表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】クール美女系先輩が家に泊まっていけとお泊まりを要求してきました……  作者: 識原 佳乃
クール美女系先輩が家に泊まっていけとお泊まりを要求してきました……
74/84

11 見守り隊『秘密裏にバカップルを守る』

見守り隊視点なので三人称になります!

普段一人称なので少し違和感あるかもしれませんが、よろしくお願いいたします!

 ――見守り隊の朝は早い。


 時刻はふたりがオフィスに現れる更に1時間前に遡る。

 短針が6を指したそんな時刻にひとりの男がやってきた。

 白髪頭に人の良さそうなえびす顔。健康診断では間違いなくメタボと診断されるであろうウエストサイズ。歩く度にポヨンポヨンとワガママボディを揺らしながら、額からは滝のような汗を流している。

 今や総務部の長として君臨する――恵比寿大福、その人だった。


 早朝と言えど夏真っ盛りの7月半ば。外気温は既に25℃を軽く越えているのだ。

 ハンドタオルで汗をぬぐいながら、照明の付いていない蒸し風呂状態のオフィスを歩く。


「おはよ……って僕が一番乗りか」


 陰から見守るのにお馴染みとなった集合場所――休憩室に入るなり、挨拶を口にするがまだ他の隊員の姿はない。

 荷物を下ろし、すかさず空調機のスイッチを入れた。


 ――恵比寿にはこの動作だけは社の誰よりも早い自負があった。割とどうでもいいことだが。


 心なしか得意気な笑みを浮かべ、途中で寄ってきたコンビニの袋からお目当てのものを取り出す。


 それは「早起きした自分へのご褒美」として買ったコペンダッツの贅沢(リッチ)ミルク。紛れも無いアイス。早朝から朝ごはん代わりにアイスを食べるというのだ。


 ……なんと愚かな選択だろう。百歩……いや、億歩譲ってこの暑い季節なのでアイスはいいとしても、せめて通常のバニラにするべきだ。何故更に甘さが際立つ贅沢(リッチ)ミルクにしたのか……。この男、部長にまで上り詰めているが、案外――アホなのかもしれない。


 この先、胃がもたれるような、胸が焼けるような光景が繰り広げられると理解していたのに、己の欲に負け「多分どうにかなるよね」などと根拠のない希望的観測から、アイスを買うに至ったのである。


「う~ん! この溶けかけているのがまいう~なんだよね」


 一口食べて感動に浸るよう目を瞑り。その悪魔的な美味さを堪能していると、不意に休憩室の扉が開かれた。


「おはようございまーす――って部長! アイス食べてるんですかーっ!? ……ひょっとして部長って死にたいんですかー?」

「おはようございます……前回は飴を食べていて痛い目を見たと言うのに――なんで自分から死亡フラグを立てているんですか。本当に死にますよ?」

「おはよう、甲斐くんに小原くん。それにしても会って早々僕を死にたがり呼ばわりするのはどうかと思うよ?」


 姿を見せたのは恵比寿にとっては部下でもあり、見守り隊としては同じく隊員でもあるふたり――小原朱莉と甲斐雅紀だった。……ちなみに見守り隊に明確な隊長は存在しない。全員がリーダーシップをもった精鋭の集まりだからだ。


 小原は心配したように眉を顰め、甲斐に至っては本来上司に向けるべきではない憐憫の眼差しを浮かべている。

 ……だがそんな態度をとられようとも、恵比寿のスプーンはせっせとアイスを口に運び続け、表情も平時のえびす顔だ。


 そんな恵比寿の姿を見て「これは死んだな」と部下ふたりが内心で思ったのは想像に難くないだろう。


「そんなことはどうでもいいとして! 弓削くんと芹葉ちゃんはうまくいったんですかねー?」

「……えっ!? 小原くん、そんなことはどうでもいいって――ひどくないかな?」

「どうだろうな? 昨日の昼にやった対策会議の後は、瀬能の予定が詰まってる、って弓削のやつが深刻そうにしていたが……それでも飲みに行くことになった急展開を考えると――見守り隊(俺達)以外の何者かの関与が疑われるな」

「……無視っ!? 小原くんよりも甲斐くんの方が僕の扱いがひどくないかい? …………まぁ、僕のことはもういいとして。――ここにきて第三者の存在か……」


 甲斐の発言に恵比寿は珍しく表情を曇らせた。


 第三者の存在自体不明確。……だがしかし真に存在するというのならば、見守り隊としては到底看過することのできない問題だ。

 今回はふたりを手助けするような方向に第三者が動いたようだが、真意が不明な以上、要注意人物であることに変わりはないのである。


 それは甲斐と小原も同じ考えであったため、情報共有を行ったのだ。


 もしこれからやってくるふたりの仲がこじれていたら、その謎に包まれた第三者を突き止めて秘密裏に排除する必要がある。

 逆にふたりの仲が改善されていれば……間違いなく同じ志を持った人物だろう。いわば同志。見守り隊にとっては心強い味方になるはずだ。


「一先ずは要警戒といったところかな?」

「はい! なんとなーく芹葉ちゃんに探りを入れてみますねー」

「よろしく頼むね小原くん」

「小原、頼んだぞ」

「はーい♪ 甲斐先輩、私達もモーニングにしましょう? 部長のことを見ていたらお腹空いてきちゃいましたー」

「そうだな」


 まだ見ぬ第三者を各々が思い浮かべながら。

 恵比寿はアイスと飴を。

 小原はパン屋で買ったエビとアボカドのサンドウィッチを。

 甲斐も同じパン屋で買ったBLTサンドを。


 ――あれ? どうしてふたりして同じ店舗なんだ? ……通勤途中に偶然会ったのだろうか?


 そして全員が一息ついたところで、最後のひとりが休憩室にやってきた。

 見守り隊の本日の集合時間は6時。そして現時刻は6時40分だ。


「――すまん! 昨日飲み会で調子乗って〆のラーメンまで行っちまって、気持ち悪くて今朝は起きれなかったわ」

「……ほほぅ。釣井くん――もしかして君が第三者なのかい?」

「……うわぁ……釣井先輩の裏切り者ー! ニンニク臭いからもう喋らないでください!!」

「……そうですか。釣井先輩だったんですね。とりあず酒臭くもあるので呼吸しないでください」


 時に緩く、時に厳しく。

 見守り隊は団結力があるからこそ成り立っている組織なので、血祭りに上げられるのは一瞬だ。100%釣井が悪いので当然の報いでもあるが。


 ノリを重視する釣井は律儀に息を止めていたが限界が近づき、口を開いた。


「――俺を殺す気か!? ったく、それで第三者ってなんだ? 話についていけないんだが?」

「それについては甲斐くんが説明してくれるよ」

「……その前に釣井先輩、ミントスあげるんで常にこれ食べててください。でないと殴りたくなります」

「さすがにひでぇ!!」

「私もビンタしたいですねー」

「お前も鬼か!!」

「僕は――のしかかり(プレス)で勘弁してあげるよ」

「すみませんでした!! 部長の体重でプレスされたら冗談抜きで死んでしまいますので、堪忍してください!」


 そんなやりとりの後、甲斐から再度説明が行われた。


 急展開はどうも第三者が噛んでいそうだということ。

 その正体は不明であり、目的も謎に包まれていること。

 怪しいのは昨晩飲みに行っている釣井ではないかということ……など。


「待て待て! 俺はあのバカップルとは飲みに行ってないぞ!? これが証拠だ!」


 そう言って示されたのは釣井のスマホだった。


 ――これは遅刻した罰に、へし折ってもいい、という前フリなのか?


 甲斐は危うく実行に移しかけたが、横から伸びてきた手が釣井のスマホを持っていった。小原が甲斐の様子を察して行動を起こしたのだ。


「なんですかーこの画像? なんか頭にネクタイを巻いた、いまどき見ない典型的な酔っぱらいサラリーマンの恰好をした釣井先輩(裏切り者)が写ってますけどー?」

「だから裏切り者じゃないって言ってんだろ! 撮影日時を見ろ! それに俺以外にも総務課の他のやつらが写ってんだろうが」

「確かにそうみたいですね。ではまた別に第三者がいるということですか……」

「ようやく俺の疑いは晴れたか」

「釣井くんの疑いは晴れたけど、遅刻に対する罰は受けてもらいたいかな」


 釣井が苦笑いをしながら誤魔化すために話題を振った。どうしようもない男である。


「それでその第三者の見当はついているのか?」

「ついてませんねー」

「ひとつ分かることとしては、弓削と瀬能の共通の知り合いであるということ」

「……そうなると仕事関係しか考えられな――あっ!!」


 その瞬間、恵比寿に電撃走る。


 自ら何となく呟いた「仕事関係」という一言。

 これで全てのピースが揃ったからだ。

 伊達に総務部長というポジションにいるだけある。この男、やはりただのアホではないらしい。


「どうしました部長?」

「何か分かったんですかー?」

「仕事関係か……俺には分かんねぇな」


 第三者は社外の人間とみていいだろう。

 社内の人間だったら見守り隊の情報網に引っかかるはずなのだ。総務には基本的に全ての情報が集まってくる。ましてや総務部長のもとには、総務課、人事課、経理課の膨大な情報が上がってくるのだ。そこに引っかからないということは恐らく社内の人間ではない。


 すると自然と社外の……取引先の人間に絞られる。

 それもあのふたりと面識のある人物だ。

 特定条件(フィルター)を掛けるとするのならば――他人の恋路を見るのが好きそうな面倒見の良さ。それにノリの良さ。後はあの真面目一辺倒な瀬能くんを急遽飲み会に来させる――地頭の(ストリート・)良さ(スマート)だ。


 その全ての条件に合致している人物。

 それはふたりが揃って出張に行った際に出会っている――、


「取引先の人なんだけどね……恐らくユビノさんのところの――村田本部長だと思うよ」

「……えー!? 本部長ですか!?」

「村田本部長? ……すみません、自分は見たことないですね」

「ユビノって……社内保育所の委託先だったか?」


 小原は「本部長ってことは……部長よりも上ってことですよね!?」驚きを隠すことなく、両手の人差し指だけを立てて上に向けている。小原としては「偉い人じゃないですか」という言葉をジェスチャーで表したものだ。


 甲斐は腕を組み、冷静に思案中だった。まさか本部長クラスの人間が自分と同じく見守り隊的な活動をしているなんて、と。……だが、冷静に考えると既に部長も属しているので、地位なんてものは関係なく、ただ純粋にあのふたりを見守りたいのかと理解した。

 それほどまでにあのふたりには、不思議な魅力があるのだ。


 釣井は――鼻をほじりながらたいして興味を抱いてはいなかった。

 ……この男、実害が出るまでは放置でいいと考えているのだ。

 理由は単純明快で――その方が面白いから、というものである。

 ……遅刻の罰としてプレスされろ!


 ――そして恵比寿は記憶を掘り起こしていた。

 村田本部長と実際に会ったのは瀬能くんの上司として同席した数回だけだ。

 その時に感じた印象は、保育所運営を行う会社さんの本部長というだけあって、面倒見の良さそうな女性だったということ。それに同じ女性ということもあってか、えらく瀬能くんのことを気に入っていた。

 村田本部長のことだ……瀬能くんを応援するためにふたりの仲を取り持とうとしている気がする。第三者が僕の予想通りであれば強力な援軍となりそうだ。


「そのユビノさんであってるよ。……さて、村田本部長が我々の敵となるか、味方となるかは――これからやってくるふたりの様子次第だね」

「そうですね。本部長ほどの人間であれば心強い隊員になりそうですね」

「ですねー♪ みんな芹葉ちゃんと弓削くんのことが気になっちゃうんですね♪ そろそろくっついてほしんだけどなー」

「くっついたらくっついたで面白いことになりそうだが……確実に実害を被るのは俺達なんだよな。ったく早く俺達を安心させろよなバカップルが……」



 ――そしてこの会話の直後……右に左にフラフラと蛇行しながらバカップルの片割れ、瀬能がやってきたのだった。



「よし! 全員姿勢を低くして隠れるんだ! 僕は今日アイスを食べたことを後悔しないためにも、生き残らなくちゃいけないんだ!」

「……部長。何度も言いますがそれ死亡フラグですからね」

「胃もたれとか吐き気で体調が悪くなったら、無理しないでちゃんと()退()してくださいねー?」

「……え? もしかして部長、朝からアイス食べてたのか? 俺より歳いってんのになんて無茶を……死んだな」

~ポイント評価&レビューのお礼~

ポイント評価がいつの間にか500人を超えてました!

皆様ありがとうございます! とても嬉しいです!

WEB版・書籍版ともども、これからもよろしくお願いいたします!


そして真白優樹様!

25件目のレビューありがとうございます!<m(__)m>

>初めまして。初レビュー失礼いたします。

 ⇒ヒエェェッ!! また初レビュー!( ゜Д゜)

  緊張が……緊張がスゴイ(笑)

  皆様ご丁寧に「初レビュー」だと仰っていただかなくても、大丈夫ですからね?(チラッ

>あの会社の自販機は珈琲の無糖ブラックが常に売り切れているのでは・・・。

 ⇒それか手違いで全てMAXコーヒーに変えられているかもしれません!

  砂糖でベタベタのオフィスとかやだなぁ(笑)


ブラックコーヒーは常に売り切れ編~付き合い始めているふたり編~


真白優樹様「飲み物でも買うか…………あれ?」

【ブラックコーヒーが全て売り切れた自販機×3台分】

真白優樹様「仕方ない、カップ自販機で――」

【ブラックコーヒーが全て売り切れたカップ自販機×2台】

真白優樹様「……どういうことだ?」

釣井先輩「ちっ……まだあいつらがいちゃつく前だから売り切れてないと思ったんだがな……段々売り切れる時間が短くなってきたな」

真白優樹様「すいません……最近本社にやってきたんですが、どうしてブラックコーヒーばかり売り切れているんですか?」

釣井先輩「……そうか。お前は安全な他地区からやってきたのか。……ここには砂糖を無差別にばらまくバカップルがいるんだ」

真白優樹様「……え?」

釣井先輩「ちょうど今こっちに向かってきてるあのふたりがいるだろ? あいつらが――シュガリストだ」

真白優樹様「シュガリスト?」

釣井先輩「まぁ、見てな」

瀬能先輩「――弓削くん。飲み物でも買って少し休憩しない?」

弓削くん「分かりました」

瀬能先輩「ここは私が出すわね」

弓削くん「いえ。それは悪いので自分で出します」

瀬能先輩「……ん。私が出したいのだから素直に奢られなさい」

弓削くん「それなら俺が奢ります」

瀬能先輩「な、なんでっ!?」

真白優樹様「なにしてるんだろうか?」(なんだか流れが変わった気がする……)

釣井先輩「やばいな……あいつら周りが見えなくなるモードのスイッチが入ったぞ。俺は退散するからな!」

瀬能先輩「……じゃんけん! じゃんけんで決める!」

弓削くん「……いいですね。望むところです! いきますよ!」

ふたり「「じゃんけん――ぽい!」」

弓削くん「俺の勝ちです」

瀬能先輩「……やぁぁっ!! おごりたいの!」

周囲の人達(退散しとこ……)

真白優樹様「……あれ? いつの間にか誰もいなくなってる!?」

弓削くん「いつも……芹葉さんには迷惑ばかりかけているのでこれくらい奢らせてください」

瀬能先輩「……わかった。でも明弘くんは買っちゃだめだからっ!!」

弓削くん「どうしてですか?」

真白優樹様(なんでだ?)

瀬能先輩「私と――はんぶんこしていっしょに飲むのっ!! …… (だめっ??)

弓削くん「……わかりました! それじゃあ何がいいですか?」

~そしてひとつのカフェオレをふたりでこっそりと飲むのだった~


……もちろん真白優樹様は「そういうことね……」という言葉を残して、立ったまま白目を剥いて失神しましたよ?

真白優樹様\(^o^)/ごめんなさい!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cool
※画像をクリックするとアース・スターノベル様の公式ホームページに飛びます!
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ