28 『――私と一緒に寝て?』
書籍化作業はとりあえず一段落したので、ぼちぼちペース戻せそうです。感想返しも遅くなってて申し訳ありません!
でも……花粉症がやばいです。くしゅんくしゅんとまりません。
毎年この時期は地獄です。花粉症の方ならば分かってくれるはず……!
おにぎりひとつにたっぷり30分かけて何とか食べ終えた瀬能先輩。
言わずもがないつもの少しずつ食べるリススタイルだったからだ。……無意識なんだろうけど、ふいに遠くを見つめてもぐもぐしている姿は本当にリスのようだった。
「ごちそうさまでした……おやすみなさい」
お茶を一口飲んで俺を一瞥してからごく自然な動作で上体を倒して、掛け布団を肩まで上げて眠りにつこうとする瀬能先輩。
待て待て! 何しれっと寝ようとしているのだろうかこの先輩は!
こちらをチラ見した時点で確信犯である。
狙いは何となくだが察しはついた。
……この甘えんぼうな先輩は――薬を飲みたがっていないのだ。
俺は覚えていた。
処方箋を眺めながら全力のしかめっ面で「……さらざっく、はいごうかりゅう……」という、謎ワードを唱えていたことを。
「なに寝ようとしてるんですか先輩?」
「ふぅ~。たべたたべた。おなかいっぱい、おやすみなさい!」
瀬能先輩は膨れてもいないお腹をわざとらしくポンポンと叩いて、やけに元気よく眠りの世界へ旅立とうとする。
……逃がさん! 理性をフルボッコにしようとする地獄のような「あ~ん」の連続攻撃に耐えたんだ。中途半端な看病で終わらせてたまるか!!
俺は鬼になるぞぉ!!
「――すぐに眠ったら牛になりますよ」
女性に対しては絶対に言ってはならない禁止ワードを敢えて唱えた。
怒られるのよりも、その反論で起きてくれることを狙ってだ。
後で土下座しながらサンドバッグにでもなるので、今は何とか瀬能先輩に薬を飲ませたかった。
――だがそんな俺の目論見は、ただでさえぽんこつ天然なうえに、今は甘えんぼう駄々っ子幼女と化している瀬能先輩には……一切効果は無かった。
瀬能先輩は目を瞑って、ニコニコしながら頭の上で両手の人差し指をピーンと立てて角を再現し――、
「もぉ~~~」
と、クオリティの激低い牛の鳴き真似を披露していた。
……いやそもそも真似る気は微塵もなく、瀬能先輩がただただ「もぉ~」と言っているだけである。可愛いに決まってんだろこんなの!!
ダメだこのぽんこつ先輩……早くなんとかしないと……。
あまりの高熱で絶対零度のクールな部分が溶けた……どころか昇華してしまったのかもしれない。
「先輩、起きてちゃんと薬飲んでください」
「……う~ん、むにゃむにゃ……」わざとらしく寝言っぽいものを口にする瀬能先輩
「むにゃむにゃ言ってないで早く起きてください」
「……ねむねむ……」もはや寝言でも何でもないことを呟くニッコリ顔の瀬能先輩
瀬能先輩がマジで眠っている時は天使のような寝息が聞こえてくるはずなので、これは完全に起きている。
むしろこんな状態で本当に寝ていたら完全にただのぽんこつだ。
仕方ない。強引に起こすか。
薬袋から処方してもらった薬を3種類取り出す。
ひとつめは、トラネキサム酸錠というもので、喉の炎症や出血を抑えるものらしい。
ふたつめは、カロナール錠と呼ばれるもので、痛みや発熱に効くいわゆる頓服薬というものだった。
――そして最後の薬は総合風邪薬の……、
「――サラザック配合顆粒」
だった。
俺は薬の名前を瀬能先輩にも聞こえるようはっきりと口にする。
……するとどうだろうか。
今まで寝たふりをしながら余裕綽々と言った様子でニマニマしていた瀬能先輩が、急に無表情になったかと思いきや、徐々に苦虫を噛み潰したような顔になり。
終いには「 」と、小声で苦しみ喘いでいるではないか。
その状態変化から分かったことは、瀬能先輩は顆粒剤がとんでもなく嫌いだということだ。
俺はそんな瀬能先輩にトドメを刺すべく、耳元で顆粒剤が入った薬包紙をシャカシャカと振った。
気分は振るタイプのポテトを作っている感じだ。
「……しゃかしゃかやだぁぁぁっ!!」
ついに観念した瀬能先輩が勢い良く上体を起こしたので、もう一度横になれないよう、両肩を掴んで言う。
「先輩が薬を飲まない限り、俺は永遠に耳元でシャカシャカする所存です」
「な、なんでそんなに、にっこりしてるの!? こわいからやぁーっ!」
「それもやめてほしければ、薬を飲んでください。…………別にイジワルでやってるわけじゃないですからね? 俺は先輩に早く良くなってもらいたいんです」
少しふざけつつも本音を上乗せして。
落ち着くような声音を意識して。
瀬能先輩に本心を告げた。
「わたし……にがいのにがて」
知ってますよ。
ビールを飲んだ時に「 」と呟いているのを聞いたことがありますから。
でも今はあえてとぼける。
「そうなんですか? でも飲まないと治るものも治らなくなりますよ?」
「……ゆげくんは、わたしのこと、しんぱいしてくれるの?」
「当たり前です」
「……それって――私が、先輩だから? それとも私の――」
「それとも?」
なんだかほんの一瞬だけ瀬能先輩が思い詰めたような顔をしたが、次の瞬間にはそれは綺麗さっぱり消えていた。……何だったんだ一体?
「――うぅん。やっぱり、なんでもない」
「そうですか」
「おくすり……のむ。でも、じょうけんがある」
「条件とは?」
今度は一転して急に素直になった。
いつの間にか俺の指に細くて滑らかな五指を交わらせ。
しっかりとした目つきで俺をじーっと見つめてから、意を決したように瀬能先輩が口を開いた。
……この既視感。考えるまでも無く嫌な予感がする。
「……私と一緒に――寝て?」
~レビューのお礼~
sou様!
19件目のお砂糖初レビューありがとうございます!(笑)
ちなみにしきはらも小学生の頃は作文が勉強の中で一番嫌いでした……
よくー(伸ばし棒)だけで数行埋めたりしてました(笑)
今日は楽しかったーーーーーーーーーーーーーーーーー!
みたいな感じで(笑)……皆さんも、やってましたよね?
~マーライオンSS~sou様ごめんなさい!\(^o^)/
sou様「口から砂糖とか……んなわけねーよ」口端に砂糖を付けながら
恵比寿課長「口から砂糖? 飴ちゃんが無限に食べれるようなものかな?」口端に大福のかたくり粉を付けながら
瀬能先輩「口からお砂糖……どういうことかしら?」ほっぺたにおにぎりのごはん粒を付けながら首を傾げる
弓削くん「先輩、頬っぺたにおべんとがついてますよ」何気なくごはん粒を取って、無意識にぱくり
瀬能先輩「ゆ、ゆげくん!! ぱくって! ぱくってした!?」
釣井先輩「(何してんだあの無自覚バカップル)」(心の声)
sou様「お、お、オロッ…………オロロロロロロロロッ」(これがマーライオンになるということか……)