20 『ベッドの上で正座をしている後輩くんと、なんて送ればいいか分からず顔文字に逃げたぽんこつ先輩のお話』
――遂に迎えた土曜日。
俺は集合時間の2時間前には風呂に入り、身なりを整え、準備万端になってベッドの上で意味もなく正座をしていた。
「やべぇ……き、緊張してきた」
憧れの先輩と休みの日に出掛けるって……こんなにも緊張するものなのか?
昨日までは「早く明日にならないかな」なんて、遠足前夜の小学生のようにワクワクしていたのに、今じゃ「この格好でいいのか?」だったり「ふたりきりって、何を話せばいいんだ!?」と、今になって軽くパニック状態だった。
くそ……せっかく風呂に入ったってのに変な汗かいてきたぞ……。
何度もスマホで時刻を確認したり、壁掛け時計に目をやったりと落ち着きをなくしていたら――突如RINEの新着メッセージを告げる通知音が鳴った。
「うおっ!?」
驚いてスマホを手から滑り落とすも、何とか空中でキャッチしてから恐る恐る画面を確認した。
――実は昨晩ふたりで残業していた時に、急に俺の周りを楽しそうにグルグルと回り出した小動物瀬能先輩から、「私はとっても、とーっても大事なことを弓削くんに聞かなきゃいけなかったの!」と言われ。
もったいぶる様子だったのでこちらから訊いてみたら……、
「……えぇ。――それは――弓削くんの連絡先!!」
と、瀬能先輩が口をω←こんな形にしながら言い放ったのだ。
……もうね。どや顔で褒めてほしそうにこっちを上目遣いで見つめてくるぽんこつ瀬能先輩とか……思わず抱きしめそうになるぐらい愛らしかった。
しかも俺の心境なんて知りもしない瀬能先輩は無邪気にも「小原さんに教えてもらったの! ライン!」と、スマホを取り出して得意気にアプリ画面を見せてきた。今の時代、小学生だってやってますよ、と言ってイジワルしてみたくなったのは内緒だ。
確か前に訊いた時はラインを知らず、あやとりと勘違いする天然っぷりを披露していたはずだが……何はともあれ瀬能先輩と連絡先の交換だ。
既に電話番号は交換してあるが、より気軽に連絡できるようになるのはありがたい。
――ということで連絡先交換をしたのだ。
ちなみに交換時に〝ふりふり〟という機能を使ったのだが、瀬能先輩が「ふりふりー!」なんて言いながら、スマホを一生懸命に振っていて、なんだが微笑ましい光景だった。
『弓削ー! どうせ今日も寂しく過ごしてるんだろ? 一緒に飲みに行こうぜー!』
……無駄に緊張して画面を見れば同期のコミュ力お化けこと、工藤からの飲みの誘いだった。
誘ってくれることは嬉しくもあるし、ありがたくもあるが、『どうせ今日も寂しく過ごしてるんだろ』に若干イラッとした。
こちとらこれから瀬能先輩とデ……デートじゃい!
……なんて言ってやりたいが、悲しくもデートだと俺が勝手に思い込んでいるだけなので、大人しく返事を打つにとどまる。
『すまねぇ。今日はちょっと夕方から予定入ってるからパスで!』
『なっ!?( ゜Д゜)
弓削に予定が入ってるだと!?
俺、聞いてねぇぞ!?』
時間にして数十秒。
体感にして数秒。
即座に工藤から返答があった。
『どっかのコミュ力お化けみたいに寝る暇もないくらいギッチリなスケジュールでないにしろ、俺にだって予定ぐらい入るわ!
バカにすんな!
大体なんでいちいちお前に言わなきゃいけないんだよ』
『ヒドイ!
ふたりで夜通し飲み明かした仲だっていうのに私のこと裏切るつもりね!?
もうこうなったら穂村ちゃんに言いつけてやるんだから!!』
秒で返信してくるのはいいとして。
工藤のテンションが高すぎて若干引く。
『なんだその鳥肌が立つようなキモイキャラ。
それとなんで穂村に言いつけるんだ?
関係ないだろ?
んじゃ、お疲れ~』
もはや恐怖を感じるレベルでハイテンションな工藤とのラインを一方的に切ってから、ベッドにスマホを放り投げようとした時だった――。
またしても鳴り響く通知音。
どうせ工藤だな、と何の気なしに画面を覗き込んで固まった。
『壁|д・)ソォーッ……』
アプリの通知画面にはそんな顔文字だけが表示されていて。
通知主のところには――瀬能先輩――の文字が。
……このぽんこつ先輩は初ラインで一体何がしたかったんだろうか?
真剣にそんなことを考えてしまい、思わず噴き出しながらあえて平静を装って返事を打った。
『どうかしましたか先輩?』と。
お仕事とかその他もろもろ忙しめ……。
返信できていなくてごめんなさい。
もうちょっと落ち着くまでお待ちくださいませ。