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竜の帝國  作者: 飯屋魚
11/12

11:太陽の姫①(竜暦紀元前233年

息抜き回のパート1。

今までと毛色が違いますが、ご容赦を。

竜暦紀元前233年


なんでだろう?

どうしてだろう?


人は彼女を見ると一様に首をひねった。


なんでこの2人から、この娘が?

何処も似てないじゃないか?


フオ陛下夫妻が、犬人の目から見ても、人間の目から見ても、図抜けて美しい容姿をしているだけに、余計に首をひねらざるを得なかった。


どうしてナウリナ殿下は、あんなに面白い外見をしているのだろう? と。


12歳になるナウリナは、それはそれはフクヨカだった。

犬人といえばスラリとしたスリムな体系が特徴だ。

しかるにナウリナは犬人にもかかわらずポテリとしていた。

腕なんてポヨポヨのプニプニといった具合だ。


顔の造作も両親にちっとも似てなかった。

ハッキリ言うと美人ではない。

ぶっとい眉毛に大きなお目目。ゆいいつ鼻は奇麗だったが、その下の口はキッククの卵を3つ詰め込めてしまうほどに大きかった。


身長も高くない。ちんちくりん。

両足が短いからか、歩くと重心が左右にぶれる。


褒めようがないほどに美人ではなかった。


しかし、だ。

ナウリナは不細工でもなかった。


何時でも微笑んでいる…と表現すると上品すぎるか。ニコニコしているピカピカのかんばせは人目を惹いたし、みんなをおべっかなしで笑顔にさせた。

犬人はむろん、人間でさえナウリナを前にしたらほだされてしまうほどだった。


そんな笑顔に誘われて、ナウリナの周囲は何時でも人がいた。

彼女の周りは何時だって笑顔であふれていた。


しかめっ面がデフォルトのマナー教師、リセラムも。

眉間に深い縦皺が刻まれている宰相のショガも。


ナウリナを前にしたら笑顔になった。


太陽みたいな子。

それがナウリナを称する言葉だった。


さて。ナウリナはその体型から言わずもがな、食べるのが大大大大大大~~~~~~~~好きだった。

おまけに好き嫌いもない。

あれもこれも食べる。巷ではゲテモノと言われるものさえ手を出していた。


今日も今日とて朝餉をたらふく戴いたナウリナはぽんぽこお腹をさすりながらベッドに倒れこんでいた。


けれど彼女はもう12歳。

来年には成人である。

自分なりに思うところもあった。


「このままじゃ…いけないわ」


決然として起き上がろうとしたナウリナは、でも腹筋が足りなくて、コロリンと横に転がるだけだった。


「このままじゃいけないわ!」


ふかふかの布団に顔をうずめて、ナウリナは誓ったのだ!


そんなナウリナは数時間後には城の外にいた。


1人である。城を抜け出したのだ。


アイハラーンの城は防備を念頭に置いてない。

ぶっちゃけてしまえば、ここまで攻められたらお仕舞なのだから、防御に力を入れてもしょうがないじゃん。だったら華やかな方に全振りしよう。

という幾代か前の王の潔さの結晶だった。


防御力ゼロなのだから、抜け出すのも簡単である。

ポテポテとした足取りのナウリナが、誰に見咎められることもなく抜け出せてしまうほどダメダメだった。


「ほわぁあああ」


街におりたナウリナは、なんとも間の抜けた声をもらしていた。


彼女はお姫様なのだ。

街におりたのは初めてだった。


ポテポテと歩き回る。


ナウリナは探していたのだ。

いまだ己の知らぬ美味しいものを!


来年には成人である。

もっと、もっと! 美味しいものを食べたいと一念発起したのだ!


んんんんんんんん?

てっきりダイエットを決意したかと思ったって?


ノンノンノン!

ナウリナの頭には食べることだけ。

ダイエットの『ダ』の字さえ浮かんではいなかったのである。


「!」


ナウリナの鼻が食べ物のニオイをとらえた。


屋台である。

肉を焼いていた。


「ご亭主、これは何のお肉ですか?」


「さぁ?」


とは肉を売っているオヤジの応えである。


実際、何の肉かなんて知らなかった。

自分で肉を捌いているわけではないのだ。

市場で売れ残ってヤヴァイ臭いの出始めたアレヤコレヤの肉を格安で譲り受けているのだ。


衛生? なにそれ? の時代である。

とりあえず黒くなるまで焼いとけばいいだろ? てな具合であった。


万が一、腹痛になっても肉が原因だという証拠はない。

死んじゃったりしても、死んじゃった人間が文句を言いに来るはずもないので問題ない。


そんな時代であった。


「買うのかい?」


「いただくわ」


オヤジは真っ黒黒に焼いた串焼き肉を差し出した。


受け取ってナウリナは困ったように、ぶっとい眉を寄せた。

立ち食いはマナー違反だった。


う~~ん、どうしよう。

ま、いっか。


この間、秒である。

食欲がマナーを押しやった瞬間であった。


パクリ、お姫様は物怖じすることなくかじりつく。


「う~~ん、まずい」


正直なお姫様であった。

それでも吐き出さないのはナウリナなりの矜持だった。


「ハッキリ言うなぁ」


オヤジがタハハと笑う。


これがナウリナ以外の言葉だったら


『てンメー、ふざけんな!』


と不味いのを承知してるくせして、オヤジは怒り心頭で喰ってかかったことだろう。


しかし相手はナウリナだった。

なんとなく笑けてしまうのである。


ナウリナはそのまま串焼き肉を手にして踵を返す。



「おいおい! お代は?!」


オヤジが待ったをかけた。


普通、屋台といえば先払いである。

そうしないと現物をもって逃げ出す輩がいるからだ。


今回はナウリナの服装が如何にも金持ちだったためにオヤジは先に串焼きを肉を差し出したのだった。


「お代ですか?」


ナウリナは頬に手を添えて小首をかしげる。


オヤジは頬を引くつかせた。

怒ったのではない。

笑いを我慢したのだ。


それほどにナウリナはビックリするほどに様になってなかった。


それはともかく。

テンプレである。

お姫様はお金を使ったことがないので、お支払いという概念がないのだ。


ナウリナとオヤジが見詰め合う。


すわ! 恋に落ちるかと思われた。

その時だ。


「失礼」謎の老紳士が表れた。

「お代はわたしが支払いましょう」


超怪しい。

その正体はアイハラーンに仕える『裏』の人間だった。


「お嬢さんがわたしの孫に似ているもので放っておけなくてね」


などと取ってつけたようなことを言う。


オヤジは敢えて何も言わなかった。

お金さえもらえればいいのだ。


「ありがとう」


ナウリナはカーテシーをした。

やっぱり似合わない。

でも何故だか違和感がない。

不思議なお姫様である。


「いえいえ、どういたしまして」


老紳士と別れたナウリナはポテポテと歩みをすすめた。


歩きながら串焼き肉を食べる。

既にマナーなんて何処吹く風だ。


「ん?」


ナウリナが足を止めた。


路地の間口で幼い子供が自分を見上げていたのだ。


再び見つめ合う。


ナウリナは串焼き肉をもぐもぐと食べる。

お残しはしない。ナウリナの矜持であった。


幼い子供は、そんなナウリナの口元をジッと見ていた。


道行く人たちが2人を避けて行く。


「お母さん、あの人たち何してるの?」


「しっ! 見ちゃだめよ!」


テンプレであった。


モグモグ

ジッ


モグモグ

ジッ


遂にナウリナは串焼き肉を平らげた。

ガムなんてない時代だけど、ガムみたいに噛んでも噛んでもなくならない不思議肉だった。

ナウリナでなければ半分も食べずに捨てていたことだろう。


ジッと見ていた幼い子供が、いきなり膝から崩折れた。


「どうしたのですか!」


さすがのナウリナも慌てた。

屈んで、幼い子供を抱き上げた。


幼い子供はお世辞にも清潔とは言い難かったが、彼女は頓着しなかった。


好い子なのだ。


そんな好い子ナウリナの耳に『ぐー』という音がとびこんだ。


何の音だろう?

ナウリナはキョロキョロと音の出所を探す。


と。幼い子供が言った。


「お腹が…すいた」


その言葉の意味をナウリナは理解できなかった。


何故なら!

彼女は!

今までお腹がすいたことなんてなかったのだ!




【竜暦紀元前233年


アイハラーンの姫ナウリナ。

街にお忍びで出かけ、生まれて初めて


『お腹がすく』


という言葉を耳にする。

休日にコーヒーゼリーをつくるのがマイブームです。

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