力に触れると機嫌が悪くなるラウルが心地よいと感じる相手は少ない。心地良い魔力の者しか近づけず、ジルクハルトやクロード、リベルトは問題のない相手となる。


「ラウルが心地よいと感じるなんて珍しいな。ジルクハルトが光属性を使っている時と同じくらいか?」


「うーーん、それとは違うかな?なんかレオンの周りがほわんとしてるんだよねぇ〜」


それがなんか心地よい、らしい。


「周り?あ!反魔を纏っているせいかな?力技で来られた時に備えて纏っている」


「「「反魔?!」」」


物理攻撃や魔術攻撃を跳ね除ける反魔は、纏っていることで致命傷を回避できる。レティシアの頃に義母と義妹に虐められていた時に咄嗟に身に付けた。大きな怪我をしないように、最小限で済ませるようにするためだ。


身に付けるのが遅くて痣や傷が残ってしまったが。


「いや〜、一撃目でやられたら騎士失格ですからね〜。念には念を入れています。線が細いですし他の騎士に比べて力技が苦手ですから」


「じゃぁレオンは常に反魔を纏っているの?」


「はい」


「すげぇ!すごいなレオン!あれを纏い続けるのは魔力を使うだろ?効率的に少しの魔力で反魔を纏うのも技術が必要だし」


「もう慣れました。今は寝ていても反魔を纏っていられます」


レオンの魔術の技術に驚き喜んで話を聞くラウルの姿は尻尾が生えていればブンブンと振り回しているであろうくらいの喜びだ。


反魔に関わらず魔術談義に花が咲いている。その姿を微笑ましくジルクハルトが見つめ、ラウルの喜びように、やれやれといった感じでクロードとリベルトが苦笑している。


一時間は魔術談義に花を咲かせ、ラウルがレオンを気に入り『友達なんだからラウルって呼べよ!今度、魔術研究室に連れて行ってやるよ!』と誘うくらい、仲が良くなっていた。

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