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竜の帝國  作者: 飯屋魚
3/12

03:竜の英雄③(竜暦紀元前286年

彼は血を流しながら、這いずりながら、溶岩の池に浮かぶ島を目指した。

島へと続く道は高温に焼けていて、手のひらも膝も、進むたびに地面にねばって糸を引いた。


それでも彼は進む。


はぁはぁ、と息をするたびに周囲の熱が喉と肺を焼く。

流れた血は地面に落ちる前に蒸発した。


目はもはやかすんでろくに見えない。

少しでも踏み外せば彼は溶岩に溶けてしまっていたことだろう。


が。

運か。

勘か。

それとも導きか。


気力だけで彼は島に渡ると、銀色に光る御霊へと手を伸ばした。


ヒヤリと雪のような冷たいものを指先に感じた。


途端。


彼は不可思議な空間にいた。

いいや、った。


わかるのだ。この真っ暗で真っ白で、果てがないようでいて酷くせまっ苦しい、空間の全てこれ自体がおのれであると。


同時に彼はソレが在るのも感得していた。

ソレは己の隣に在った。

ソレは己の内に在った。

ソレは逆に己を内包してた。


【トリヒキ ダ】


ソレは言葉ではないナニカで彼に伝えた。


【これ ハ これ ニ ノゾムモノ ヲ アタエヨウ】


【ナレバ】


【これ ハ これ ニ ノゾムモノ ヲ アタエルノ ダ】


望むもの。

彼が望むのはちからだった。

屈従をはねのけるちから

己が己であるためのちから

どんな強大な相手だろうと、ぶちのめす、圧倒的なちから


【ノゾムノハ カテ

 スバラシク キタナイ

 マバユクモ クダラナイ

 カンゼン ヘト イタル カテ】


彼とソレが混ざり合う。


コ に イ ク ナ た

 コ ケ ヤ は っ


彼が再び意識を取り戻すと、そこは溶岩の真ん中に浮かぶ島だった。


ひどい怪我をしていたはずなのに、すっかり治っている。

おまけに焼けるような熱を感じなくなっていた。


自身が生まれ変わったのが、彼にはハッキリとわかった。


視線を感じて顔を上げる。

目の前には異形の生物がいた。


うつろな内に漂うように浮かぶ銀色の瞳。

ニヤリとわらったドクロのような面相は、馬上槍を連想させる角をつけた真っ白な兜めいたもので覆われている。


悲鳴を上げるはずだった。

まっとうな人間ならば尻に帆をかけて逃げるはずだった。

恐怖で。

圧倒的な死の予感にさらされて。


しかし。どうしたことだろう?

恐怖を彼は感じなかった。

むしろこの異形の生物に、おかしなことだが愛情を感じていた。


立ち上がる。

異形の生物が彼の動作に合わせて下げていた首を動かす。


彼は異形の生物を観察すべくゆっくりと歩いた。

その歩みに合わせて異形の生物の長い首がついてくる。


どうしたって尋常な獣には見えなかった。

かといって魔獣のような瘴気を放っているわけでもない。


ソレは、トカゲのような胴体を騎士のような甲冑でよろっていた。

生やした羽は透明で七色にきらめいている。

後ろ足は筋肉質で、鋭くも野太い爪がガッシリと岩盤に食い込んでいた。


全高は立ち上がった彼よりもなお頭4つ分は高い。

頭から尻尾までの全長はそれこそ15メートルはあるだろう。


「ギャウ」


異形の生物がく。


竜。という単語が彼の頭に浮かんだ。

そうか。お前は竜という生き物なのか。


下げていた竜の頭に彼は手を伸ばした。

甘えるように竜が彼の手に頭部の兜を摺り寄せる。


この竜は産まれたのだ。

あの御霊みたま……いいや、卵から。

彼と一緒に。


いわば、この異形の生物、竜と。

彼とは兄弟だった。


「お前の名前は……ライハジーラだ」


その昔。空に浮かぶ雲をすべて食べつくしたという神の名だった。


「グゥゥウォ」


竜が…ライハジーラが喜びにく。


ライハジーラは首をさらに下げた。

彼は躊躇うことなくライハジーラの首にまたがった。


竜の鎧の隙間から幾十本もの細いくだがスルスルと伸びあがると、彼の体のいたるところに突き刺さった。

わずかに血がこぼれ、痛みに顔をしかめる。

が、それはひと呼吸の間。


刺さった管は皮膚に癒着して彼の体をしっかりと固定した。

同時に竜と彼との思考がつながる。


一心同体。


「飛べ」


思えば、ライハジーラは虹色に光る羽をゆっくりとはばたかせた。

硬いように見えた羽はやわらかに風をうって、ほんの2回羽ばたいただけで、彼と、如何にも重い竜とを、空中へと持ち上げたのだった。






メガラリカの王、イミルアは笑っていた。

嘲笑あざわらっていた。


相手の軍勢が少ないのと、軍備があまりにもお粗末だったから。


「おい」と侍従に問いかける。

「この国の名は何であった?」


「アイハラーンでございます、陛下」


そうであったな。

イミルアは思い出した。


実際、彼はこうしてアイハラーンの首都…というには貧層だが、曲がりなりにも王族の住み暮らす街まで繰り出したにもかかわらず、相手にしている国の名前を失念していたのだ。


「兵士の数は80人ほどか?」


国力を考えればこんなものだろう。嗜虐しぎゃくの王は思う。

ここまでの道行きで、領主だか村長だか分らぬような輩が降伏してきたのをことごとく拒否したのが功を奏した。

降伏できなかった連中がこうしてアイハラーンの王のもとに集まったのだから。


何故、イミルアはアイハラーンの兵士を追い詰めて糾合させるような真似をしたのか?

尋ねたのなら、イミルアは呆れたように答えたことだろう。

逆に何故、ほまれあるメガラリカ軍に蛮人を加えなければならないのか? と。


そう。メガラリカにとって最北方に位置するアイハラーンが如きは蛮地であり、住み暮らす人間は、犬人と変わらぬような蛮人の扱いだったのだ。


それに、だ。

流れる血は多ければ多いほどに楽しいではないか!


イミルアはアイハラーンを滅ぼす心積もりだった。

王族だろうと1人残らずの虐殺である。


これはいわば祭りの前の前夜祭だった。

兵士の意気をあげて、返す刀でメガラリカの仇敵である敵対国を急襲するのが計画だったのだ。


むろん率いる兵は多い。その数5000。輜重兵を除いての数である。

どう考えてもアイハラーンが如き80の兵に負けようはずがない。


そのアイハラーンの兵のなかから10騎が進み出てきた。


「我はアイハラーンが王、ジンド! メガラリカに問う! 恭順の意を示した我が国を、何ゆえに軍勢をもって脅かすのか!」


フム。

イミルアは顎髭を撫でると、引き留める周囲をきかずに、自ら騎馬牛に乗って軍勢の前に出た。


「我が名はイミルア、メガラリカの王である!」


アイハラーンからしたら『まさか』であった。メガラリカ王自らの名乗りにアイハラーン側が動揺する。


「恭順の意を示したとのことだが、どうやら使者とは行き違ってしまったようだ」


言うまでもなく嘘である。

使者は道行きで捕らえ、既に首をねている。


「また、これ等の兵は脅しのためではなく、シェイナ姫を迎えるためのものである!」


事実であった。もっともシェイナ姫を迎えるために自ら訪れたという部分だけではあるが。


「侵略の意志などなき証左に、これまでの道のりで、我が軍は略奪をいっさいしておらぬ!」


もっとも、とイミルアは内心でわらう。

復路は存分に楽しませてもらうがな。


いくさをしたあとのたかぶった兵士にとって、略奪は娯楽なのだ。

娯楽を禁止しては士気にかかわる。


侵略ではない?

そうと聞いたアイハラーン側がざわざわと動揺した。

そういえば降伏をしようにも追い払われただけだった。


不意にざわめきが途絶えた。


イミルアは何事かと視線を向ける。


美しい女…少女がいた。

兵士たちが開けた道をとおって、こちらへと歩いてくる。


ジンドと側近が慌てるが、少女は悠然としてイミルアの前へと進み出た。


「お初にお目にかかります、アイハラーンはジンドの子、シェイナでございます」


淑女の礼をする。


イミルアは興味深くシェイナ姫を見定めた。

5000の兵を前にして臆することのない女。虚勢ではあろうが芯が強いのだろう。

それに蛮族の女にしては目を惹く容姿をしていた。


思う。

こいつは楽しめそうだと。

思う。

わざわざ自ら足をすすめた甲斐はあったと。


嗜虐の王は内心で舌なめずりする。

気が強いばかりの貴族の女よりも長く遊ばせてくれそうだと。


まずは、この姫の目の前で、この貧弱な国の王族貴族兵士住民ことごとくを殺してやろう。

次に、血の海の中で、この強気な姫をなぶってやろう。


いったいどんな表情をしてくれるものか。

姫の心がポッキリと折れた時のことを想像するだけで、メガラリカの王は心からの屈託ない笑顔になってしまう。


イミルアは手を差し出した。


「迎えに参りましたぞ、シェイナ姫」

竜、のモデルは「パンツァードラグーン」というSTGからです。

気になった方は検索してみてください。

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