3 『お昼だョ! 総務課全員集合!』
平成31年4月30日23時59分!
平成最後の更新です!
令和になっても皆様よろしくお願いしますね!
――もうあと5分で昼休み。
そんなタイミングで通知音と共にPCモニターに吹き出し画面が現れた。コミュニケーションツールとして導入された社内のビジネスチャットのものだった。
メールで連絡するよりも手軽で、一緒にWGを組んだことがあったり、見知った仲だと大抵の人はこのビジネスチャットを使って連絡を取りあっていたりする。俺も同期のWあさひだったり、ドS穂村とのやりとりは大体このビジネスチャットだ。
時間的に工藤あたりから昼飯の誘いがきたのかと思って、軽い気持ちで吹き出し画面に目を向けて……思わず固まった。
『(`・ω・´)弓削くん!
飛行機はとっても!
とーっても怖い乗り物よ||´・д・)コワィョォ……
だって乱気流に入ると((((;´・ω・`)))ガタガタするのよ!?
想像しただけでもすっごく怖いでしょう?』
――え? なんだこれ? 新手のスパムか??
つい2度見をした後、差出人欄を確認。
【差出人:瀬能芹葉】
『(`・ω・´)弓削くん!
飛行機はとっても!
とーっても怖い乗り物よ||´・д・)コワィョォ……
だって乱気流に入ると((((;´・ω・`)))ガタガタするのよ!?
想像しただけでもすっごく怖いでしょう?』
目をいくら擦ってみても差出人は――瀬能芹葉と確かに表示されているし、文面が変わっていることはなかった。……当たり前だろうけど。
……だが俺はこれまで瀬能先輩からビジネスチャットで連絡をされたことがない。冷静沈着な瀬能先輩らしく業務連絡はいつも決まってメール。文章も要点がまとめられたキッチリとした堅いものだ。
……それなのにこんな顔文字まで入った真意の読めない文面で、それも突然ビジネスチャットで送られてくるなんて……訳が分からない。
というかこれ瀬能先輩じゃなくて、別人で同姓同名の瀬能芹葉さんが社内に存在するという可能性の方が高く感じる。
瀬能先輩の意図を全くもって理解することができなかったのと。これを送ってきたのが本当に瀬能先輩であるのか確認するために、離れ小島の課長席に座る差出人に目を向けた。
――すると瀬能先輩は背筋をピーンと伸ばし、モニターの上からひょこっと顔を出して俺のことを見ていた。その仕草はミーアキャットが外敵を監視している時のポーズにそっくりだ。不覚にも笑いそうになってしまった。久しぶりに可愛い瀬能先輩をハッキリと見た気がする。
「…………」
そのまま瀬能先輩は何も言わずに固まっている。……いや、よく見ると目線をキョロキョロと動かして辺りを警戒しているようだ。……うん。本当にミーアキャットっぽいな。
この状態で待っていてもしょうがないので、瀬能先輩の席に行って直接どんな用事なのか聞こうと席を立った瞬間――、
「――離陸っ!?」(口パク)
瀬能先輩の口が「りりく」という言葉を発したように見えた。距離があるので実際のところなんて口にしたのかは分からないが……。
そんな様子を眺めていたら瀬能先輩が再起動するようにビクッと揺れて、今度はもの凄い勢いでタイピングを始めた。
そして程なくして届いた新たなメッセージには、こんなことが書かれていた。
『(´;д;`)福岡行っちゃやだぁー!』
同姓同名の瀬能芹葉さんではなく。正真正銘、瀬能先輩であることが確定した。
もう文面にはツッコまないが……なんとなく状況が読めてきた。
どうやら瀬能先輩は今朝言ったことを気にしているようだ。
俺としてもあの発言の意味が理解できていなかったので、ここで一度瀬能先輩と意識合わせをしておいた方が良いのかもしれない。……もしかすると納涼花火大会のプランについてのダメ出しだった、という可能性も考えられるので。
――だったら瀬能先輩を昼飯に誘って、色々と聞いた方が早そうだな。
昼休み開始まで残り1分を切ったので、俺は課長席に向かって歩みを進めた。
徐々に近付いていくと瀬能先輩はモニターの陰に姿を隠すように、身体を縮こまらせて机にぺたーっと伏せている。……何あの行動。死ぬほど可愛いんだが。
「――課長、もしよかったら――」
席に着いて俺が声を掛けたのとほぼ同時に昼休み開始を告げるチャイムが鳴り、
「――ひ、人に呼ばれているから席を外すわね。ごめんなさい」
そのタイミングで立ち上がった瀬能先輩が真顔のまま、早歩きでどこかに行ってしまった。どうもタイミングが悪かったみたいだ。
遠ざかる瀬能先輩の後姿を見つめていたら、肩に手を乗せられた。横を向くと釣井先輩が下卑た笑みを浮かべている。……なんか無性にムカつく。
「なんだ? お前ら最近喧嘩でもしてるのか?」
「してませんよ……どうしてですか?」
……釣井先輩、意外と鋭い。別に喧嘩ではないと思うが……。
「だってなぁ……前みたいにイチャつかなくなったろ?」
「な、何言ってるんですか! 前からイチャついてなどいませんけど!?」
「――弓削。それはさすがに無理があると思うぞ」
今度は反対側の肩を叩かれ、見れば甲斐先輩が首を横に振りながら言葉を続けた。
「――小原もそう思うだろ?」
不意に話を振られた小原先輩はイスに座ったままクルリとこっちを向き。「やれやれ」と言いたげな表情を湛えてから言った。……何だこの展開? あまりにスムーズなやりとりなので、打ち合わせでもしてたのだろうか?
「そうですねー。あれだけあまーい空間を作っておいて、イチャついてません、は通じないと思うよー? 弓削くん」
「甲斐先輩と小原先輩まで……どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも、瀬能と弓削の空気が険悪だからこっちも色々とやり難いんだよ」
そんな釣井先輩の言葉に総務課の他の先輩達も「その通りだ」「早く仲直りしてね?」と、口々に言っている。……マジでどういうこと?
「待ってください。俺と瀬能先輩は別にケンカなんてしてませんし、別に険悪というほど仲が悪くなった訳では――」
「――不仲になったのは認めるんだな?」
「……た、確かに最近は瀬能先輩とあまり話さなくなりましたけど」
「それで充分! 弓削くんが総務課に来たのが5月からだから、今ちょうど3カ月目だよねー? カップルの倦怠期突入シーズン真っ盛りってところだねー」
今ここで「カップルじゃないです!」って言っても流されそうな気がしたので、無駄なことはせずに先輩達に問い掛けた。
……できることなら俺も以前のように瀬能先輩と仲良く仕事をしたいのだ。
「……俺はどうすればいいんでしょうか? 瀬能先輩と仲良く仕事がしたいのですが、なんだか避けられているような気がして」
釣井先輩がわざとらしく何度も頷き、周りの皆に目配せをした。他の先輩達も同じく頷いている。……何が始まるんだ?
「――よし! お昼だョ! 総務課全員集合!」
「よしきた!」
「はいはーい!」
「全員集合は久しぶりだな」
「芹葉ちゃんいないですけどね」
「総務課の平穏を取り戻すぞ!」
「12C会議室押さえましたー!」
「了解! 各自、昼は持参で5分後、12C会議室に参集願う!」
「……どういうことですか?」
思わず口を挟む。
急に先輩達が慌ただしく動き出したかと思いきや、会議室と各自のスケジューラーが押さえられたのだ。
理解が追い付かない。俺がひとりだけポツンと取り残されていたら「とにかく早急に下の売店で飯を買って来い!」と釣井先輩に背中を押され、訳も分からず昼飯を買って12C会議室へと駆け込んだ。
入室すると既に瀬能先輩を除く全総務課員が集結していた。室内には異様な緊張感が満ちており、俺は末席へと足を向け――、
「弓削! 定刻は過ぎているぞ! こっちに来い!」
「え? は、はい」
釣井先輩に呼び止められて、何故か最前列に座らされた。……ちょっと待って。そもそもこの集まりってなんだ?
いくら頭を捻っても答えは出ず――そんなタイミングで会議室の扉が開いた。
白髪頭で柔らかい笑み。纏う雰囲気は穏やかで、存在感のあるぽっちゃり体系からは癒しのオーラが放たれている。
誰がどう見ても総務課の前課長で、現総務部長を務める――恵比寿部長その人だった。もはや総務課全員集合じゃない気がするんだが……。
「――ごめんね。飴ちゃん買ってたら遅れちゃったよ」
「遅いですよー! 恵比寿課長……じゃなくて部長!」
「全員集合したみたいだから始めるぞ?」
「ちょ、ちょっと待って下さい!! これ一体何の会議なんですか!?」
慌てて発言したら、皆の視線が俺に集まり「何言ってんだこいつ?」みたいな顔をされた。……もう訳分からん。
「落ち着け弓削。議題はこれから釣井先輩が発表する」
「は、はい」
「……では、これより――弓削と瀬能の痴話喧嘩を解決する会を始めたいと思う。よろしくお願いします」
「えぇっ!?」
先輩達は普通に「よろしくお願いします」なんて普通に会議を始める体で挨拶をしている。誰も俺の言葉には反応すらしてくれなかった。
――これ絶対、イジられるやつだ。
俺がそう悟ったのは言うまでもないだろう……。
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~ラフイラスト公開コーナー~
今更感ありますが、貴重なラフイラストなので皆様に見ていただきたくどど~んと公開させていただきます!
まずは第1弾で瀬能先輩から!
はい! ラフの時点で最高です!
ラフの方が少しクール感強めって感じでしょうか?
クール感を出すために髪の色は青みがかった黒の勝色というのにしていただいております!
ちなみにぽわぽわしている「ほへふへーふ」の可愛さにしきはらは悶絶しました!\(^o^)/