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【連載版】クール美女系先輩が家に泊まっていけとお泊まりを要求してきました……  作者: 識原 佳乃
クール美女系先輩が家に泊まっていけとお泊まりを要求してきました……
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1 『新米課長――瀬能芹葉は拗ねている』

 様々な出来事があった九州出張から早いもので1か月が経過した7月中旬。今年もうだるような暑さの夏本番がやってきた。


 瀬能先輩は会社創業以来初の20代課長として、意欲的に仕事に取り組んでいた。ただでさえ冷静沈着美女(クールビューティー)として有名だったが、課長昇進を果たした現在は更に磨きがかかり、社内でふたりきりになった時も喜怒哀楽を一切表に出さなくなった。

 席も俺の隣席から部下の方を向いた離れ小島の課長席に移ってしまったため、もちろん早朝のオフィスでふたりきりになっても横でちびちびとおにぎりを食べる姿は見れなくなり。当然おにぎりもぐもぐ語も久しく聞いていない。飲み会も課の皆で瀬能先輩と恵比寿課長……じゃなくて恵比寿部長の昇進祝いをしたっきり、ふたりで飲みに行ったりもできていない。


 ……男のくせにこんなことを思うのは女々しいのかもしれないが、瀬能先輩の可愛い姿を見れなくなったのは理性的に助かったと思う反面、正直寂しくもあった。


「――おはようございます、()()


 通勤するだけで汗を掻くほどの暑さ。確か天気予報では今日の最高気温は36℃と言っていた気がする。……もはや35℃を超えても何も思わなくなってきている。結構な人が共感してくれる、あるあるだと思う。


「……おはよう、弓削くん」


 時刻は7時過ぎ。ここのところは暑くなる前に……と早めに会社に来ていた。

 だからなのか空調の効いたフロアには俺と瀬能先輩しかいない。

 そんな中、俺が挨拶を口にすると瀬能先輩は澄ました顔を上げて一瞬こちらを見てから、すぐにプイッとモニター画面へと向き直ってしまった。

 課長というのは相当激務なのだろう。以前からだが出社は相変わらず1番乗りで、帰るのはフロアの誰よりも遅くなっている。


 ……果たして瀬能先輩はちゃんと休めているのだろうか?


 最近はこんな心配ばかりしてしまっている。それなのに自分が聞くのは失礼かと考えて何もできていない己が情けない。


「課長、少しお時間よろしいでしょうか?」

「―― (ま……っ) (たぁ)…………えぇ」


 俺のことをジーッと見つめ、小声で何かを呟いてから了承を口にした瀬能先輩。

 よく聞き取れなかったが瀬能先輩の貴重な時間を潰すことはできないので、俺は要件を即座に伝える。


「本社地区地域貢献行事の納涼花火大会の件なのですが――」


 うちの会社はもう30年も前からこういった地域行事を行っており、そのひとつに今挙げた納涼花火大会という、所謂(いわゆる)夏祭りがある。開催は8月最終週の土曜日。あと1か月半ほどだ。

 この納涼花火大会は年々規模が拡大し、ここ最近では会社近くの河川敷を借りて行われるほどの大規模なものとなっている。

 ……ちなみにここまで大規模な夏祭りになったのは、これまでずっと瀬能先輩が企画立案と実行の陣頭指揮を執っていたかららしい。総務課の仕事ではあるが、毎年恒例の行事だからと手を抜かずに何事にも全力で取り組み、きっちりと成果を出すその姿勢は素直にカッコイイ。さすがは瀬能先輩である。

 ――そして今年から俺が瀬能先輩の後を継いで、納涼花火大会の担当になったのだ。瀬能先輩が課長に昇進するにあたって引き継いだ業務のうちのひとつだったりする。


「――といった理由から、以前よりこの納涼花火大会をご存知の方はもちろんのこと、若年層やファミリー層にも新しく認知・参加していただけるよう、会社広報の各種SNSアカウントを用いた情報発信と、いくつか取り組みを考えてみました」


 歴史のある地域行事なので地元住民には広く知られているが、全国的な知名度はほとんどないのが現状だ。実際花火大会自体の規模としては1000発程度打ち上げるので、それだけで考えるといち地域行事のレベルは超えているはずなのだ。

 ……そこで俺は考えた。これだけのポテンシャルを秘めた夏祭りをこのままにしておくのはもったいなかろうと。

 一応地域貢献の行事ということになっている。しかし企業が主催している以上、最終的な狙いはお客様に向けたPRになるので、知名度を上げる方向性については断られないと確信している。


「情報発信については弓削くんの言う通りとてもいいと思うわ。何か分からないことがあれば私が窓口になるから――いつでも聞いてね?」


 とりあえず俺の考えは間違ってはいなかったようで一安心だ。

 瀬能先輩は優しいので気を使って「いつでも聞いてね?」と言ってくれたが、俺からするとこんなことで手間を掛ける訳にはいかないのだ。ただでさえ課長になって忙しいというのに、やれることはすべて自分でやるべきだろう。

 ――という考えのもと俺は動いて、実は既に関係各部への根回しは済んでいる。全ては同期の協力があってできたことだった。まずは人事部の穂村に会社広報のSNSアカウント担当を突き止めてもらい、コミュ力お化けの工藤と舞野の(ダブル)あさひに紹介してもらったのだ。

 持つべきものは友……ならぬ同期である。


「ありがとうございます。会社広報アカウントからの定期的な情報発信は既にITネットワーク部と広報部の担当の方と打ち合わせを進めておりますので、問題なく進捗できそうです」


 気を抜けば「どうですか先輩!」と、どや顔をしてしまいそうになるので、意識的に真剣な表情を。

 すると瀬能先輩はキュッと眉根を寄せてから口を開いた。……なんだ? そこはかとなく不機嫌になったような気がする。


「…………そぅ…………それで取り組みとはどのようなものなのかしら? ご来場いただく方の安全が確保できないような取り組みは許可できないわよ? ……でも、その点も私が内外の担当者に確認することができるから、何か困ったことがあれば――気軽に相談してね?」


 その質問も想定済みだった。

 何かしらのイベントを行うにあたって最優先事項となるのは、安全の確保である。よく工事現場なんかでも見かけると思うが、安全第一というやつだ。

 この点も既に社内の安全推進部の担当や、河川敷を管理する国土交通省関東地方整備局の河川事務所へ事前に相談済みである。

 またしても顔が緩みそうになるのを引き締めながら、タブレットでイベントの詳細をまとめたスライドを表示して瀬能先輩に説明をする。


「はい。

 こちらが今現在企画しているものになります。

 ひとつめはスマホで花火を撮影する方が非常に多く想定されますので、通行の邪魔にならない安全な場所に、写真映りが良い(フォトジェニック)スポットを複数設置します。

 このスポットでは安全に静止画や動画撮影が行えるよう、完全に区画を分けるつもりです」


 フォトジェニックスポットとは画像共有アプリのインスタントグラムで言うところの、通称インスタ映えを狙ったエリアのことだ。

 花火大会運営について一通り調べてみたところ、一番問題となっているのは通行帯での観覧や写真撮影とのことだったので、これの解消を狙うと同時にSNSで広く情報発信されるよう考えた取り組みだ。


 瀬能先輩は真剣な眼差しでスライドを眺めてから「……これすっごくイイと思う」と呟いた。

 っしゃぁぁぁ! と内心でガッツポーズをしたのは言うまでもないだろう。


「次に花火についてですが。

 花火の打ち上げをプログラム制御の電気着火で行うことにより、誰でも聞いたことのあるような音楽や名曲とシンクロさせて、より楽しんでもらおうと考えています。

 これにつきましては花火業者の流星花煙火店様と楽曲の選定、打ち上げタイミングなどを調整中になります」


 これも動画共有サイトに多く情報発信されることを想定して、花火と音楽をシンクロさせたエンターテインメントにしようと考えたものだ。

 本当はここにプロジェクションマッピングも組み込もうとしたのだが、これを同時にやると「詰め込み過ぎでどこを見ればいいのか分からなくなるぞ?」と、工藤に指摘されて諦めた。


 ……来年は準備期間を前倒ししてプロジェクションマッピングもやってやる! と秘かにひとりで意気込んでいたりする。


「面白そうな取り組みね。ちゃんと楽曲の使用許諾も申請するのを忘れないように。もし分からなければ――先輩の私が教えてあげるから」

「ご指摘ありがとうございます。ですが課長の手間を煩わせるほどのことでもありませんので、こちらで楽曲使用申請についての対応を法務部に確認しておきます」

「…………分かったわ」


 またしても変な間があったような気がするが、スライドを眺めて俯いている瀬能先輩の表情は確認できないので、恐らく他に問題がないか考えていたのだと思う。……常に色々な視点から物事を見られる瀬能先輩。相変わらずカッコ良過ぎるだろ。


「最後にファミリー層に対する取り組みについてです。

 こちらは土手の上にキッズスペースを設けて対応しようと考えております。

 想定利用者数やそれに対して必要になるスペースの算出。

 また、場合によっては保育士さんを派遣していただいて安全に利用してもらえるよう、ユビノ・ホールディングスの村田様に相談しようかと思っています。

 どうも丁度本日東京に来ているそうなので、後で直接会って確認してきます」


 すると俺の言葉を聞いた瀬能先輩が、課長になって初めて感情を表に出し。その表情はどこかいじけたようで、だけど怒ったような様々な感情が入り乱れた複雑なものだ。


「――んんっ!? ……もう、弓削くんなんて…………福岡行っちゃえぇぇぇぇっ!!」

「えっ?」


 そして瀬能先輩は機敏な動作で立ち上がり「行っちゃえぇ⤴」「ぇぇぇっ⤵」と、緊急車両のサイレンよろしく、見事なドップラー効果を起こしながらどこかに走り去っていったのだった……。

~レビューのお礼~

蒼穹(るっぷり)様!

21件目のレビューありがとうございます!

>口から砂糖ダバー

 ⇒これを見て「ダバダー♪ダーバー♪ダバダー♪ダバダー♪」というネスカフェゴールドブレンドのCMも思い出しました(笑)

  あれ結構好きだったんですけど……知ってる人いたら私と同年代ですね(笑)

>初のレビューなんでどう書けば良いのかわかりませんね…

 ⇒ホント私の作品でそんな貴重な初レビューを捨てちゃっていいんですか!?(笑)

  ありがとうございます! と言いながらネタにしますよ!? しちゃいますよ!?

  いいですよね!? いいってことにしよう!\(^o^)/


初レビューを書くとオロる(本人が)


瀬能先輩「弓削くん弓削くんっ!」(*´ω`*)

弓削くん「どうかしましたか?」

瀬能先輩「これあげるっ!」(´っ・ω・)っそらるっぷりシュガー

弓削くん「なんですかこれ?」

瀬能先輩「あそこにいる人がくれたの!」m9っ`・ω・´)シャキーン

蒼穹(るっぷり)様 _| ̄|○<オロロロロロロッ!!

弓削くん「えぇっ!? あの人……オロってますけど、大丈夫なんですか!?」

瀬能先輩「お砂糖なくなったら、ガムシロを吐く? から大丈夫なんだって!」(`・ω・´)キリッ

蒼穹(るっぷり)様 _| ̄|○<ペニョョョョョン!!

弓削くん「ペニョョョョョン……ってなに!? 絶対ガムシロじゃない何かを吐いてますよあの人!!」

蒼穹(るっぷり)様 (*TーT)bグッ!……チ───(´-ω-`)───ン

弓削くん「えぇぇぇっ!? …………へんじがない。ただのしかばねのようだ」



蒼穹(るっぷり)様は「ペニョョョョョン」という謎の断末魔を残し、レビューを書き上げた直後にパウダーシュガーになってお空のお星さまに仲間入りしたそうな……めでたしめでたし☆彡


\(^o^)/そらるっぷり様、本当にごめんなさい!<m(__)m>

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