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19 『怒ってる(2パーセント)』

 ただの風邪なはずなのにインフルの時より体調悪いです……なんで?

「――くん、弓削くん……」


 遠くの方で瀬能先輩が俺を呼んでいた。

 俺の名前を何度か呼んでは「ほっぺ……やわらか……」などと呟いている。


 ……なんだ? 夢か?


「……んぁ?」


 なんとか声を出したら瀬能先輩がクスクスと笑っている声が聞こえてきた。

 そこで眠りの底に沈んでいた意識が急浮上した。


 ……今は確か瀬能先輩と出張中だ。


「――弓削くん、福岡に着いたわ。そろそろ起きて?」

「……はい。すみません完全に眠ってました」


 その言葉はいつも通りの平静なもので、あれだけ飛行機を怖がっていたのが嘘のようだ。


 ゆっくりと目を開け、まず視界に入ってきたのはブランケットだった。

 これは瀬能先輩に掛けておいたやつだ。

 どうやら先に目覚めて俺に掛けてくれたらしい。


 普段より早起きだったので自分で思っていた以上に、ぐっすりと眠ってしまったらしい。

 微睡の余韻にぼんやりと浸っていたら肩をぽんぽんと叩かれたので、瀬能先輩の方に顔を向けたら――、


「――何してるんですか……先輩」


 瀬能先輩の人差し指が俺の頬に押し当てられていた。

 学生時代によくやった、肩ぽんぽんからの頬っぺたぐりぐりだった。……何故にそれを今やるんだ?


「……おはよう」未だに頬っぺたぐりぐりを継続中の瀬能先輩

「え?」

「おはよう?」首を傾げながらやっぱり頬っぺたぐりぐりを続ける瀬能先輩


 ど、どういうことだ?

 瀬能先輩が執拗に頬っぺたをぐりぐりと押してくるんだが?

 ……心なしか指圧も徐々に強くなってきている気がする。


「お、おはようございます」

「えぇ。おはよう、弓削くん」


 何に満足したのか分からないが不意に指を離すと、鷹揚に頷いてから瀬能先輩が言った。


「もう着陸しているから降りる準備をしましょう?」

「承知しました」


 やけに落ち着いていると思ったら、既に着陸していたようだ。


 すると俺の思考を読んだのか、凛々しい表情を湛えて「着陸してしまえばもうこっちのものよ」と、瀬能先輩が指を絡めながら虚勢を張っていた。

 本当に「こっちのものよ」と言うのならば手を離すはずなので、本心は絶対に怖がっている気がする。

 指摘するのもあれなので黙って手を繋いだままにしておいた。


 やがて飛行機が停止したので、荷物(オーバーヘッド)(・ビン)からバッグを取り出そうと手を離して立ち上がったら、瀬能先輩が不満気な顔をして俺を見上げてきた。……やっぱり怖いんじゃないですか。


「着きましたね福岡空港」

「えぇ……弓削くん福岡来るの初めて?」

「初めてですよ」

「そう。ならば私が案内してあげるわ」

「でも先輩……」

「……何かしら? 途中で言いかけてやめるのは気になるからやめて頂戴」

「い、いえ、別に何でもありませんよ?」

「もう……何でもないのだったら言ってもらえますか? ……でないと、怒りますよ?」

「先輩、怒りますよ……じゃなくて、もう怒ってますよね?」

「全・然……怒っていませんよ? 本当に、これっぽっちも怒っていませんから」


 飛行機から降りて搭乗橋(ボーディングブリッジ)を通り、ターンテーブルの前で手荷物を待っていたら、瀬能先輩がぷんすこと怒りだしてしまった。

 といっても本気で怒っている訳ではないので、暇つぶしの延長線のようなものだが。


 瀬能先輩が福岡を案内してくれるようなことを言っているが、俺は先日ランチをした際にとあることに気が付いてしまったのだ。


 ……瀬能先輩は恐らく――方向音痴であると。


 GPSの測位エラーがあったものの、瀬能先輩は地図アプリ片手にあっちでうろうろ、こっちでぐるぐる、と道に迷っていたのだ。

 これは方向音痴でない限り考えられない。


「本当に怒ってませんか?」

「……嘘。3パーセントくらい怒ってます」


 顔の横で人差し指と親指の間を少しだけ空けて「このくらいちょっぴり」と言葉を付け加える瀬能先輩。

 表情は至って真面目だというのに、ふとした拍子に出る素の仕草が可愛くて、可愛くてしょうがない。


 それと残りの97パーセントは何が占めているのか無性に気になったのは言うまでも無いだろう。


「先輩が嘘ついたので言うのはやめておきます」

「……んっ! 弓削くんが……反抗期になってしまったのだけれど!?」

「なんですか反抗期って……」

「――ここは先輩らしく振る舞ってカッコイイところを見せないと……」


 いや、それを口にしてる時点でどうなんですかね?

 瀬能先輩のぽんこつが()()()()()爆発している件について。


 驚いたかと思いきや今度はこめかみに手を当てて、何やら考え込み始めた瀬能先輩の分まで手荷物を回収する。

 改めて離れた場所から瀬能先輩を眺めてみると、思案している姿も相まってどこかのモデルさんがポーズをしているようにしか見えなかった。


「先輩のキャリーケースも取ってきましたよ」

「……いつの間に? 反抗期はもう終わったの?」

「もとから反抗期じゃないです」

「そうなの? ……弓削くん、取ってきてくれてありがとうね」

「はい」

「――それと反抗期が終わったのならば、今し方言いかけた言葉の続きを言ってもらえますか? 先に言っておくけれど、2パーセントくらい怒っているんですからね?」

「怒っている先輩が怖いので言うのやめておきます」


 何故か怒りゲージが1パーセント減少している。なんでだ?


 それから俺達は「怒ってる」だの「怒ってません」だのと適当にキャッチボールをした後、ふたりで何でこんな会話をしていたんだっけ? と首を傾げてしまい、顔を見合わせて笑ってしまった。


 その後スケジュールの都合で少し早めのランチをとってから、空港を後にした。

~レビューのお礼~

カフカ様!

15件目のレビューありがとうございます!

>初レビューです!

 ⇒な、なななんと!! 初レビューをくださりましてありがとうございます!

>序盤はクール美女系先輩こと瀬能先輩の凛とした姿に心を魅了されました。それはもう格好いいの一言としか言いようがないほどでした。

 ⇒すみません! もはやぽんこつ天然系美女に瀬能先輩がなってしまっているので、ぼちぼちカッコイイところも織り交ぜようと思ってます!

  出張中はキリっとするほうです(笑)

  後は課長になってからの方が更に凛々しくなる感じです!


~カフカ先輩たかられるSS~(先にごめんなさいしておきます!)


瀬能先輩「弓削くん、次の会議のア――」


弓削くん「――アジェンダは作ってあります。参加者への事前送付も完了済みです」


瀬能先輩「……ありがとう。それならば進行は――」


弓削くん「――カフカ先輩にやっていただくよう、既にお話は通してあります」


カフカ先輩「……えっ!? あれ冗談じゃなかったの!?」慌てて会議資料に目を通す


瀬能先輩「……そう。だったら今晩一緒に――」


弓削くん「――すみません。今日はカフカ先輩と釣井先輩と飲みに行く約束をしているので……」


カフカ先輩「……えぇぇッ!? なんでこのタイミングで言うの!? 空気読んでよ弓削くん!!」


瀬能先輩「……私……誘われてない……」(´・ω・`)いじけてショボーン状態


カフカ先輩「あぁ~もうっ! 皆で一緒に飲みにいこっか?」


瀬能先輩「……私も……その……行ってもいいの?」


カフカ先輩「いいよいいよ! 私が奢ってあげる!」お財布の中身を急いで確認しながら


釣井先輩「お~い皆! カフカがおごりで全員飲みに連れて行ってくれるってよ~!」


カフカ先輩「えぇぇぇぇッ!?」


見守り隊+その他もろもろ「ゴチになります!!」


カフカ先輩「どうしてこうなった……!」


その晩カフカ様のお財布はぺったんこになったらしい……

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