15 『反抗期に反抗した結果……更に反抗(無自覚)されて赤面+プルプルしながら自席に逃げ帰ったぽんこつ先輩の巻』
着替えを終えてパタパタと駆け足で戻ってきた瀬能先輩は俺の前でクルリと華麗なターンを決めてから「――これでバッチリね」と、やけに自信満々な様子で力強く言った。シワひとつないスーツ姿に取り澄ました表情。いつもの瀬能先輩だ。これでようやく安心できる。
――なんて思っていたら、チラチラとこちらを窺うような視線を向けてくるのだ。タイトスカートの広がりもしない裾を掴んでヒラヒラと揺らそうとしていたり、頻りに「んんっ」とわざとらしい咳払いを繰り返す。
……これは何かのアピールなのだろうか?
「あの、先輩? どうかしたんですか?」
「……えぇ」
すると目を光らせて平常運転である身の引き締まるような凛とした表情を湛えたまま、ゆっくりと深く首を縦に動かした。
雰囲気と仕草から察するに、ようやく寝ぼけモードから冷静沈着美女な、お仕事モードにシフトしているはずなんだが……何とも言い難い妙な違和感がある。態度と行動が伴っていない跛行的な感じだ。
……いくら頭を捻っても答えは出そうにないので、諦めて俺はデスクに向かい椅子に座ってからPCの電源を入れた。
「――なんで!?」
背後で瀬能先輩が驚いたような声を上げているが一先ず気にしない。天然ぽんこつな反応は今に始まったことではないので、いちいち気にしていると俺の意識というか理性が持たない。……ちぐはぐな調子の瀬能先輩は俺にとっては劇物で危険物のようなものなのだ。早い話が、関わるな危険、ってやつだ。
程なくしてPCが立ち上がり、弓削明弘と表示されたサインイン画面が表示された。
「無視っ!? 弓削くんが……遅れてきた反抗期っ!?」
相変わらず俺の後方でぽんこつ発言をしている瀬能先輩。
いかに内容がツッコミどころ満載で身体がウズウズしてきても、鋼の自制心でスルー。胸中で「遅れてきた反抗期」ってどういうことですか……と漏らした程度だ。
パスワードを入力してエンターキーを押そうとしたところで――後ろから伸びてきた両手が俺の頬を挟んだ。
そして次の瞬間にはクイッと上に向けさせられた。
目の前には見下ろすようにこちらを睨んでいる(?)瀬能先輩がいる。極限まで細められた鋭い眼光は見る者を震え上がらせるほどの威圧感を放っているが、そこはぽんこつ瀬能先輩らしく、ぷくーっと膨らんだ頬が適度に中和してくれていた。
一目見て分かるレベルで大層不満なようだ。……それにしても本当に可愛いなこのぽんこつ先輩。
「……………………反抗期に反抗」
たっぷり睨み付けてからいじけたように口を尖らせてぼそりと呟いた言葉がこれだ……俺の先輩のぽんこつ可愛いがとどまることを知らない件について。
などとふざけた思考に意識を割いていたからだろうか。
俺の口から零れた言葉もぽんこつ具合が漂うどうしようもないものだった。
「先輩……その顔は反則ですよ。もう反抗なんてできません」
「次もし反抗期になったら……私――本気で拗ねる」
決意の滲んだ眼差しで弱気発言をするのはいかがなものか。
こうやってふとした瞬間に弱い部分を見せられると、ますます好意を抱いてしまう。
「すみませんでした。この埋め合わせは必ずいたしますので、とりあえず手を離してはいただけませんでしょうか?」
「それは埋め合わせの条件次第ね。私が納得できる範囲でなければ、それはもう途方途轍もない程に徹頭徹尾拗ね続けると明言しておくわ」
あ、あれ?
もしかしなくても楽しんでるよな?
これ絶対仕返ししてきてるよな!?
口角を僅かに上げてどこかサディスティックな笑みを浮かべながら、手を離すどころか俺の両頬をむぎゅむぎゅとする瀬能先輩。おまけに「 」と上機嫌そうにしているではないか。
「ほっぺたぷにらないでください」
「ん~? 弓削くんが何を言っているのか私には到底理解できませんね? 私の恰好を見て何も言ってくれないどころか、あまつさえPC作業を優先しようなんて……ねぇ? 先輩のことを無視する後輩くん?」
――速報! 瀬能先輩、実はご立腹だった!
というのは冗談で、纏う空気からして怒っているというよりも、拗ねの延長線上といったご様子。
存分に俺の頬をこねくり回してからようやく手を離し、こちらの出方を静かに窺っている。これは「喋ってよし」ということだろうか。
「無視して申し訳ありませんでした」
「……素直な弓削くん、今日の私の恰好はどうかしら?」
「え? ……いつも通り凛々しくてカッコイイと思いますよ? それに寝ぼけていた可愛らしい姿も見――」
「――べ、別にそこまでは聞いていないでしょう!? ……もうっ! 埋め合わせはじーっくり考えておくから、覚悟してなさいっ!?」
「……分かりました」
言われた通り素直に口にしたら何故か怒られた……解せぬ。
それから瀬能先輩はサッと俺から離れ。手の甲を口元に当てながら上目遣いにこちらを見やり……、
「弓削くん……恐ろしい子っ!」
そんな理解不能な言葉を残して自分のデスクに駆けていったのだった……。
……どういうこと!?
~レビューのお礼~
七八転様! 28件目のレビューありがとうございます!
>初レビュー失礼します!!
⇒アイヤァァァ\(^o^)/ また初レビューなのぉぉぉ!? みんなドMなのぉぉぉ!?(ごめんなさい)
>クールの皮を被ったポンコツ甘えん坊ヒロイン
⇒的確過ぎて笑いました(笑)
瀬能先輩は狼の皮を被った羊的な何かですね(笑)
>ブートジョロキアも買って食べながら見ないと砂糖がっ……砂糖がぁぁぁっ!!
⇒実は私、辛いのというか激辛というものが大好きで、ブート・ジョロキアを使った料理を一度食べたことがあるんですよ。
……その結果――見事に体調崩しましたよ(笑)
世間一般の激辛なんてあのレベルの唐辛子達に比べると、甘々もいいところです\(^o^)/
それ以来激辛好きは明言しなくなりました(笑)
ブート・ジョロキアを食べると何が起きるのか?SS
七八転様「ブートジョロキア買ってきたし……食べてみるか!」
釣井先輩「や、やめとけ! 俺は飲み会の罰ゲームで食ったことがあるが……ありゃ、人間の食うもんじゃねぇぞ!!」
七八転様「釣井先輩大げさ過ぎですよ。ほんのちょっと食べるだけですから」
弓削くん「どうかしたんですか?」
瀬能先輩「何かあったの?」
七八転様「いや、ブートジョロキアを手に入れたので食べてみようかと思って」
弓削くん「えっ!? ブートジョロキアってあのハバネロよりも4倍辛いと言われてる、あのブートジョロキアですか?」
七八転様「そのブートジョロキアだ――いくぞ!」
釣井先輩(……こりゃ尻から火噴いて死ぬな。アーメン)
弓削くん(タバスコの辛さが確か2000スコヴィルで……ハバネロが25万スコヴィル……それでブートジョロキアが100万スコヴィルだったような……スコヴィルがインフレしすぎててもう訳分かんない)
瀬能先輩「それ……私もひとつ頂いてもいいかしら?」
弓削くん「先輩! 止めた方が良いですよ!」
瀬能先輩「弓削くん、心配してくれてありがとうね。大丈夫だから」
七八転様「はい、それではおひとつどうぞ! それじゃぁ、いただきます!」まるまる1個パクリ
瀬能先輩「……いただきます」半分パクリ
釣井先輩&弓削くん(ふたりとも死んだな……)
七八転様「うん、全然辛くな――!??????????????????」何かを悟ったように一時停止(;゜Д゜)
瀬能先輩「……ピーマンみたい」もぐもぐ
七八転様「いぎゃぁぁぁぁ!! 辛いってか痛いイタイイタイイタイッ!!!!!!!」ジタバタ( ;∀;)
瀬能先輩「……ん? 全然辛くないよ?」もぐもぐ
釣井先輩「反応が両極端だな……おい、弓削……瀬能が食べたやつ食ってみろ」
弓削くん「えぇっ!? そ、それ間接キスになるじゃないですか!!」
釣井先輩「うるせぇ! 隙あらば甘い空気を垂れ流そうとするな!」
弓削くん「もごぉっ!?」
七八転様「……アァァァァァアアアアアァアァ!! ァァァァアアアア!! アァァァァ……」チーン\(^o^)/
瀬能先輩「……ごちそうさまでした。ピーマンとかパプリカみたいな感じね」
弓削くん「あっほんとだピーマ――」あまりの辛さに気絶した弓削くん
七八転様「…………」あまりの辛さに昇天した七八転様
瀬能先輩「……ん?」辛さ耐性があることが判明した瀬能先輩
釣井先輩「くっ……これは俺も食って落ちを付けろってやつか…………ヴォェェェェェエェ」空気を読んで食べた結果散った釣井先輩
瀬能先輩「……からいっ!」(*´ω`*)周りを見て空気を読んだ結果、弓削くんに抱きついた瀬能先輩だった……
何が言いたいのかというと……ブート・ジョロキアとかトリニダード・モルガ・スコーピオンとかキャロライナ・リーパーとかは……人間が食べるものではないということ\(^o^)/
この3種は素手で触ると皮膚が炎症します……この時点でもはや兵器ですよね……。