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【連載版】クール美女系先輩が家に泊まっていけとお泊まりを要求してきました……  作者: 識原 佳乃
クール美女系先輩が家に泊まっていけとお泊まりを要求してきました……
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6 『こんな時間に弓削くんから電話っ!? ……ドキドキ(((*˃□˂*)))ワクワク…… ←弓削くんから電話がきたと思っている瀬能先輩の内心』

「遅くなってごめんなさい。1か月ちょっとぶりかしら? 弓削くん」


 時間に少し遅れるとメールが入ったので、駅の改札で待っていたら村田本部長が颯爽とやってきた。

 福岡で見た時と変わらず、自然な笑みを浮かべた美人だ。

 落ち着いたグレージュの髪。前下がりのショートボブ。濃いベージュのパンツスーツ。

 どこからどう見ても隙の無いキャリアウーマンだった。


「ご無沙汰しております村田様。自分も丁度今来たところですので」

「あら? デートの待ち合わせに来た彼氏みたいなことを言うのね? ……今晩は――期待しちゃっていいのかしら? もしかしてお姉さん、寝かしてもらえない感じ?」


 口に手を当ててクスクスと笑っている村田本部長。


 ……口を開くとこんな感じで、良い意味で気さくな人なのだ。

 悪い意味では……冗談で言っているのか、本気で言っているのか、区別がつかないことがあるので、実は怖い人でもある。


「……そんな失礼なことはいたしません」

「あら、残念……なんて冗談はここまでにして、ちゃちゃちゃーっとお仕事の方を片付けちゃいましょう?」

「はい。カフェはあちらですので、ご案内いたします」


 早速近くのカフェに入り、早速納涼花火大会の調整を始めた。

 キッズスペースの想定利用者数を提示すると、すぐに正確な返答がくる。

 更に「想定利用者数を考慮するとキッズスペースだけではなく、授乳やオムツ替えもできるスペースを確保した方がいいわね」などと、俺が予想出来ていなかったことに対しても様々な提案をしてくれた。

 福岡では顔合わせ程度だったので、仕事で本格的に関わるのは今回が初めてだが、瀬能先輩同様とんでもなく頭が切れる人だった。さすがは本部長と呼ばれる地位にいる人だ。

 瀬能先輩が――ライバル視しているのも頷ける。


 そんな調子で話を進めていったので村田本部長の「ちゃちゃちゃーっとお仕事の方を片付けちゃいましょう?」という言葉通り、1時間はかかると思っていた調整が、気が付けば30分程度で終わっていた。


「もう聞いておきたいことはない?」


 すっかり冷めてしまったブラックコーヒーを一口すすり。

 村田本部長がニコリと微笑んだ。


 仕事の話は100%以上の収穫があったので、特に聞いておきたいことはなかった。

 ……だが、仕事以外のことで会ったその時からずっと気になっているというか、ある種の違和感がある。


 それは村田本部長と言えば――こってこてのあの博多弁だ。


 今日はそれが全く出ていない。

 終始ごく自然な標準語で、もしも「地元は東京なの」なんて言われたら、普通に信じてしまいそうなほどだ。


「失礼ながら、仕事以外のことをひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」


 人間不思議なもので、一度気になるとダメだった。

 すると村田本部長は自分のことを指差して「お姉さんについてのことだったら、いくらでもどうぞ?」茶目っ気を含んだ仕草で首を傾げた。


「それではお言葉に甘えて――」

「――ほ、ほんにうちのことと?」

「はい」


 ……あれ?

 なんでか聞く前に博多弁が出たぞ?

 どういうことだ?


 慌てたように姿勢を正した村田本部長が、空になっているティーカップを持ち上げて口を付けていた。当然飲めていないだろうに、どうやったのかゴクリと喉を鳴らしてから、心なしか緊張した声音で言った。


「――よかばい」

「もう聞く必要がなくなってしまったのですが、どうして標準語なのでしょうか?」

「……え?」

「あっ! すみません! 言葉足らずで。個人的な理由なのですが博多弁が好きなので、聞きたいなと思っておりました」


 一瞬ポカンとした顔をしてから、すぐにお腹を抱えて笑い出した村田本部長。……どうやら怒っていないようで一安心だ。


「ふぅっ……良く考えてみたら瀬能ちゃん一筋の弓削くんだものね。……そうね。質問に答えるとするのならば――本部長昇進の条件に、英語が話せることと、標準語が話せることが条件にあったからなのよ」

「そ、そうなんですか!?」


 心底驚いて聞き返してしまったら、またも村田本部長が笑っていた。それも目尻に涙を溜めての大爆笑だ。……どういうことだ本当に。


「――はぁ……もう、冗談に決まっているでしょう? 弓削くんピュア過ぎ。東京にいる間は極力標準語で喋っているってだけよ? カッコ良く言うとTPOを弁えているってところかしら」

「そういうことですか。……それでしたら、どうして先程は博多弁になったんですか?」


 村田本部長のことなのでとんでもない理由が隠されているのかと思っていたら、なんてことないキャリアウーマンらしい回答だった。


「……気まぐれ……気まぐれよ。――そんなことよりも、私も聞きたいことがあるのだけれど?」

「はい、どうぞ」

「……それで一体いつになったら瀬能ちゃんはここに合流するのかしら?」


 ……はい?

 瀬能先輩が合流?

 ……むしろどうして瀬能先輩が合流することになってるんだ??

 逆に俺が聞きたいまである。


 ……なんて言える訳もない。


「本日は瀬能は呼んでおりませんが……」

「どうして!? 博多で一緒に飲めなかったから今日はやっと3人で飲めるって楽しみにしていたのに!!」

「申し訳ありません」

「……なんで瀬能ちゃんを誘ってくれなかったの? ……もしかして誘いにくい状況になっているということかしら?」


 ――ぐぬぬ。さすがは村田本部長。勘の鋭さが尋常じゃない。


「い、いえ! そんなことは……ありません」

「……甘い……甘いわ、弓削くん。そんな反応でお姉さんを騙そうなんて100年早い」

「すみません」


 な、なんでだ!

 どうして秒で見破られるだよ!!


 洋画の主人公がやりそうな、人差し指を立てて横に振る「チッチッチ」というジェスチャーをしながら笑みを深める村田本部長。

 その姿が様になっているのは美人故だろう。


「事情は知らないけれど、弓削くんが誘いにくいのならば私が誘うわ。スマホを貸して頂戴」

「い、いや」

「早くしなさい?」

「……ですが――」

「――早う貸さんと……くらすぞ、きさん」


 ――修羅だった。


 極限まで細めた目から覗く視線は研ぎ澄まされた刃の如き鋭さがあり、それなのにニコニコと微笑んでいるのだ。

 これを、目が笑っていない、と表現するのだろう。

 ……怖すぎる。

 しかも「くらすぞ」って確か……ぶん殴るぞ! って意味だった気がする。「きさん」は文脈から推し量るに「貴様」みたいなニュアンスだろう。


 ――以上のことから「早くスマホを貸さないと……貴様をぶん殴るぞ」と、目の笑っていない笑みで言っているのだ。


 ――や、()られる!!


「……分かりました」

「もうっ♪ 次からは素直に渡してね? ……これから掛けるのだけれど――弓削くんは絶対に喋らないこと。いいわね?」


 またしても目の笑っていない――修羅の笑みを浮かべて圧をかけてくる村田本部長。

 俺はただ首を縦に振ることしかできなかった。

 本部長に上り詰めるには、こういった強さも必要なのだろう……きっと。


「はい」

「じゃあ掛けるわね」


 ――そして村田本部長は俺のスマホから瀬能先輩の番号にコールしたのだった。

残念!

弓削くんではありません!!\(^o^)/

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