序章ー6
アニー達がライアンの方へと駆け寄っていく。
全身で歓喜を顕にし、感動に瞳を潤ませているようだった。
ライアンを抱きしめながら、アニーは、
「勇者様、すぐに傷を治します。」
と言い、魔法を唱えようとする。
しかし、それをライアン自身が制した。
「いや、…僕よりも、リュートの方を先に治療してやってくれ。」
「なに言ってんだよ。…今は、お前の方が重症じゃないか。…こう、血がドバドバって。」
「いいんだ、ユージ。……」
とライアンは抱きしめている腕を振りほどき、アニーの背を押して、俺のいる場所まで来た。
「さぁ、アニー。……早く。」
と急かされて、アニーはオロオロしてしまっていた。
それでも彼女は、俺に向かって呪文を唱えようとしていたら、ー
苦痛の声を漏らし、ライアンが足が崩れて膝をついた。
急いで全員が振り向くと、もはや彼の瞳は虚ろとなり、虫の息の状態だ。
「ほら、見ろ。…やっぱり、そうじゃねぇか。」
「これは、もう魔法じゃ間に合いません。…残っていたエリクサーを使用しましょう。」
ロンダーは懐から液体の詰まった瓶を取り出し、蓋を開けて中身を、直接ライアンの傷口にかける。
瞬く間に傷は塞がりだし、なんとか立てるまでの元気を取り戻した。
「す、すまない。…皆。」
ライアンが謝罪するも、他の仲間達はほっと安堵したようで、首を横に振って否定していた。
すると彼は、ロンダーから多少残ったエリクサーの瓶を受けとり、屈んで俺の方に瓶の口を向けてくる。
「大丈夫だよ、今治すからな。リュート。……」
その彼の一言に、俺は堪忍袋の緒が切れた。
残った力で瓶を持つ手を叩いてやった。落ちた瓶は割れずに床を転がっていく。
「な、何をするんだ。…」
「そうやって。…お前はいつも、俺を各下に見て蔑んでいるんだろう。…お優しい勇者の俺は、お前みたいな、ひねくれた野郎も心配してやるんだぞって。……」
「は?」
「現に、…他の奴等は、誰も俺なんか眼中にないらしいしな。…よかったな、思惑通りに言って。」
俺の言葉を聞き、ライアンは困惑していた。訳が分からないと、表情で訴えてくる。
そんな、あいつの顔を俺は睨み付けながら、
「俺は、…お前のそんなところが、一番嫌いだったんだよ!!」
と、大声で宣言した。