異世界転生 ネットワーク回線
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パール「君、うんこだよね」
一瞬何を言われたのかわからなかった。
まるでいじめの標的になったかのようなあだ名。
しかし、この場合はあまりに的を射た言葉。
俺『な、なにを言う!我は胃腸の神と言ったであろう』
俺は焦って言う。
パール「さっきまでそんな喋り方じゃなかったじゃん・・・」
神『い、いや、それは、お前を安心させようと・・』
そんな言い訳が今更通じるわけもなく、少しあきれたようにパールは言う。
パール「わたしもネトゲにはまってたからわかるんだよね」
パール「ゲーム内でそういうキャラ演じたりするんだけど、結局普段喋らない
言葉だから、焦ったりすると素が出ちゃったりするんだ」
俺にもそういう時期があった。
当時はカッコつけようとしてやった事だが、後々思い返すと黒歴史になるあれだ。
パールの言う通りで異世界に転生したばかりで混乱することばかり。
ついうっかりキャラ作りを忘れたのは認める。
だが。
俺『いや、しかし待て。ちょっとキャラ作りしてる神かもしれんだろ。
それをうんこだと?』
パール「だって、さっきうんこした時、君の気配お腹から消えたもん」
俺『・・・・・・』
パール「その後何かがお尻に突き刺さった時、また君の気配がしたし」
俺『・・・・・・・』
そうなのだ。俺はどうあれパールの中に入らないと死んでしまう身。
出たらすぐに入らなければならない。
ぐうの音も出ない証拠に押し黙ってしまった。
パール「何で神なんて名乗ったの?」
俺『そ、それは君を安心させようと・・』
パール「ホントの事言わないと、捻り出して追い出しちゃうよ」
俺『ま、待て!そんな事されたら俺はまた乾いて死んでしまう!』
俺にとって死活問題。
しかもパールにはそれが簡単にできてしまう。
パール「じ、じゃぁ答えてよ・・」
乾いて死ぬという言葉にやや引きながらも話を促すパール。
パール「嘘偽りなく答えてね。後々嘘だってわかったらひねり出して
内輪で扇いでやるから」
なんという恐ろしい事を言うのだ。
しかしパールの目は本気だ。
俺『マウント取ろうとしました・・』
観念してホントの事を言う。
パール「マウント?」
俺『上位の立場に自分を置いて、いいように幼女を操ろうとしました・・』
今度俺が顔を覆う。
責められるとつい敬語になってしまうのはブラック会社で培ったくせだろう。
パール「・・・・」
パールは目を細め、さげすむような目線で俺がいるであろう腹のあたりを見る。
パール「君、なんなの?わたしのうんこに命が宿ったの?」
俺『ほぼ正解ですが、もうちょっと詳しく言うと』
俺『俺は異世界人です・・・』
パール「異世界人!」
パール「異世界人って、つまり君、うんこに転生したって事?」
俺『おお、それだ!』
俺『ほぼそれで正解だ。頭のおかしな女神にうんこに転生させられたんだが・・』
しかしパールの言い方に引っ掛かりを覚え、逆に聞く。
俺『随分簡単に異世界人である事を受け入れたな。
この世界って異世界から転生する奴たくさんいるのか?』
パール「いや、たくさんはいないけど、たまに異世界からこっちに来る人は
いるって話は聞いたことがあるよ」
俺『マジかよ』
先駆者がいた。
それはある種の希望になるかもしれない。
もしかしたら俺が元居た世界に戻れるチャンスになるかも。
俺『それで?その転生者はどうしてるんだ?そいつらはその後帰れたりできたのか?』
パール「わ、わかんないよ」
パール「他国の話だし、異世界人自体レアケースだし、わたし自身会うなんて初めてだし」
俺『・・・・・』
少々残念だったが、それでも希望がないわけではない。
あるいはその異世界人とやらを探せば帰る方法も見つかるかもしれない。
俺が感慨にふけってるとパールが聞いてきた。
パール「で、君の事なんて呼んだらいい?」
俺『え?』
パール「うんこだから”うんこちゃん”とか?」
俺『いや~、ちゃん付けとかなんかやだな』
パール「”うんこくん”とかは?」
俺『年下にくん付けもちょっとやだ』
パール「転生したなら君のが年下じゃん」
俺『そっか・・。いやでもなぁ、かといってさん付けもしっくりこないし』
そもそもうんこ呼ばわりされる事に元人間である俺は抵抗感がある。
俺『今まで通り”神”にしようぜ』
パール「え~、やだよぉ・・」
パール「だって君神じゃないじゃん。嘘じゃん」
俺『いや、そうでもないぞ。俺はちゃんと女神の命名を受け転生したんだ。
それはつまりその女神が産み落としたのも同じ。
神が産み落としたなら神みたいなもんだろ』
詭弁だ。うんこ呼ばわりはされたくない。
パール「頭のおかしな女神でしょ?」
俺『だが、それでも神は神だろ。神はよく神を産み落とすだろ?それと同じじゃん』
パール「でもな~うんこを神って言うのはなぁ~」
なおも神呼びに抵抗するパール。
甘いな。こちとらブラック企業で何年もクソ商品の営業やってたんだ。
その程度の詭弁くらい余裕だ。
俺『いやパールよ、よく考えてみろ』
俺『例えばだ。お前が敵兵と対峙して、絶体絶命のピンチ。もう俺に頼るしかない』
俺『その時にだ。お前、「うんこよ、我に力を!」って言うのと
「神よ、我に力を!」って言うのどっちの方がカッコイイと思う』
パール「!?」
俺『圧倒的後者だろ。だがお前、ふだんからうんこ呼びしてみろ。
咄嗟に「うんこおおおお」って叫びかねないぞ』
パール「うう・・・」
パールは頭を抱える
パール「でもなぁ・・・」
パール「わかった。間を取って神ちゃん(しんちゃん)にしよう」
俺『ま、まぁ、うんこ呼ばわりよりいいだろう、
お前がそのうちケツだけ星人になってもいいなら』
パール「?」
異世界人じゃなきゃわからない事を言ってしまった。
俺『いや、こっちの話だ。それよりだ、さっきの話で一つ気になった事があるんだが』
パール「何?」
俺『さっきネトゲって言ってたよな。それネットゲームの事か?』
パール「ん?うんそうだけど、知らない?」
俺『いや、わかるけど、この世界にネットワーク回線があるのか!?』
パール「うん、あるよ」
と簡単に言ってしまった
正直それは驚きだ。てっきり中世ヨーロッパくらいの文化水準だと思っていたが
ネットゲームなど、元の世界にも匹敵するくらいの科学技術力があるという事だ。
俺『何だよ、早く言ってくれよ。ネット回線があるなら使えるとこに行けば、
人に会わずして情報取れるじゃないか』
と思っていたが。
パール「私が使えるアリスネットなんて王宮にしかないよ」
俺『アリス・・何?』
パール「アリスネットワーク。何?この事言ってたんじゃないの?」
俺『・・・解説してくれるか?』
パール「解説ってほどでもないけど、あの不思議の国のアリスが作った
ネットワーク回線の事だよ」
パール「元は夢を媒介に繋がる魔術の事らしいけど、
それを眠らずとも魔術アイテムの代用でできたのがアリスネットワーク」
この世界にネットワーク回線とやらがある事にも驚いたが、それ以上に驚いたのは
俺『不思議の国のアリスってあの不思議の国のアリス!?』
俺の世界では誰しもが知る世界的に有名な童話だ。
それをこの世界で聞く事になるとは思わなかった。
パール「あのとか言われても、他に不思議の国のアリスという人は知らないけど」
俺『ほら、ウサギ追いかけて穴落ちて喋る虫やら生きてるトランプやら卵やらが出てくる話』
パール「うん。それだよ」
俺『え?現実に存在するの?』
パール「するよ。てか神ちゃんも知ってるじゃん」
俺『いや、知ってはいたけど、なるほど、そういう事か・・・』
俺はやっとこの世界の設定というか成り立ちのようなものが見えて来た。
まだ一例でしかないからなんとも言えないが、
あるいはこの世界は童話の中のような世界なのかもしれない。
そのうちオズの魔法使いや、赤ずきんが出てくるかもしれないな。
赤ずきんなんかは俺の好みなので出会いたいななどと思ってると
ピキーンと何かの気配を感じた。
俺『これは!?』
パール「どうしたの?」
俺『まずいぞ!こちらに何者かが来る!』
パール「え!?」
俺『うんこの気配だ!』
そう、俺はまた新たなスキルを獲得したのだ。
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スキル”うんこサーチ”
人類にはある特殊能力が備わっているのをご存じだろうか。
こんな経験はないだろうか。
うんこしたはずなのに、なんかまだうんこがお腹に残ってる感じがする、と。
そう、人類は皆便意も催してない時でも、うんこの存在を感じとる事ができるのだ。
彼に新たに備わったスキルもまたこれに呼応する。
彼は近づいて来るうんこの気配を感じとる事ができるのだ。
うんこは断食でもしない限り普通は腹にわずかにでも残るもの。
その他者のうんこを感知してるのだ。
しかもこのサーチスキルはかなり高性能。
人類は自身の気配を遮断する技術は習得する事はできても
うんこの気配を遮断する事はできない。
腹に少しでもうんこが残っていれば仮に有能なアサシンであっても
彼に気配を悟られてしまうのだ。
同作者の作品
ニコニコマンガ 第二次世界大戦を中二病で解説してみた
http://seiga.nicovideo.jp/comic/37013
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