5 『結局のところ――瀬能芹葉は独り占めをしたい』
IDしか分からないのでこの場を借りて!
誤字報告をしてくださっている方へ。
いつもありがとうございます!
大変助かっております!<m(__)m>
昼休みを終えてデスクに戻り、不在となっている瀬能先輩の帰りを今か今かと待っていた。……瀬能先輩が戻ってきたら飲みに誘うぞ! とひとり意気込んで。
……だが瀬能先輩はお昼休み終了のチャイムが鳴っても席には戻ってこなかった。
もしかして……と、慌ててスケジューラーを確認してみると、見事に午後は全て会議で埋まっていた。俺も今日は仕事終わりに村田本部長と納涼花火大会での保育士さんの派遣等について打ち合わせが入っているので、瀬能先輩と会うタイミングはなさそうだ……。
「……マジかよ」
「どうした? 深刻そうに呟いて」
いつの間にか漏れてしまった心の声を拾い上げた甲斐先輩が、表情を変えることなく近付いてきた。
その横には「どうしたのー?」と小原先輩もいた。……ふたりに聞かれていたなんて恥ずかし過ぎる。
「それが……先輩のスケジュールが午後全部埋まっていたので、今日は飲みに誘えそうにないなと思いまして」
「おぉー! さっそくお誘いしようとしてたのー? 吹っ切れたみたいだね! よかったよかった♪」
「別に何が何でも今日誘う必要はないだろう。弓削も店の手配とかあるだろ? それと同じく瀬能にも色々と準備があるだろうから、事前に予定を聞いてからにした方が良いと思うぞ」
まったくもって甲斐先輩の言う通りだな……。
まずは瀬能先輩のスケジュールを押さえてから動く。
仕事ではキッチリとそうやってきたハズなのに……告白することを具体的に考え始めたらすぐにこれだ。いかに俺がヘタレでビビリなのかが分かるというものだ。ダセェ……。
「ありがとうございます。誘うのは一旦落ち着いてからにしたいと思います」
「そうしろ。とりあえず目の前の業務を片付けて冷静になることだ」
「はい!」
「素直な子っていうのもいいなぁー。ねぇ、甲斐先輩?」
「小原……お前も一先ずは仕事をしろ」
「はいはーい。わかってますよーだっ!」
「……ったく」
――それから余計なことを考えぬよう午後の業務に集中して取り組み、気が付けば時刻は17時過ぎとなっていた。
村田本部長とは17時30分に最寄り駅近くのカフェで待ち合わせをしているので、そろそろ出ようかと立ち上がったところで。
――会議を終えた瀬能先輩が走りに限りなく近い早歩きで、総務課のオフィスに慌ただしく戻ってきた。
……本当に忙しそうだ。俺が考えることではないが、ちゃんと休めているのだろうか。
瀬能先輩はノートパソコンをデスクに置くや否や、どういう訳かそっと忍び足で俺のもとにやってきた。
周りには総務課の皆もいるので、音を出さないように配慮したのだろう。
「――ゆ、弓削くん。少しいいかしら?」
「はい」
普段通りのクールな表情だが、どこか緊張したように周囲を警戒している瀬能先輩。それは今日見せてくれたミーアキャットのキョロキョロ警戒モードだった。……うん。普通に可愛い。
顔を左右に動かして誰にも注目されていないことを確認してから、コクリと頷いて。皆の視界には入らない俺の袖口をクイクイと引っ張ってから、上目遣いに潤んだ瞳を向けてくる。
……最近は完全に冷静沈着モードだったので、不意にこんなことをやられると思わず「可愛いです!」と叫びたくなってしまう。それほどまでに、俺の中の「瀬能先輩可愛い」成分が枯渇しているのだ。……自分で言っておいてあれだが、アホなのか俺は?
「お耳……かして? こしょこしょ話だから……」
「……分かりました」
よっぽど聞かれたくない秘密の内容なのか、口に手を添えて筒を作り。ゆっくりと接近してくる瀬能先輩。
微かに香る花のような甘い匂い。それは瀬能先輩の接近を告げる警告のようなもの。
今のこの状況と、一体何を言われるのか想像もつかないので妙に緊張してきた。
思わずゴクリと唾を呑み込み、身構えていたら――、
「…… 」
「…………」
予想もしていない言葉と、瀬能先輩の吐息が俺の鼓膜を揺らした。
……いやいやいや! どういうことですか!?
身構えていたというのに若干取り乱す体たらく。
これは朝から言っている「福岡行っちゃえ!」だったり、ビジネスチャットで送られてきた『(´;д;`)福岡行っちゃやだぁー!』に関係……しているんだろうな、多分。
なぜ唐突にこの発言が始まったのかよく分かっていないので、俺としては答えようがない。
すると無言でいる俺を不審に思ったのか、瀬能先輩が更にこそこそ話を継続してきた。……ってこれこそこそ話じゃなくて、一方的な伝言のような気がするんだが。
「 」
――そこでようやく理解できた。
瀬能先輩は何故だか村田本部長に――ライバル心を抱いているみたいだ。
……確かに村田本部長もバリバリのキャリアウーマンで、纏う空気は瀬能先輩と同じようなクールなものだった。おふざけモードで喋り始めるとあれだが……。
――だからこそのライバル視か。さすがは瀬能先輩。常に上を見ているってことか。
「――俺も」いつかは村田本部長を越えたいです! と口にしようとしたところで、無情にも時間がきてしまったらしく、
「――瀬能くん! 次の会議始まるよ!」
「……はい」
会議室から顔を出した恵比寿部長に呼ばれて、何事も無かったかのように瞬時に俺から離れた瀬能先輩は、自分のデスクにノートパソコンを取りに行ってしまった。
……結局瀬能先輩は何が言いたかったん――、
「――弓削くん」
てっきりノートパソコンを持ってそのまま会議室に向かうのかと思いきや、もう一度俺のところにパタパタとかけてきた瀬能先輩。
俺の前で立ち止まって深呼吸を数回。瞬きを数度繰り返し。
逡巡するように唇を噛みながら、頬に薄紅を溶かし。
最後には真っ直ぐにこっちを見つめて、はにかんでから言った。
「あなたは私の後輩くんなの。……だから私に――独り占めさせて?」
刹那、やけにすっきりとしたような表情に切り替わって、躍るような軽い足取りで瀬能先輩は会議室へと消えていったのだった。
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~ラフイラスト公開コーナー~
最終の第3弾は仲良し同期組です!
Wあさひのコミュ力がラフイラストからでも伝わってきますね!(笑)
さすがコミュ力お化け達だ( ゜Д゜)
穂村ちゃんはこんなに真面目そうなのにドS!
……人は見た目かけによらないってやつですね!(笑)
以降に入ってくる新入社員は全員穂村ちゃんに新人研修という名の調教をされて、ドMになるというのはまた別のお話……\(^o^)/(冗談です!)
瀬能先輩の懸念は別にあるのに(村田本部長と弓削くんが会うこと)
「独り占めさせて」って弓削くんに伝えることができて、それで満足してしまって気が付いてません……相変わらずぽんこつ!
恋は盲目ってやつだね! 多分違いますけど!