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12 『返り討ちにあう弓削くん』

ちなみに私のスマホでも矢印グルグルが2回ほどなったことがあります。

同僚もなってるのを見たことがあるので……これって結構起きるんですかね?

「ちょっと待って?」

「はい」


 会社の外に出るなりすぐにその場に立ち止まって、スマホを取り出した瀬能先輩。

 何やらいそいそとタップしているように見える。


「何してるんですか?」

「ランチのお店の場所を調べているの」


 そういえば外で食べることは決めたけど、どこで食べるかは決めてなかったな。

 瀬能先輩は画面を見つめながら今度はその場でくるくると回り出した。

 どうやらマップアプリのナビ機能を使ってお目当ての店舗の方角に向こうとしているらしい。


 ……くるくる。


 ……くるくるくる。


 ……くるくるくるくる。


 ……数秒で終わると考えて大人しく待っていたら、ハーフアップに纏めた長い黒髪をふわふわと揺らして、瀬能先輩が延々と回り続けていた。

 傍から見るとひとりでグルグルバットをやっているように見える。……瀬能先輩何してるんだ?


 放っておいたらいつまでもコマのように回転していそうな気がしたので、細くて華奢な腕を優しく掴んでから尋ねた。


「先輩、そんなに回ってたら危ないですよ?」

「……弓削くん……目……回った……」


 言わんこっちゃない。

 あれだけくるくる回っていたら目が回るのは当たり前だ。


 目を瞑って気持ちふらふらしている瀬能先輩の腕を掴んだまま、スマホの画面を見させてもらう。

 方角なんて少し回れば大体合うはずなので、何をそんなに苦戦していたのだろうか?


 ……なんて不思議がっていたら、ありえない現象が起きていた。


「先輩……これ完全におかしいですよ?」


 現在地を示すアイコンの周りに今自分がどの方向を向いているか示す矢印があるのだが、俺達が動いていないにもかかわらず、それがグルグルと回り続けていたのだ。

 こんな現象は初めて見た……さすが瀬能先輩。ある意味引きの良さが神がかっている。


「……回ってる……なんで?」

「もしかしたらGPSの測位がうまくいっていないのかもしれません。GPSとアプリを一度再起動してみてもらえますか?」

「えぇ」


 タスクを終了させて再起動をかけたら無事に正常動作になったので、瀬能先輩とふたりでホッと胸をなでおろした。


「弓削くんすごい! なんで直ったの?」

「別に俺は何もしてませんよ? たまたま調子が悪かっただけだと思います」

「そうなの? ……気を取り直して。ランチ行きましょう?」

「はい」


 それからスマホ片手に歩き出した瀬能先輩について行ったのだが、画面を見ながらだからか、あっちへふらふら、こっちへふらふらと、危なっかしい足取りだった。

 なのでさりげなく道路側に回って瀬能先輩が飛び出さないようにガードする。


「……ん? あっち? ……やっぱこっち!」


 ナビゲーションされているはずなのに、横道に入っては戻って、また別の道に歩みを進めてはきた場所に戻る。そんなことを何度か繰り返してようやくお目当ての店舗の近くに来た時に――それは起きた。


「……ここ……渡る――」

「――先輩! 何やってるんですか!」


 マップを見ることに集中するあまり、車が行き交う赤信号の横断歩道を気付かずに渡ろうとしたのだ。

 俺は瀬能先輩がふらふらと歩いていた時から何となく予測していたので、即座にその腕を掴んで思い切り抱き寄せた。


 ……幸いにも車がいないタイミングだったので良かったが、かなり危なかった。

 あのままふらふらと歩いていたら……もしかしたら事故に遭っていたかもしれない。


「……ゆ、弓削くん?」


 未だに状況が理解できていないのか、瀬能先輩は俺の腕の中で身動きひとつせずに声を漏らした。

 声音から感じるのは驚き。

 きっと突然抱きしめられてビックリしているのだろうが、今は瀬能先輩を離すつもりはない。

 年下が言うのは生意気かもしれないが、きっちりと注意しておくべきだろう。

 ここで何も言わずに流して、もし今後瀬能先輩が事故にでもあったら……俺は間違いなく一生後悔する。

 だから生意気だと思われようが、大事な瀬能先輩を守れるのならばそれでいいと思えた。


「赤信号ですよ! 車に轢かれたらどうするんですか!?」

「…………ご、ごめんなさい」

「ケガならまだしも、最悪……命を落とすことだってあるんですからね?」

「…………うん」 

「……ちゃんと反省しましたか?」

「……反省した……弓削くん……ごめんなさい」


 腕の中で小刻みに震えている瀬能先輩は、落ち込んだように俺の肩に顔を押し付けている。

 若干言い過ぎた気もするが、これで今後気を付けてくれるのならばいい。


 両手を開いて瀬能先輩を解放したら、その場から動くことなく俯いたまま見るからにしょんぼりとしていた。

 効果音をつけるのならば「しょぼーん」といった具合だ。


 ……これからふたりきりでランチだというのにこの空気はマズイ。

 せっかく楽しみでしょうがない出張のスケジュールを話し合うというのに、これでは気まずくて飯も進まなくなりそうだ……。

 ど、どうにかしなければ。


「先輩、何してるんですか? 早く行きますよ?」

「……うん」

「ナビは先輩にお任せしますけど――」


 そこで余裕がなくなった俺はとっさに瀬能先輩の手を握ってしまった。

 突然のことだったので瀬能先輩が顔を上げ、驚いたように目を丸くして俺のことを見つめてきた。

 そんな目をされても俺自身凄く驚き、焦っているのだ。


 だがここでそれを悟られてしまってはダサ過ぎる気がしたので、内頬を強く噛んで痛みで動揺を掻き消し、なんてことないようごく自然に瀬能先輩に告げることができた。


「――危なっかしいので、俺と手を繋いでもらいます」


 もしかしたら瀬能先輩は内心で嫌がっているかもしれないが、お仕置きの一環ということで納得してもらうしかない。


 柔らかくて滑らかな瀬能先輩の細く長い指が俺の手をギュッと握り返してきた。……今朝とはまた違う緊張感が俺を包んだ。


「えぇ。……ありがとう、弓削くん。私のことを考えて怒ってくれたのでしょう?」

「……まぁ、はい。そうです」


 面と向かって、しかも手を繋がれたままそんなことを言われると、発狂しそうなほど恥ずかしくなってしまった。


 まるで俺が常に瀬能先輩のことばかり考えていると思われていないだろうか? ……いや、ほとんど合ってるんだけどな。


「……弓削くんが私のことを考えてくれて……嬉しい。……だから、助けてくれて、怒ってくれて、フォローしてくれて、ありがとう」

「は、はい!」


 逆に俺が嬉し過ぎな件について……なんて言っている場合ではない。

 瀬能先輩が穏やかな笑みを浮かべて、突如俺にぴったりと寄り添って――腕を組んできたのだ。瀬能先輩の方から接近してきた言わば不意打ちだったので、手繋ぎなんかよりも圧倒的に緊張してしまった。

 

「……お店、もうすぐそこなの。だけどお店に入るまでは――このままでいてくれる? 私のこと――エスコートしてくれる?」

「もちろん。喜んでエスコートいたします」


 言うまでも無く俺は手と足が一緒に出るくらいガチガチになりながら、瀬能先輩をエスコートしたのだった。

~レビューのお礼~

ぷにぷに餅様! 名前がかわいい!

……じゃなくて、8件目のレビューありがとうございます!

>私の血糖値は53万です

 ⇒どこのフリー〇様かな?(笑)

  血糖値53万とか……恵比寿課長もビックリ……いや、ドン引きの数値ですね(笑)

読み専6年……長い! もはやなろうベテラン勢ですね!


「ホーホッホッホ、私の血糖値は53万です」高笑いするぷにぷに餅様

「……ふーふっふっふ、ほへひほふひふぁほはふは、ほへふへーふへふ!」もぐもぐ語で対抗する瀬能先輩

「ふむふむ……私の好きなおかずは、鮭フレークです! ……ですか」もぐもぐ語を完璧に理解しているぷにぷに餅様

「…………っ!? せ、先生! もぐもぐ語の先生っ!」キラキラした目の瀬能先輩

「フフフ……よ、よく分かりましたね!?」(……今更あてずっぽうだったなんて言えないとひとり悩むぷにぷに餅様だった……)


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