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34 『\\٩(⁎˃ᴗ˂⁎)۶// ←弓削くんに彼女がいないと知った時の瀬能先輩の内心』

キリどころの関係で短めです! すみませぬ!

 ホテルの1階に入っている青と白の縞模様が特徴のコンビニで、瀬能先輩への献上品(鮭おにぎりといくらのおにぎり)を調達してから、まずは自室へ向かう。

 荷物を置いて着替えを済まし、一度落ち着いて万全の態勢を整えてから向かいの部屋の扉をノックした。


「……弓削くん?」

「はい」

「……少し待ってもらえるかしら?」


 声の調子から察するに冷静沈着美女(クールビューティー)モードっぽい。「急がないで大丈夫ですよ」と声を掛けて、俺は頬が緩まないように身体を強張らせた。

 瀬能先輩の気持ちを理解した上で、普段通りの弓削明弘を演じなくてはならないのだ。これは並大抵の努力では隠し切れない。

 いつも以上に、普段以上に、集中して接するべきだろう。


 ――そして俺が皆から一人前と認められたら、瀬能先輩に想いを告げるのだ。それまでは取り繕うしかない。


「……どうぞ」

「失礼します」


 しばらくしてから扉が開かれて、てっきりモコモコのナイトウェアかと思っていたのだが――、


「――ハッ!?」


 部屋に備え付けのネイビーのシャツワンピースを身に纏った瀬能先輩がそこにいた。ただのルームウェアで別にシルクでもないというのに、瀬能先輩が着ていると煌いて見えるのは何故なのか。

 ついじっくりと眺めてしまう。

 髪は普段のハーフアップではなくヘアクリップで纏められていて、水気を含んだように艶めいている。……というか、普通に濡れているような?

 それに頬は上気したように赤らんでいて、何というか風呂上がりのようだ。

 前開きのシャツワンピースは膝よりも少し短い丈で、一見すると下に何も穿いていないのではないかと錯覚しそうになる。そしてそこから覗く生足が……って! 何見てんだ俺!? しっかりしろ!!


「どうしたの? 早く入って?」

「は、はい」


 出直そうかと考えたが、何も気にした様子の無い瀬能先輩に促されて、半ば魂の抜けた状態で部屋に入る。

 前を歩いて行く瀬能先輩の後ろをついていくと……濡れた髪からシャンプーのものなのか、はたまた、リンス、トリートメント、コンディショナーなのか一切分からないが、脳が痺れるような危険な甘い香りが漂ってきた。


 ――間違いなく風呂上がりであり、(どうてい)には刺激の強すぎるものだった。


「先輩ご飯買ってきましたよ!」


 いてもたってもいられず、買ってきたおにぎりを渡して部屋から出ていこうかと思って声を掛けるも「弓削くん、ありがとう。今、髪を乾かしてしまうから、少し待っていてもらえる?」と返されて、俺の退路は塞がれた。


 ――いきなりのピンチである。


 俺は気分を落ち着けようと部屋の隅で気配を殺して空気になろうとしていたら、キャリーケースからドライヤーを取り出していた瀬能先輩と目が合った。

 しばらくは真顔のまま俺をただ見つめていたが……刹那、口角を不自然に上げて目を細めた瀬能先輩が言った。……イタズラを思い付いた子供がするような悪い笑みだ。


「ねぇ、弓削くん? お風呂に入ったら何だかのぼせてしまって、髪をうまく乾かせなさそうだから……代わりにやってくれる?」


 ――予想通りの悪魔の囁きである。


 俺を自爆の道へと(いざな)うその甘言にのったら最後「先輩のことが好きです!」なんて、秒で言ってしまう自信があるので、内心で血の涙を流しながらなんとか堪えた。


 小悪魔的な振る舞いをする瀬能先輩とか、いよいよ完全無欠の存在になるぞ?

 美人で、カッコ良くて、その上可愛くて、それなのに頭も良くて、仕事もできて……小悪魔とか。

 ちなみに唯一の欠点と考えていたぽんこつ天然は、無邪気に致命的な一撃を放ってくることがあるので、一番質が悪いと最近気が付いた。


「む、無理です! 女性の髪を乾かしたことなんてありません! なのでご要望にお応えすることが難しい状況ですので辞退させていただきます!」

「それは残念。……でも、彼女さんの髪を乾かしたことはあるでしょう?」

「ないですよ! むしろ彼女ができたことなんてないです!!」

「……乾かしてくるから、待っててね?」


 ……ふぅ。どうにか危機的な状況を免れることができたぞ。

 あと少しでほんの1時間前にした決意を早速ぶち壊すところだった……。

 それにしても、断ったというのに瀬能先輩がやけに嬉しそうな表情をしていたのはなんだったんだろうか?


 髪を乾かし終えるまでどうしていればいいのか分からなくなった俺は、ドライヤーの音に交ざって時折聞こえてくる瀬能先輩の上機嫌な鼻歌に癒されたのだった。

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