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竜の帝國  作者: 飯屋魚
12/12

12:太陽の姫②(竜暦紀元前233年

【竜暦紀元前233年


ナウリナはそれはそれは甘やかされて育てられた。

フオが溺愛すること甚だしく、マジで6歳ぐらいまでは部屋から出してもらえなかったぐらいである。

といっても我々が想像するより何十倍も広い部屋だし、ナウリナの大らかというか鈍いというか、そんな性格もあって、本人は不便も不満も感じなかったが、ぶっちゃけ虐待であった。


これはさすがに王妃と側近がフオに意見して改められたものの、依然としてナウリナは箱入り娘であり続けた。

純粋培養。

至れり尽くせり。


そんな彼女が『ひもじい』思いをしたことがなくても仕方がないだろう。


さて。

城に戻ったナウリナはさっそく『お腹がすく』体験をするために絶食をした。

思い込んだら一直線なのだ。


♪ぶーぶぶ、ぶーぶぶ(結果にコミットする会社のCM音楽を流用お願いします


1日目

 お腹が痛い。なんでだろう? ご不浄に行くのとは違うような?

2日目

 お腹がグーグー鳴いて止まらない! 凄い! 面白い!

3日目

 なんだか喉が渇くので水ばかり飲んだ

4日目

 体がだるい。だるいというよりも重たい。目も回る。

5日目

 体は言うことを利かないのに、頭は異様に冴えている

6日目

 ご不浄に籠った。体の中の悪いものが流れ出た気がした

7日目

 ほとんど眠って過ごす


父親をはじめ、おおぜいが心配するのをよそに、ナウリナはなんと1週間の絶食を達成した。


「もう止めてくれ、ナウリナたん!」


と、ゲッソリやつれ果てたフオ陛下が泣きついたかは分からないが、とりあえずナウリナは自らの命が危険なことを察して断食を止めたのである。


頑固娘は、もりもりと肉やら肉やら肉やら、あと肉を食べていた。


ん? 絶食のあとでそんな消化に悪いものを食べたら体を壊す。

しかしナウリナは犬人であった。体は人間と比べ物にならないくらいに丈夫なのだ。

胃は拒否することなく、しっかりと肉を消化した。


マナーを完璧にこなしながらも、次々と皿のうえの物を平らげるナウリナはしみじみと思った。


美味しい…。

美味しいは正義だ、と。


同時に強く強く思ったのである。


お腹が空くというのは、いけないことだ!


それは思いというよりも想いであった。

もはや信念だった。


駆逐してやる!


と例の彼みたく宣言したかどうかは定かではないが、それぐらいの決意だった。


その時だ。


「…………」


ん?

誰かに呼ばれたような気がして、ナウリナは辺りを見回した。


声は聞こえない。


でも。


「呼んでる」


ナウリナは立ち上がると、導かれるように歩いた。


そこはリッセックウの竜舎だった。

絶対に入ってはならないと言われている場所だ。


扉に鍵はかかっていなかった。

そもそも鍵があろうがなかろうが、竜舎に立ち入ろうとする者などいなかったのだ。


今のこの時までは。


ナウリナは中に入った。


何もなかった。

外観ばかりは立派だが、なかは地面は土のままだし、天井なんてありもしなかった。


キョロキョロと見回していたナウリナの視線が釘付けになる。


それは鈍い銀色に輝いていた。


「あなたがワタシを呼んだの?」


近づいたナウリナはそれに…リッセックウの生んだ御霊に触れ。

ヒヤリと雪のような冷たいものを指先に感じた。


途端。


ナウリナは不可思議な空間にいた。

いいや、った。


わかるのだ。この真っ暗で真っ白で、果てがないようでいて酷くせまっ苦しい、空間の全てこれ自体がおのれであると。


同時にナウリナはソレが在るのも感得していた。

ソレは己の隣に在った。

ソレは己の内に在った。

ソレは逆に己を内包してた。


【トリヒキ ダ】


ソレは言葉ではないナニカでナウリナに伝えた。


【これ ハ これ ニ ノゾムモノ ヲ アタエヨウ】


【ナレバ】


【これ ハ これ ニ ノゾムモノ ヲ アタエルノ ダ】


望むもの。

ナウリナが望むのは空腹のない世界だ。

みんながお腹いっぱいになったらどんなに好いことだろう!

ついでに美味しいものがあったら、もっと嬉しい!


【フム】


とソレから考えるような思念が送られた。


【ウマイモノ カ

 キョウミ アルナ】


ブホ! と感覚的に壁の向こうで誰かが吹き出した。


【チョ! オマ!

 ナニ イッテルノ!】


【カアチャンハ シャラップ!

 コレ ハ オレ ト コイツ ノ ケイヤクダシ!】


【イチゾクトシテ メザスモノ アルデショウ!】 


【オレ ハ キマッタ ミチノウエ アルクノ マッピラ!】

 イチゾク ノ ハグルマナンテ ゴメンダ!


何不自由のなかった恵まれバブル世代が若かりし頃に言いそうなことを口?走ったソレは


【ノゾムノハ ウマイモノ

 コレ ガ ウマイトオモイシモノ

 コレ ニ ワケアタエヨ】


ナウリナとソレが混ざり合う。


コ に イ ク ナ た

 コ ケ ヤ は っ


ナウリナが再び意識を取り戻すと、そこは竜舎だった。


そうして。

目の前には『竜』がいた。


「グゥララララ」


哭いたほうを見れば、リッセックウが苦々しい顔をしている。

なんだか遣る瀬無い感じだ。


「ホッホホホホイ」


ばれてナウリナは生まれたばかりの竜を見た。


色は赤。輝くような色見。

白い兜に飾りはなく、額の部分に太陽のように丸い意匠があった。


「そうでしたわね、名前をつけましょうか」


ナウリナは首をひねって


「あなたの名前はハッピッピ」


ハッピッピ。

ナウリナが幼いころに飼っていた猫の名前であった。

決して神の名前ではない。


「ホ? ホホホイ?」


マジで? もっとカッコイイ名前はないの?

と文句を言われた気がしたが、ナウリナは首を振ることで受け付けなかった。


ハッピッピは遣る瀬無い表情をした。

それはリッセックウとくりそつであった。




竜は基本的に2種類のブレスを使い分ける。


ライハジーラは『炎』と『爆裂の火玉』を。

リッセックウは『炎』と『癒し』を。


もちのろんでハッピッピも2種類のブレスを吐くことができた。


浴びた生き物が満腹を感じる、ブレス。

浴びた土地を肥沃にする、ブレス。


この2種類である。

ナウリナに相応しく、人を害すブレスはなかった。


竜を手に入れたナウリナはさっそくアイハラーンの国内を忙しく飛び回るようになった。


フオは例によって親ばか満載で反対したが、ナウリナは竜人となったのだ。

もはや彼女を止められることは出来なかった。

いいや、フオは止めたのだ。しかし『お父様なんて嫌い!』と言われてノックダウンしてしまったのである。


ハッピッピの満腹ブレスに人々は感動した。

何故といって、満腹感を感じるまで食事をできる人なんてのは貴族でも稀だったからである。

満腹という幸福を人々は生まれて初めて体験したのだ。


次に大地が肥沃になるブレスだ。

この頃はまだ寒冷が続いていたが、それでもブレスを浴びた土地は寒冷化する前と同じぐらいの収穫量となった。

食糧問題は解決し、3年も経たないうちにアイハラーンに腹をすかせた者はいなくなったのである。


こうしてアイハラーンを善くしたナウリナは、国外に向かうこととなった。


当時、北方の国々はアイハラーンの竜をていよく扱っていた。

国民の不満が高まるとフオのリッセックウを僅かばかりの金銭で召喚し、国民を慰撫していたのである。


これはフオの不戦と、アイハラーンの融和外交のためであったが、喉元過ぎればなんとやら、北方の国々は竜の脅威をとんと忘れて、むしろ使い勝手のいい道具ぐらいに思うようになってしまっていた。


この使い勝手のいい道具が、新しく増えたのである。

国々はナウリナを遠慮なく呼んだ。


ほとんど王族に対するものではなかったが、それでもナウリナは喜んで飛んで行ったものである。


彼女の行動原理は単純にして明快。

お腹を空かしている人をなくす。

そのために地味を豊かにする。


ナウリナは自分のためではなく、他人のために忙しなくハッピッピを駆ったのであった。


とはいえ、だ。

ナウリナにご褒美がないわけでもなかった。


ご褒美。

それは土地土地での産物を活かした料理である。


ナウリナとハッピッピは契約の通り、飛んだ先の国でたいそうなご馳走を食べまくったのだ。




【竜暦紀元前220年


ナウリナ姫、できちゃった婚。

相手の男はナウリナ姫が成人前に連れてきた元浮浪児で、現、姫付きの騎士であった。


【竜暦紀元前219年


ナウリナ姫が双子を出産。

しかし小柄な姫は無理がたたって儚くなる。

はっちゃけ過ぎたかも

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