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10 『お前らさっさと付き合っちまえよ!?』

 なんとかインフルから復活しました! 皆様あたたかいお言葉をくださりありがとうございました!

 各話にタイトルを付けてほしいとご感想頂きましたので、随時つけていきたいと思います!

「――今日は僕から伝えておきたい事項が3点あるんだ」


 始業時の課内ブリーフィングで癒し系の恵比寿課長にしては珍しい、眉を寄せ唇を一文字に結んだ厳粛な表情で課員のことを見た。

 いつになく緊張感のあるブリーフィングだ。

 普段だと頭をかいたり鼻をほじったりしている釣井先輩も、さすがに直立不動で話を聞いている。……なんだか珍しい場面を見てしまった。

 ちなみに瀬能先輩はいつも通り凛とした表情で姿勢良く立っている。

 仕事中の瀬能先輩は本当にカッコイイ。

 ただ立っているだけなのに、モデルさんがポージングをしているようにしか見えない。


「まず1点目は……今週の木金で瀬能くんと弓削くんが九州に出張。これは瀬能くんの業務を弓削くんに引き継いでもらう準備の一環だから、皆もサポートしてあげてね」

「……このふたり一緒に行かせて大丈夫なのか? 相手先に被害出すなよ?」


 釣井先輩が意味不明なことを言っている気がするが……これは瀬能先輩から事前に聞いていた話だ。

 木曜日から瀬能先輩と出張。

 不安も大いにあるが楽しみ過ぎる。

 ただやはり、瀬能先輩の業務を引き継ぐ準備としてなのか。


 ……いよいよ瀬能先輩が俺の教育係から外れるって訳か。

 瀬能先輩と一緒に過ごした期間はあっという間だったなぁ。

 仕事を教わったのはもちろんのこと、なんか色々な瀬能先輩を見ることができた気がする。


「2点目は今の関連でもあるんだけど、瀬能くんが弓削くんの教育係から外れて――7月1日付で総務課のユニット()リーダー()に昇進となりました。瀬能くんおめでとう!」

「おぉっ! やっとか瀬能! ……じゃなくて瀬能課長だな!」

「芹葉ちゃんおめでとー! この調子で次は部長だねー!」

「瀬能の働きぶりを鑑みれば遅すぎる気もするけど、一先ず順当な人事ですね。おめでとう瀬能」


 皆が拍手をしながら瀬能先輩に「おめでとう」と声を掛けている。

 俺は事態が呑み込めず、ひとりボーっと瀬能先輩のことを眺めてしまった。


 瀬能先輩が課長?

 しかも総務課の課長?

 ……だとすると俺の上司はやっぱり瀬能先輩ってことなのか?


「……先輩は……俺の先輩ですよね?」(瀬能先輩は俺の上司ってことですよね?)


 我ながら何を言ってるんだと思ったが、混乱している今の俺には冷静に物事を考える余裕がなくなっていた。

 皆に囲まれていたはずの瀬能先輩が俺の呟きに気が付いたらしく、輪から抜け出してこちらに向かって歩いてきた。

 口元に微かな笑みを浮かべて目の前までやってきた瀬能先輩が一言。


「安心なさい。これまでも、これからも、私は弓削くんの先輩だから。……改めてこれから先もよろしくね? 後輩くん」


 そう言った瀬能先輩はごく自然な動作で俺の頭を優しく撫でてきた。

 一体何を思って瀬能先輩が俺の頭を撫でてきたのかは分からなかったが、それをされただけで心の底から安堵してしまった。


 瀬能先輩が教育係から外れるという不安。

 遥か先を行く瀬能先輩に追い付けないのではないかという焦燥感。


 これらが瀬能先輩の言葉と行動で全て消え去った。


「……はい! こちらこそ改めましてよろしくお願いいたします! 1日でも早く先輩に追い付けるよう頑張ります!」


 焦燥感なんて今更だ。

 俺は瀬能先輩に追い付いて横に立つまで、ただひたすらに突き進んでいくしかないのだ。


「私は待ってあげないから……早く隣にきてね?」


 散々言っているが瀬能先輩は俺の目標であり憧れだ。

 そんな人からこんな言葉を掛けられたら、頑張るしかないのだ。

 何が何でも隣に行く以外の選択肢は俺に残されていない。


「承知いたしました! すぐに行きます!」

「うん。待ってあげないけど……待ってるね?」


 そこで頭を撫でていた瀬能先輩がふと手を離し。

 冗談交じりに微笑を湛えてから俺に向かって手を差し出してきた。


 ――俺はその手を即座にとった。反射的にではなく、確固たる決意をもって。

 とってみて分かったが、瀬能先輩の手は冷たくて少し震えていた。

 その手をそっと包み込むように握って「絶対に隣に立ちます!」という俺なりの意思表示を瀬能先輩の目を見ながら口に。


 まずは瀬能先輩に釣り合う男になろう。

 それが実行できたのならば……その時はこの想いを瀬能先輩にちゃんと伝えよう。






「――なぁ? お前らなんで朝っぱらから互いに……求婚(プロポーズ)しあってんだ? こっちの身のことも考えてくれよ? 胸焼けが……」


 釣井先輩が胸をさすりながら言った。


 ――それで俺と瀬能先輩は周りが見えていなかったことに気が付いた。


 や、ヤバイ!?

 先輩達の前で何やってんだ俺!?

 結構なことを口走ってた気がする……。


 どうやら瀬能先輩も同じ思いだったらしく、どちらともなく繋いでいた手を離し、わざとらしく距離をとって狼狽えた。

 顔が焼けるように熱い。きっと羞恥で真っ赤になっているはずだ。

 瀬能先輩も表情こそ真顔から崩していないものの、乳白色の肌だからこそ深紅に染まっているのが一目で分かった。

 それを隠すように手の甲を口元に当てて、俯きながら涙目で俺のことを見上げてきた。……うん。恥ずかしがっている瀬能先輩とか最高かよ。


「ち、違いますよ!? 俺はただ意思表示をしただけです!」

「……だからそれを求婚(プロポーズ)だって言ってんだろうが」


 なんとか反撃を試みたら釣井先輩に一刀両断にされた。

 俺の無様な姿を見た瀬能先輩が今度は釣井先輩に言い返す。


「弓削くんに追い付いてほしいから……私なりの発破をかけただけです」


 ……あ。これも切り替えされて終わるパターンだ。


 平常時ならば完璧な返しをする瀬能先輩も、この時ばかりは動揺して俺と同じような返答をしてしまっていた。……涙目だけど強気で言い返してる瀬能先輩……ただただ可愛かった。


「おい! だからそれが求婚(プロポーズ)だって……あぁ。つい、邪魔して悪かったな。続き始めていいぞ?」

「「始めません!」」


 ふたりでハモったその返事を聞いた釣井先輩が腹を抱えて爆笑していた……こっちは真剣に言っているのに若干ムカつく。

 横を見れば瀬能先輩も下唇を噛みながら眼光鋭く釣井先輩を見ていたので、多分俺と同じことを感じているのだろう。


「芹葉ちゃんがプロポーズされてデレてるー! 弓削くんも満更でもない顔して照れてるー! ……爆発していいよー?」

「早朝から随分と情熱的なこった。……だけどな、お熱いことはいいんだが火傷するのは俺達なんだからな?」

「だから違いますって!」

「第一に私と弓削くんは……()()お付き合いしていな――」

「「「「「「「「「「まだ?」」」」」」」」」」

「……今」

「……まだって」

「……言ったよな?」

「それは言葉の綾で――」


 もう誰も瀬能先輩の言葉なんて聞いていなかった。

 俺も驚いて「えっ? まだ?」とひとりでぼやいてしまった。


「皆! 瀬能がまだって言ったぞ!」

「うそー!? まだ付き合ってなかったの?」

「よっしゃぁ! 賭けは俺と釣井の勝ちだな!」

「くそぉっ! お前らさっさと付き合っちまえよ!?」

「爆発しろ! 末永く爆発しろ! さっさと爆発しろ!」

「……あ、あの、皆? そろそろ3点目の連絡事項を言っても――」


 こうして総務課のブリーフィングは史上最高にやかましく過ぎていったのだった……。

~レビューのお礼~

みーにゃ様! 6件目のレビューありがとうございます!

『コミュ障』に引き続きこちらもお書きくださるなんて……感謝感激雨霰です!

>甘すぎて、笹食ってる場合じゃねぇ!(byコミュ障)

 ⇒おや? パンダが迷い込んだようですね……笹食べながら砂糖吐いてもらいましょう!


「ゆ、弓削くん! 頭……撫でて?」頭をグリグリと弓削くんに押し付ける瀬能先輩

「は、はい……」とりあえず言われた通り頭を撫でる弓削くん

「な、なんだあいつら? 相田と江里みたいなことしてるな……」陰から覗く半田くん

「ふひふひっ!」何か言っている瀬能先輩

「先輩、何言ってるんですか?」気が付かない弓削くん

「……笹食ってる場合じゃねぇ!」トイレへと駆け出した半田くん

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