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22 『村田本部長はふたりと飲みたいだけ』

「――こちらで結構ですので。本日はご多忙の折、お時間をいただきましてありがとうございました」

「うちと瀬能ちゃんの仲やけん、気にせんどってよかよ? それで今日は何時フリーなん? せっかくこっち来てくれたんやけ、一緒に飲みいかんね?」


 1時間半ほどかかった打ち合わせを終えたところで、村田本部長がそう切り出した。


 村田本部長が所属するユビノ・ホールディングスは保育園や幼稚園の運営はもちろんのこと、保育所や各施設等への保育士派遣を行う企業で、待機児童問題が叫ばれる昨今、積極的な展開を行い業績は右肩上がりだ。

 今回の打ち合わせはそんなユビノ・ホールディングスの事業所内保育を、我が社でも導入するために行った最終調整のようなものだった。

 狙いとしては多様性の尊重(ダイバーシティ)や働き方改革の一環として、小さなお子さんがいる社員にも安心して仕事をしてもらえるようにと瀬能先輩が企画立案し、プロジェクトリーダーとなって動いている案件なのだ。

 社としても世間の目が企業の社会的責任(CSR)に対して非常に厳しくなりつつあるご時世なので、このプロジェクトはかなり強く推し進められている。

 本来であれば一社員ではなく、課長・部長のマネジメントポストが統括してこなす案件のレベルなのだが、それを平然と進めている瀬能先輩は、さすが、の一言に尽きる。


 ……今になって瀬能先輩の案件を引き継ぐ責任の重さをひしひしと感じている。

 ここで頑張らねば一生瀬能先輩に追い付くことができないので、食らいついていくしかない。


「お誘いありがとうございます。ですが生憎とこの後の予定が詰まっておりますので、誠に申し訳ありませんが辞退させていただきます」


 実はこの後もう1社別の訪問予定があるので、スケジュールが未確定な以上、瀬能先輩の言う通り断るしかない。


 ここで俺が判断できることは何もないので静かにやりとりを見守っていたら、村田本部長が獲物を見るような鋭い視線をこちらに向けてきた。

 俺は無意識に目を合わせてしまい、妖艶な仕草で舌なめずりをする村田本部長を見た瞬間、思わず身震いをしてしまった。

 快活そうな村田本部長がやると意外と似合っている仕草ではあったのだが、言い知れぬ怖さが確かにあった。


 あれは完全に肉食獣の眼光だ。

 俺の中の第六感的な何かが危険だと告げている。

 ……実際何が危険なのかはよく分からないのだが、本能が訴えかけてきているので多分マズいのだろう。


「ふ~ん、そうなん? ……やったら弓削くんば、借りとくけん瀬能ちゃんは別に行って――」

「――村田様。そういうことでしたら……私もご一緒させていただけますでしょうか?」


 瀬能先輩が真顔という名の仮面を被ったまま、今度は一転して村田本部長の誘いに乗ると言い始めた。


 ……だがよく考えてみると村田本部長の言っている通り俺は村田本部長と飲んで、瀬能先輩には次の訪問先の方と一緒に飲んでもらえれば丸く収まるような気もする。

 それでもあえて舵を切って誘いに乗るということは、きっと何かのメリットが俺と瀬能先輩にあるはずだ。


 ……どうやら俺には到底理解できない、切れ者同士の高度な駆け引きが行われているらしい。

 心なしかふたりの背後に龍と虎が睨み合っているような構図が見える。そんな龍虎が何故か俺に向かってプレッシャーを掛けてきているような気もするが、きっと気のせいだろう……。俺なんもしてませんよ!?


「……なんね? そげん無理せんでよかとよ? うちは弓削くんとさえ一緒に飲み行ければよかけん。……こげん素直な子はうちが美味しく……ふふっ♪」


 目の笑っていない薄い笑みを口元だけに浮かべて、村田本部長が俺の頬を撫でてきた。その刹那、鳥肌が全身に走り、危険です(デンジャー)というアラートテロップが脳内で流れる。

 相変わらず肉食獣の刺すような目つきだったが、それはもはや百獣の王と呼ばれるライオンに匹敵するレベルの鋭さになっていた。


 た、食べられる!

 このままじゃ骨の髄までしゃぶられて、跡形もなく食べつくされる未来しか見えない!!


「……冗談はその辺りにしていただけますか? 弓削も困っておりますので」

「ほんに……弓削くんはうちと飲むんは――好かん?」


 今度は打って変わって上目遣いで俺のことを見てくる村田本部長。

 先程までの身に迫る恐怖が幻であったかのような弱々しいその瞳に、つい「俺なんかで良ければ、ご一緒させてください」と口にしそうになったが、それよりも早く瀬能先輩が動いた。


 頬を撫でていた村田本部長の手をどかして、両手で俺の頬を挟んで瀬能先輩の方へ向かせると……、


「弓削は私と飲みたいと言っているようなので、私も同席いたします。……よろしいですね?」


 目を細めて村田本部長のことを見つめながらきっぱりと言い切った。


 どうも瀬能先輩が村田本部長のことを威嚇しているような感じだ。

 見つめるというよりか睨んでいるに近い目つきなので、気のせいではないと思う。

 ……そして俺はこんな状況で何をすればいいのだろうか。誰か助けてくれ。


「……ふふっ♪ もちろん瀬能ちゃん大歓迎やけん、フリーになったらうちに電話くれんね? もし掛けてこんかったら弓削くんの番号は名刺にのっとったけ、ほんにふたりで飲みに行くとよ?」

「かしこまりました。それでは18時には必ず架電いたしますので、後程よろしくお願いします」

「よかよ! もし1分でも遅れとーもんなら弓削くんにばり電話するけん、よかね?」

「……は、はい」


 俺達はやけにニコニコとした村田本部長に見送られ、無事に? 1社目の訪問を終えた。


「弓削くん、もし知らない番号から電話があっても決して出てはダメよ?」

「は、はい」

「先方との打ち合わせ開始まで時間はあるから、どこかで休憩してから行きましょう? ……少し疲れたわ」


 そう言って瀬能先輩が歩きながら少し息を切らしていた。

 どうやら本当に疲れているようだ。どことなく顔色も悪く見える。


 すぐにスマホを取り出して周辺検索を行ったら、休憩するには最適な場所がヒットしたので先を歩く瀬能先輩に告げる。


「近くに自家製パンが有名なカフェがあるようなので、そこに行ってみます?」

「えぇ。道案内お願いできる?」

「任せてください」


 こうして現在地から程近いカフェへと俺達は足を向けたのだった。

~博多弁解説コーナー~

>ほんに……弓削くんはうちと飲むんは――好かん?

 ⇒本当に……弓削くんは私と飲むのは――いやだ?


~レビューのお礼~

ごんぞ様、17件目の面白レビューありがとうございます!\(^o^)/

こんな全力でお笑いに振ってくるレビュー……大好き(笑)

>本作品は、錬金術師であるシキハーラとヨシノンスが、禁忌とされている錬金術『砂糖創成』を行使して産み出した、世の中をすべて砂糖に変えてしまいかねない、危険極まりないものである。

 ⇒1行目にしてツッコミどころしかない!(笑)

  これからはシキハーラ及び、ヨシノンスと名乗らせてもらいましょう!(笑)

>巧妙に、クール美女カッコいい!であるように偽装され

 ⇒偽装だなんてそんなことありません!

  瀬能先輩はちゃんとクール美女カッコいい! ですよ!(表面上のみ)(笑)


~錬金術師せりはん爆誕~(効果:ごんぞ様は砂糖を吐く)

瀬能先輩「弓削くん、私最近気が付いてしまったのだけれど……」(深刻そうな表情をしながら)

弓削くん「ど、どうかしましたか?」(思わず息を呑みながら)

瀬能先輩「あることをすると……周りの人がお砂糖を吐き出す能力を身につけてしまったようなの」(真顔)

弓削くん「……え?」

瀬能先輩「今から実践するから……弓削くんはそこに立っていてもらえる?」

弓削くん「はい」

ごんぞ様「……はぁ、ハァ、ぉ、おれにもっと砂糖を……ううん?」(偶然通りかかってふたりを発見した)

錬金術師せりはん「……弓削くん……早口言葉のクイズだから……大好きって10回言ってくれる?」

ごんぞ様「んえぇぇっ!?」(既に口を押えながら)

弓削くん「く、クイズなんですよね?」

錬金術師せりはん「……えぇ」(ニコニコ上機嫌)


弓削くん「大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き――」

錬金術師せりはん「――うん。私も弓削くんのこと、だーいすきっ♡」(弓削くんに抱き着くせりはん)


ごんぞ様「……ば……バカップオロロロロロロロロッ!!」(口から砂糖ダバー)

釣井先輩「何やってんだあいオロロロロロロロロッ!?」(巻き込まれてシュガーリバース)

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