21 『村田本部長はかなりのやり手』
~お知らせ~
アース・スターノベル様のHPで既に公開済みですが、書籍版のイラストレーター様が決定いたしました!
イラストレーター様はなんと……
しぐれうい様です!! おぉぉぉーっ! ……しきはら失神するかもしれません。
今からカッコ可愛いぽんこつ天然クール美女な瀬能先輩が楽しみで楽しみでなりません!
しぐれうい様はそれはもう可愛いイラストはもちろんのこと、漫画や、今はやりのVtuberのキャラクターデザインなども手掛けるスゴイ方です!
活動報告にしぐれうい様のpixivへのリンクを貼っておりますので、よかったら見てくださると嬉しいです!
と、とにかく私はがんばるのみです! 皆様これからもよろしくお願いいたしますね!
今回訪問を予定している会社が入っているのは、呉服町の一角に建つ一際目立つ個性的な複合ビルだった。
なんでも世界的に有名なアメリカの建築家が設計したとのことで、イエローやオレンジの外壁にダークグリーンの窓枠が相まって、一見するとオフィスが入っているようには見えないオシャレな外観だ。
姿勢を正して正面玄関から中に入るとエントランスは2階までの吹き抜けになっており、中央は円形のホールのようになっていた。基本は落ち着いた暖色で纏められていたが、天井や円柱などがスカイブルーで統一されており、不思議な安心感がある。
そんな吹き抜けだから瀬能先輩のミディアムヒールのパンプスが奏でる足音が小気味好く響く。……ビルがオシャレなのもあるが、いよいよ雑誌の撮影に来たファッションモデルにしか見えない。
エレベーターホールに辿り着いて各階のインフォメーションを確認すると、目当ての会社は5階にオフィスがあるようだ。
ビル自体は地上10階地下1階の構造らしい。
外観からオフィスが入っているようには見えないオシャレなビルだとは思っていたが、地下には24時間営業のスーパーマーケットとドラッグストアが、1階にはカフェや複数の居酒屋、少しお高めな焼肉屋なども入っていた。2階には様々なクリニックも入っていたのでもはやここで生活できそうな程だ。
……1階に居酒屋とか毎日飲み会が出来そうだ。
「先輩。5階ですよね?」
「えぇ。まずは私が挨拶を行うから、弓削くんはそれを見て手順などを覚えておいてね? それと弓削くんは名刺交換があるので名刺入れは上着の内ポケットに入れておくこと。もし分からないことや不安なことがあったら、遠慮なく聞いて頂戴」
「承知しました」
エレベーターに乗り込むと瀬能先輩の纏う空気がまた少し変わった。
平時の冷静沈着なものに、対外的でよりフォーマルな堅い雰囲気が足された。
ただでさえカッコイイと思っていた瀬能先輩が更に進化したようだ。言うなればカッコイイの究極進化形態である。
そんな状態の瀬能先輩が異性だけではなく同性すら惚れ惚れするような所作で、なんとなしに長い黒髪を手で払った。
シャンプーなのかコンディショナーなのか、はたまたトリートメントなのかは分からないが、何度か嗅いだことのある花のような甘い香りが密室空間に広がった。わざわざ鼻を鳴らして嗅いだ訳ではないが、その香りを感じていると強張った心身がリラックスしていくのが自分でも分かる。
瀬能先輩が近くにいてくれると俺は安心できるような体質になったらしい。……こんなんで大丈夫か俺?
「行くわね」
「はい」
エレベーターが5階に到着すると扉の方を向いたまま瀬能先輩が短く告げた。
声音はいつも通り透き通るような聞き取りやすいものだったが、時折見せる無邪気な可愛さは微塵もない。あるのは冷静沈着美女に相応しい、どこまでも落ち着いた穏やかな声でありながら芯の強さが感じられる凛然たるものだった。
やがて扉が開き、瀬能先輩が一歩踏み出す。
川のように流れる艶めいた黒髪がさらさらと揺れ動き、俺もそれを追うように歩みを進める。
初めての他社訪問だったが瀬能先輩という遥か先を歩む大きな存在があったため、緊張よりも俺の無作法で先輩の顔に泥を塗る真似はできないという意識の方が強かった。
「いつもお世話になっております。リーンスティアの瀬能と申します。本日13時より村田本部長とお約束をさせていただいておりますが、おいでになられますでしょうか?」
軽く会釈をしてから受付担当者に淀みなく伝える瀬能先輩。
俺も即座に頭を下げる。
「それではこちらの面会票にご記入をよろしくお願いいたします」
「――記入いたしました」
「ではただいま村田へ取次いたしますので、少々お待ちくださいませ」
「よろしくお願いいたします」
受付でのやりとりを終えて待機すること数分、村田本部長と思われる人物がロビーにやってきた。
「村田様、ご無沙汰――」
「――瀬能ちゃ~ん! 久しぶりやね! 元気しとーと?」
村田本部長は瀬能先輩を更に明るくしたような、違うタイプのキャリアウーマンだった。
歳は瀬能先輩より一回りは上と言った感じで、クールグレージュの髪に前下がりのショートボブが似合う美人だ。
ニコニコと柔らかそうな笑みを浮かべているので親しみが湧く。
「ご無沙汰しております。本日はお忙しいところお時間を頂いてありがとうございます」
「相変わらず瀬能ちゃんは硬いっちゃんね~。そげんかしこまらんでよかよ? ……う~ん!? あの瀬能ちゃんが男ば連れとる!!」
「部下の弓削です。私の職務を彼に引き継いたしますので、本日はその顔合わせも兼ねさせていただいております」
そこでようやく村田本部長が俺に気が付いてくれたようなので、瀬能先輩の紹介を受けてから、すかさず名刺を出して話し掛ける。
「村田様初めまして。リーンスティアの弓削明弘と申します。本日はよろしくお願いいたします」
「念の入っとる挨拶ありがとーね。ユビノ・ホールディングスの村田です。……かわいか子やね~。弓削くんはいくつなん?」
「え……っと、23になります」
「かぁ~! 若か~! どげんしよー? 応接室やなくて1階の水炊き屋さんくる?」
名刺交換を終えると村田本部長がグイグイと俺を引っ張って、エレベーターホールに連れて行こうとする。
ただそれはあくまで場を和ませようとしてやっていることが分かったので、なすすべなく俺が立ちすくんでいたら瀬能先輩がわざわざ狭い間に割って入り、一言。
「村田様。弓削は新入社員ですので、あまりからかわないでいただけますとありがたいです」
「え、えずか~。瀬能ちゃんがえずいっちゃ――」
博多弁は全然分からないが言葉の雰囲気で、えずい、というのが怖いを指しているのはそれとなく理解できた。
村田本部長はそこで一度言葉を切ると、咳払いをして身に纏う空気をガラリと一変させた。
先程までニコニコと明るい人だと思っていたが、笑顔が消えて真顔になり、ようやく本部長という役職に就く人間だと理解できた。
瀬能先輩も切り替えが上手いが、村田本部長もまたONとOFFを巧みに使い分けているようだ。キャリアウーマンってもしかしたら皆こんな感じなのだろうか?
「――なんて冗談はやめて、応接室に行きましょうか。ごめんなさいね弓削くん。つい可愛いから意地悪しちゃったの……ゆるしちゃらんね?」
そう言って村田本部長が顔の前で手を合わせて、首を傾げてきた。
その動作がやっぱり瀬能先輩のようにギャップがあって、不覚にも可愛いと思ってしまった。……年上で相手先の会社のお偉いさんだというのに失礼過ぎるだろ俺。
「いえ、こちらこそお気遣いいただきましてありがとうございます」
応接室に入っても村田本部長は雑談を止めなかった。
ここまでくると場を和ませるというより、単純におしゃべりが好きなのかもしれない。
「……あら? 若いのに真面目で空気の読める良い子ね。どう? 瀬能ちゃんが怖いのならば、私と一緒に働いてみない? 若くて優秀な子はいつでもウェルカムだから」
「いや……あの――」
「――村田様、失礼ですが私の目の前で部下を勧誘しないで頂けますか? 弓削は私が責任を持って育てますので」
「あら残念。経営側としては瀬能ちゃんごとうちに引っ張りたいくらいなんだけど……弓削くん愛されてるわね。もしかしてふたりは――付き合っとーと?」
「――村田様、そろそろ本題に移らせていただいてもよろしいでしょうか」
「……瀬能ちゃん、えずか~」
こうしてようやく話し合いがスタートしたのだった。……こんな色々と凄い人相手に俺が今後まともにやりとりを行えるか不安に思ったのは、言うまでも無いだろう。
~博多弁解説コーナー~
>弓削くん……すいとーよ?(前話の瀬能先輩の言葉)
⇒弓削くん……好きだよ?
>念の入っとる挨拶ありがとーね。(村田本部長)
⇒丁寧な挨拶ありがとうね。
>応接室やなくて1階の水炊き屋さんくる?(村田本部長)
⇒応接室ではなくて1階の水炊き屋さん行く?
>え、えずか~。瀬能ちゃんがえずいっちゃ(村田本部長)
⇒こ、怖いわ~。瀬能ちゃんが怖いんだけど
瀬能先輩としては
5割 真面目にがんばる!
3割 ゆ、弓削くんとらないで!
2割 弓削くんにカッコイイとこ見せなきゃ!
と言った感じです。(実質的に仕事と弓削くんで半々くらい……)
◆それとポイントを入れて評価してくださった方が450名を突破しておりました!◆
皆様、いつもお読みいただきましてありがとうございます!
とても嬉しいです! これからも頑張りますので、よろしくお願いいたしますね!