12 『皆さんお忘れかもしれませんが、弓削くんが関わっていなければ瀬能先輩は本来クールで鋭いんです……』
会社の外に出て「どこに行きましょうか?」と話し掛けたら、目が合うなり瀬能先輩が嬉しそうにニコリと微笑んだ。朝日とその微笑みの眩しさに目がチカチカする。
先程まで寝ぼけた甘えんぼうだったはずなのに、今度は大人の女性らしい優婉なものだ。ころころと表情や雰囲気を変えるのは正直反則だと思う。
「弓削くんにおまかせ」
「分かりました。では以前行ったカフェにしましょうか」
「はーい!」
大人の女性らしい――なんて思っていたそばからこれだ。
早く歩き出したいのか瀬能先輩が繋いだ手を楽しそうに大きく前後に振っているのだ。
たとえるのならば、これからおもちゃを買いに行く子供がするようなソワソワとした仕草であったり、散歩だと分かった瞬間、尻尾を千切れんばかりの勢いでフリフリするわんこのような感じだ。
……だが、そんなに嬉しそうにしているところ悪いが、外を歩いていると会社の人に見られる可能性があるので、手は離さなくてはならないのだ。
「先輩、一旦手を離してもらってもいいですか?」
すると眉をキュッと寄せて思案顔になった瀬能先輩。数秒程度俯き、何かに気が付いたようにハッとなって顔を上げた。……どうやら他の人に見られるかもしれないということに気が付いたみた――、
「一旦ってどれくらい? 具体的には……何秒?」
……うん。これ絶対気が付いてないな。
ここからカフェまで徒歩5分程度だろうから……、
「おおよそ300秒程度でしょうか?」
「300秒!? 5分!? それだとカフェに着いちゃう!!」
「でも手を繋ぐ必要はないかと思うので――」
「――必要ならあるわ」
前触れなく神妙な面持ちになった瀬能先輩が、キリッと目を見開いて、重大発表でもするようにゴクリと唾を呑み込んでから言った。……こういう反応をする時って大抵ぽんこつなことをしているような。
そんな胸騒ぎを感じながら促した。
「どんな理由ですか?」
「――私が手を繋いでいたいの」
「…………」頷く俺
やはり悪い予感と言うのは当たるらしい。
発言の内容は置いておくとして……呼吸を忘れてしまいそうなほど凛々しくてカッコイイ真剣な表情をした瀬能先輩。その有無を言わさぬ気迫に押されて俺は無言のまま、つい首を縦に振ってしまったのだ。
今更かもしれないが、目の覚めるような美女の先輩に至近距離でこんなことをされたら必ず俺みたいになるだろう。
――想像してみてほしい。
目の前に好意を寄せる人がいて、その人から「私が手を繋いでいたいの」などと言われたら、こんな反応をしてしまうのは当然だろ?
……結局何が言いたいのかというと――瀬能先輩がカッコ可愛くて周りの目なんてもうどうでもいいかな!! ということだ!
「――あ、あれーっ!? 芹葉ちゃんと弓削くん!?」
「――お前らなんでまだここにいるんだ?」
「「!?」」
――なんて開き直りかけた瞬間、突如聞こえてきたその声。
会社を出たところでやりとりをしていた俺と瀬能先輩は、予想だにしていなかった声にふたりしてビクッと揺れてから、ギギギッと錆びたロボットのように顔を向けた。
……するとそこにいたのは――甲斐先輩と小原先輩だった。
ど、どうしてこんな時間に先輩達が!? しかも会社の方から出てきたのか!?
分からないことだらけで俺は軽いパニックに陥り、見れば甲斐先輩と小原先輩も驚いたようにこちらを見つめている。
……そんな中、瀬能先輩はというと――、
「――おはよう、小原さんに甲斐くん。今日は随分と早いのね?」
即座に冷静沈着美女モードに切り替わり、落ち着いた真顔でそんなことを言っていた。
――ただし俺の手をバッチリと握ったままで……だが。
なんと言えばいいのか、頭隠して尻隠さず、といった感じだろうか? ……少し違う気もするけど。
「え、えっと、その私達は――」
「――仕事のことで少し打ち合わせをしていたんです。そうだよな小原?」
「――は、はいっ! まーく……甲斐先輩の言う通りですよー!!」
……まーく? まーくってなんだ?
小原先輩の唐突な謎発言に内心で疑問符を浮かべていたら、甲斐先輩が1歩前に出てから口を開いた。小原先輩はそんな甲斐先輩の背中に隠れる様にサッと移動して、こちらを覗き込んでいる。
「それより、課長と弓削はどうしたんですか?」
「自分達はこれからカフェに朝ごはんを食べに行こうとしているところです」
俺の言葉を聞いた小原先輩が甲斐先輩に何か耳打ちをしている。
それを受けて甲斐先輩も何か囁き返していた。
……それにしてもこのふたり本当に仲良いよな。大体ふたりワンセットでいる気がするし――も、もしかして付き合っていたりするのだろうか?
「あのー、私達もカフェでのんびりしようって言ってたから……もし良かったら一緒に行きませんかー?」
今度は先程の小原先輩がしたように、瀬能先輩が俺の方に近づいて来て耳元で囁く。
「 」
そして俺も甲斐先輩を真似して瀬能先輩の耳元で囁いた。……死ぬほど緊張したのは内緒だ。
「 ――」
「―― 」
「 ――」
「―― 」急にもじもじし始めた瀬能先輩
「……先輩? どうしたんですか?」
瀬能先輩の様子がおかしいので普通に話し掛けたら、耳まで赤く染めて目を合わせることを拒否するように視線を地面に落とした。繋がれた手の温度も少し上がったのか、じんわりと温かくなった気がする。
「……別に何でもないの」
「そうですか? それじゃあふたりに返事しちゃいますね」
「……ん」
「――すみませんお待たせしました。それでは一緒に行きましょうか」
「うん! ありがとー!」
「……邪魔して悪いなおふたりさん」
なんか予想外のことがあり過ぎて若干疲れたが……カフェに行くとする――、
「――むしろその言葉は私と弓削くんが言うべきね。お付き合いをしているあなた達のデートを邪魔するのだから――」
「「――!?」」
そんな発言を残して、瀬能先輩は俺の手を引っ張って歩きだしてしまったのだった……えっ!?
これでダブルデートが書けるようになったぞぉぉぉぉ!!\(^o^)/
ちなみに甲斐&小原カップルには今後、弓削&瀬能バカップル(ただし付き合っていない)の餌食……じゃなくて、無差別砂糖ばら撒き攻撃を随時受けてもらおうと思ってます(開き直り)
~レビューのお礼~
ルリヲ様! 26件目のレビューありがとうございます!!
>ニヤニヤが止まらなかったので初レビュー書かせていただきます。
⇒( ゜д゜)……(つд⊂)ゴシゴシ……(;゜Д゜)……!? 初レビューだって!?
しきはらはかんがえるのをやめた
>結婚して10数年、妻とのドキドキが少なくなった私
⇒未だに付き合ってすらいない弓削くんと瀬能先輩の大先輩になりますね!
ふたりが結婚したらどんな毎日を過ごすのでしょうか……
>世界一甘いと名高いインドのスイーツ、グラブジャムン
⇒これ一回食べてみたいのですが……怖くて手が出せません(笑)
そうだ! ルリヲ様に食べてもらおう!!(笑)
グラブジャムンを食べたらどうなるか?~寝ぼけた瀬能先輩のおにぎりの中身がグラブジャムンだったら~
弓削くん「おにぎりの中身はなんですか?」
瀬能先輩「……ぐらぶじゃむん」
見守り隊「なんだグラブジャムンって?」@休憩室
ルリヲ様「――グラブジャムンだって!? あれはまずい!」@休憩室
釣井先輩「なんだ? ルリヲは知ってるのか?」
ルリヲ様「……えぇ。インドで食べられているスイーツで、世界一甘いとも言われています」
釣井先輩「なんでそんなものをおにぎりに入れてやがるんだあいつは? おはぎ的なものを作ってるつもりなのか?」
恵比寿部長「世界一甘いだって? それは気になるなぁ」
弓削くん「……え? 一口くれるんですか?」
瀬能先輩「……うん。ゆげくんに、あげるー」
ルリヲ様「あれはヤバイんだ!! こうしちゃおれん! 俺も見守り隊の一員だ!! 弓削のことを守って散ってやるぞ!!」休憩室を飛び出すルリヲ様
釣井先輩「おい! 何やってんだ!! って、散る前提なのかよ!? どんだけ危険なんだグラブジャムンとやらは」
恵比寿部長「僕も負けてられないなぁ!!」同じく休憩室を飛び出す恵比寿部長
弓削くん「それではいただきま――」
ルリヲ様「――弓削ぇぇぇぇ!! 待つんだぁぁぁぁぁぁ!!」
弓削くん「えぇっ!? ルリヲ先輩!?」
ルリヲ様「それは危険なんだ!! ここでお前を亡くす訳にはいかん!! ――えぇい、ままよ!!」小さいおにぎりを一口で食べたルリヲ様
瀬能先輩「……んー? 弓削くんまだ、もういっこあるのー」
恵比寿部長「――それは僕が頂こう!! この甘いもの好きな僕なら問題ないはず!!」小さいおにぎりを一口で食べた恵比寿部長
弓削くん「ふたりとも一体どこから現れたんですか?」
瀬能先輩「……わたしの、おにぎりぃ……たべられちゃったの……」
ルリヲ様&恵比寿部長「…………」もぐもぐ中
ルリヲ様&恵比寿部長「――う゛っ!?」白目
ルリヲ様&恵比寿部長「甘ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」泡を吹いてそのまま気絶
弓削くん「…………お二人の勇姿は忘れません! ありがとうございました!」合掌
……ということで、ルリヲ様と恵比寿部長は糖分の過剰摂取でお星さまになってしまったそうな……めでたしめでたし\(^o^)/
今度Amazonでグラブジャムンポチっておきますので、許して下さい!!