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01.プロローグ〜義家族からの逃亡〜

新作の連載です!

毎日20時に更新しますので、よろしくお願いします!

平民街のとある一角に辿り着いた。暗闇の中、黒いロープを被り走り続けた。走って、走って、逃げて、息を切らし、それでも幸せを手に入れるために走り続けた。



やっと辿り着いた小さな家。

ここは二人の城。




「今日から男として生きるわ。だからセシルも私のことを兄さんと呼んでね」


「姉様、僕に……もっと力があれば!」


「ううん、ジルクハルト殿下の婚約者になった私が悪いのよ。彼の方に私は相応しくない。あの子が婚約すれば私たちは笑顔で過ごせたんだわ。もう貴族でなくなってしまったけど、貴方には不自由なく勉強が出来る環境を与えてみせるから。さぁ、行きましょう」



レティシア・ヴィクトリウスは美しく長い金色の髪を短く切り男として生きることを決意し、美しい髪と共に幼い恋心を捨てた。自分に微笑みを向けてくれない婚約者への想いを捨て未来を生きる。唯一、血の繋がった家族である弟を護り、愛されないだろう結婚から逃れて幸せを掴むために。



(あの邸での辛い日々から解放される。最後に一言だけでも、ジルクハルト殿下にお礼を言いたかったな……)



八歳の頃にヴォルヘルム王国の王太子であるジルクハルト・ヴォルヘルムと婚約した。黒い髪に紫色の瞳、王家の色を持つ彼は美しく令嬢達に人気があり誰しもが彼の唯一の人になりたいと願い、婚約を望んだ。


八歳にも関わらず神童と呼ばれ、頭脳明晰、文武両道、紳士であり正妃の息子であるジルクハルトは政略である婚約者相手にも紳士的に振る舞い好感を持てる相手だ。




婚約者の選定をする王城で開催されたお茶会でレティシアはジルクハルトに一目惚れした。


美味しそうなケーキやお菓子に目移りし、本来の目的である王太子の婚約者選定のことを忘れてお腹いっぱいにケーキを食べ満足している時にジルクハルトに話し掛けられ時が止まったように感じたのは見惚れていたからだろう。


婚約が決まり挨拶に訪れたジルクハルトが自分の前で跪き手の甲にキスをした姿に胸がキュッと締め付けられ息を吸うのを忘れているかと思うほどだった。


耳まで真っ赤になっていただろうレティシアの顔を見て微笑んでくれた顔は今でも覚えている。



彼の唯一になれたのだ、と、その時は思っていたからだ。



幸せな時を過ごしていたが、婚約して数年後に両親であるヴィクトリウス侯爵夫妻が土砂災害に巻き込まれて命を落とし、父親の遠縁にあたる子爵が侯爵位を継いだ。


義父には元踊り子の妻との間に娘が一人おり、レティシアの半年下の妹となる。


両親を亡くして数ヶ月後からレティシアとセシルの生活が激変し、王太子の婚約者であるにも関わらず必要最低限の衣服と生活用品しか与えられず、使用人と変わらない扱いを受け食事すら取れない日々が続き、遂には、純潔が奪われ殺害される計画を知り逃げ出した。


義父と義母、義妹からの暴力や嫌がらせが続いていたので予め逃げ出すための準備をしていた。市井で暮らすための住居と生活必需品の確保、お金の確保、王立学園へ通えない可能性を考えて、お妃教育を前倒ししてもらえるようガムシャラに勉学に励み知識を蓄え、仕事に困らないよう魔術を学んだ。


その考えは的中していて、早い時期に学園への入学準備をしていることが気になっていると、義妹の分の入学準備のみしていると聞かされて驚いた。


レティシアは同じ学年となるはずの自分の入学準備について確認すると話をはぐらかされることから良い結果には至らないだろうと判断した。その判断は正しく、数日後に邸でとあるパーティーが開かれることになり、その目玉商品がレティシアの純潔だと知ることになる。


パーティーの前日から邸に香が焚かれ、義母は浮き足立っていた。その日は何故か義妹もソワソワしており、必要以上にセシルへ身体を接触させていた。当のセシルは『気持ち悪い』と漏らしレティシアと二人、部屋に篭っていた。


当日は夕方までお妃教育があり、セシルには隠し部屋で大人しくしているよう伝えていた。


お妃教育の授業が終わってから、その日は珍しくジルクハルトが馬車で邸まで送り届けてくれ、久しぶりのことにドキドキしていたのだ。


いつもは表情がないのに、その日は笑顔で外を眺めていた姿に見惚れてしまった。レティシアの方へ視線が移った時、ジルクハルトが嬉しそうに話していたが、胸の鼓動が頭に響き何を話していたのか覚えていない。


その笑顔は、いつも、義妹に向けられていたものだから。勘違いだとわかっていても、自分に向けられたかもしれない笑顔に高鳴る胸の鼓動、ただ、義妹の事を想っての笑顔かもしれない、そんな考えが頭を過ぎるとドロドロとした感情が胸を覆う。


馬車から降りる際のエスコート、邸のホールでの抱擁、その全てが想定外で、初めて、ジルクハルトの胸に頬を埋め、背に腕をまわしたのだ。胸がいっぱいになった。




そう、あの光景を目の当たりにするまでは。




「いっ……いやぁああああ!!!」



ジルクハルトの温もり、あの、優しい手を忘れたくない。だから、こんな男に触れられるわけにはいかないっ!!!


その瞬間、襲いかかってきた男に対して魔術を発動させ眠りにつかせ、急いでセシルを連れ逃げ出した。




全てを捨てる事は意外にも簡単だった。その先の幸せを掴むために必要な事だから。



逃げ出した日から数年ーーーーーー

▼連載中

「狂う程の愛を知りたい〜王太子は愛を乞う〜」

https://ncode.syosetu.com/n4767gl/

→毎日0時更新!


▼10月には第三章の公開予定

「僕は婚約者を溺愛する」

→お月様で公開中


他にも短編をアップしています。

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