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32 瀬能芹葉『はむはむっ♡』

書籍化作業を優先しているため、更新遅れ気味になっててすみません!

加筆修正等その他もろもろ合わせると通常更新の10話分ほど書きました!(めっちゃ書いてる……!)

まだ少し作業が残っているので、若干遅れ気味になるかと思いますがなるべく早くペースが戻せるよう頑張ります!

 弓削くんの手をしっかりと握ってベッドに引っ張る。


「ん~! ……ん?」


 ……でも全然動かない。全く動いてくれない。

 弓削くんが石みたいに硬くて、大岩みたいに重たいのだ。

 握った手はいつも通り私よりはゴツゴツしているのだけれど、ちゃんと柔らかいので全身が石みたいにカチコチになった訳ではないみたい。


 強力な瞬間接着剤で弓削くんがイスごと地面に固定されちゃったのかと、真剣に考えながらも、それよりも早く抱き枕にしたい一心で頑張った。

 ……弓削くんあったか抱き枕のために!


「ん~っ! んぬぬぅぅぅっ!!」


 結構引っ張る……動かない。

 力一杯引っ張る……ビクともしない。

 すっごい引っ張る……微動だにしない。

 一生懸命に引っ張る……ちょっぴり弓削くんがプルプルしてる?


 気分は童話のおおきなかぶの主人公である、おじいさんになった感じ。

 掛け声はもちろん「うんとこしょ♪ どっこいしょ♪」だ。

 これっぽっちも動く気配が無かったので、途中から前後に反動をつけてみたら――、


「――んんっ!?」

「……!」


 スポーンって効果音が聞こえてきそうな勢いで、弓削くんが私の方に飛び込んできたのだ!


 やった! やっと弓削くんが抜けた!

 ……と言っても別に埋まっていた訳ではないのだけれど。


 やけにスローモーションな視界の中で私はベッドに倒れ込みながら、こっちに向かってくる弓削くんを抱きしめて見事キャッチし――ひぃぅっ!?


 ゴツン!!


「――あぁぁぁぅぅぅっ!? い、いたっ……いたぃぃぃぃぃっ!!」


 カチコチになった弓削くん改め――かぶくんを力任せに引っこ抜いた天罰なのでしょうか?

 ベッド脇の机に頭をゴツンとぶつけてしまいました……。

 一体何をやっているのかしら私は……。

 

 目から星がでそうなくらいの衝撃で。

 頭にたんこぶができるんじゃないかと思うくらい痛くて。


 反射的に泣きべそをかきながら、無意識のうちに私の願望がスッと口から滑り落ちていった。


「――ゆげくん、いいこいいこして。あたま、ぶつけた………………っ!?」


 口にしてびっくり。

 さすがに熱があっても自認出来るくらい許容できない発言だった。

 さっきはお布団の上をゴロゴロ転がったりしたけれど、もうそんな程度では済みそうにない。

 恥ずかしいなんてとうに越えて、このままお布団に包まって全てを忘れて眠っちゃいたいくらいの羞恥の至り。

 後頭部がズキズキと痛んで熱をもっているけれど、顔面も火が出そうなくらい熱くなっていて。

 ……ふと首を起こして壁掛け鏡(ウォールミラー)に目を向けたら、紅絹(もみ)色に頬を染め上げて泣きべそをかいている私の姿が写っていた。


 もしもこんな姿を弓削くんに見られていたら、私はきっと引きこもりになっていたと思う。……良かった。弓削くんが眠っていてくれて。


 ぶつけた痛みが和らぐまでじっとしてから顔を動かして――全然良くない状況に陥っていることをようやく認識した。


「――っ!?」


 心底(しんてい)から驚くと声も出ないと初めて体感して。

 今度は私がカチコチに固まった。 


 位置関係で説明すると……。


 ベッドの上で仰向けに寝っ転がって固まっている私。

 そんな私の上にうつ伏せで覆い被さっている弓削くん。


 ……こんな状態。ちなみに覆い被さられているのに意外と弓削くんが軽い。そのことでもちょっとビックリ。


 ――今の風邪っぴきな私はとっても自己中心的で、やりたいことに忠実なタガが外れた欲望の化身なのだ。


 ……つまるところ自分からくっつくのはいいのだけれど、例え意識が無くとも弓削くんから密着されちゃうのはとてもすごくまずい。……むしろ意識がないからこそまずい。


 自分からならばどうにか気持ちを静めながらマイペースにくっつけるのに……こんなにも無防備な状態で密着されていると――私の中に潜む悪魔が囁くのだ。






 ――次は彼の口にしたらどう? 今ならバレないわよ?






 無自覚だった頃の私は以前ごく自然に眠っていた弓削くんの頬に――キスをしたことがある。

 その時はどうしてそんな行動をしたのか、()()()()()()()()()()()()()()()をしようとして、結果的に色々と一杯一杯になっちゃって子供のように泣いてしまったのだ。


 ……それから弓削くんに「カッコ悪い先輩も結構好きですよ?」なんて言ってもらえて、私は自分の気持ちにほんの少しずつ向き合うようになった。


 幼い頃から希薄な人間関係を構築してきた私には初めてのことで。

 弓削くんと過ごすなんてことのない毎日はとっても充実していて。

 隣にいるだけで、些細な会話をするだけで、一瞬目が合うだけで。


 ――どうしようもないほどに、嬉しくなってしまうのだ。


 そんな日々を過ごしていたので、ちゃんとした答えを出すのにそう時間はかからなかった。


 自分でも抑えられないくらい大きくなった弓削くんへの気持ちがたまに暴走して、お仕置きという建前のもと……彼の頬にもう一度「サン()()」をしたこともあったけれど……。


 ――な、なんてことはおいておくとして。


 無色透明のような人付き合いしか知らなかった私の世界は、弓削くんによって彩られ。

 感情を表に出すのが苦手だったはずなのに、それすらも弓削くんのおかげで変わり始めて。


 そんな年下でありながら私を引っ張ってくれる弓削くんのことが




 ――好きになってしまったのだ。




「……あなたのことが―― (すき)……弓削くんのことが―― (だいすき♡)

「…………」




 今はまだ面と向かって弓削くんにきっちりと伝える勇気はなくて。

 ……だから独り言のようにぼそりと弓削くんの耳元で囁く。

 これはいつの日か想いを伝える時の予行演習のようなもの。

 頭では聞かれていないと分かっているのに、心臓は早鐘を打ち、呼吸は徐々に浅くなって、あまりの緊張感に押しつぶされそうになる。


 私のことをそそのかそうとしていた悪魔も、この緊張っぷりに同情してくれたのか――よく頑張ったわね――と褒めてくれた。……悪魔に褒められるのって果たしていいことなのかしら?


 それから覆い被さっている弓削くんあったか抱き枕改め、弓削くんあったか掛布団を好きなだけ抱きしめたり、胸に顔を埋めてグリグリしたり、起きている時には絶対に出来ない色んな所を触ったりして、思いっきり堪能した。


 ……ふぅーっ。まんぞく!


「――おやすみ。弓削くん……はむっ」

「…………っ!?」


 そして私は妙な安心感と達成感で胸がいっぱいになり、当初の目的通り弓削くんあったか掛け布団を胸に、心地好い眠りの流れに意識を任せて目を瞑ったのだった。




 ……ん。はむはむっ♡

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