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6 『ロケットのように飛び上がって椅子を倒す瀬能先輩』

 週明けの月曜日。

 俺は久しぶりに2番乗りの出社をした。

 早く来てしまうと瀬能先輩とふたりきりになってしまうので、ここのところはあえて出社時間を遅らせていたからだ。


「おはようございます先輩」

「……おはよう……弓削くん」


 隣のデスクにいた瀬能先輩は今日もいつも通り冷静沈着(クール)美女(ビューティー)だったが、心なしか元気がないような……。

 結局留守電にメッセージを残して以降瀬能先輩からは特に連絡が無かったので、今日は早く来て直接お礼を伝えようと思い、早朝出社を敢行したのだ。


「先輩、金曜日は色々とご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。わざわざ自分のことを心配してくださって泊まっていただいたのも、本当にありがとうございました」

「私から誘ったからそんなに気にしないで。後これ……弓削くんに借りてた……Yシャツ……」


 そう言って瀬能先輩がモニター画面を見つめたまま、袋に入った俺のYシャツを渡してきた。


 ……これってどう見ても新品だよな?


 袋が紳士服メーカーのものだったので、もしやと思い中身を確認したらやはり未開封のYシャツが入っていた。


「えっ!? これ新品じゃないですか!? 悪いですよ!!」

「だ、だめっ!! お家に帰って……よ、汚しちゃったから……絶対にこれ貰って!」


 もしかして俺のYシャツを着たまま帰って、コーヒーでも零してしまったのだろうか?

 どんな理由にせよ貰わないと瀬能先輩が引いてくれる気がしなかったので、頂いてから話の切り替えを図った。


「は、はい。ではありがたく頂戴いたします。……ところで先輩大丈夫ですか? もしかして体調不良ですか?」

「そ、そんなことない……」


 瀬能先輩は相変わらずモニター画面を見つめたまま、力なくそう零した。


 ……これは間違いなく無理をしている気がする。

 きっと熱でもあるのに責任感の強い瀬能先輩のことだから、会社に出てきてしまっているのではないか?


 そう考えてしまうと気になって気になって仕方がない。


「本当ですか?」

「……ほん……とう……」

「ならば俺の目を見て言ってください」


 こちらを向いてくれれば顔色である程度体調が判断できるはずなので、なんとか瀬能先輩に俺の方を見てもらうように仕向けてみるが……、


「……拒否するぅ……」


 断固として向いてくれない。

 これはいよいよ瀬能先輩が体調不良を隠そうとしている可能性が濃くなってきた。

 恐らく俺が顔色で体調を見抜こうと考えていることくらい、鋭い瀬能先輩には既にバレているだろう。


 ……そうなれば俺は瀬能先輩の予想超える一手を繰り出さないと、その体調不良を暴くことはできない。


 はたして俺なんかが瀬能先輩を超えられるのか?


 これは瀬能先輩を支えたいと勝手に思っている俺には、必ず突破しなくてはならない究極の試練だ。

 ここを超えられなければ今後俺は瀬能先輩の体調不良を、見抜けないということになるのだ。

 俺にとっては絶対に負けられない世紀の一戦のようなもの。


 ……いざ、尋常に勝負!


「……先輩、それなら――にらめっこ――しませんか?」


 ――我ながら震えてしまうほどの完璧な作戦だった。


 作戦内容はこうだ。

 1、にらめっこならばごく自然に向き合うことになる。

 2、そうすれば顔色なんて見放題になる。

 3、そこから瀬能先輩の体調不良を指摘して、今日は早退してもらう。

 ……パーフェクトだな。


「……なんでにらめっこなの?」

「そ、それは……どうしても俺の面白い変顔を先輩にも見てもらいたくてですね……」

「……面白い顔だめ。可愛い顔もカッコイイ顔もだめ……それと……普通の顔も……やっぱりだめっ!」


 想定外の返しだった。

 俺はなんて甘い考えをしていたのか。

 瀬能先輩がにらめっこを拒否した場合のことを全く考えていなかった。


 瀬能先輩はぽんこ……じゃなくて天然なので、わくわくするようなことを提案すれば乗ってきてくれるものだと考えていた。

 ……クソ! 俺にはまだ瀬能先輩を超えることなんて夢のまた夢なのか……?


 いや、そんなことを嘆いている暇はない!

 すぐに次の作戦に移るぞ!


「それならば――あっちむいて……ほい――なんてどうでしょうか?」

「……あっちむいて……ほいっ!」


 かかった! 瀬能先輩が興味を示したぞ!


 ピクッと一瞬だけ揺れた瀬能先輩は背筋を一直線に伸ばして「……ふ~ん……あっちむいて……ほいっ……あっちむいて……ほいっ♪ ね……」と呟きながら、僅かに顔を上下左右に向けたりしてウォーミングアップをしている。……くうぅぅ! 可愛過ぎてここで満足しそうだ。

 ……だが心を鬼にして追撃の誘い文句を放つ。

 あと一押しだ! それで瀬能先輩の体調不良を見破るのだ!


「先輩、ただ単にあっちむいて……ほいをやっても面白くないので、ひとつ賭けをしませんか?」

「……賭け? ……一体何を賭けるというの?」


 今の瀬能先輩を犬に例えるとすると、恐らく尻尾が千切れそうなほどブンブンと勢い良く振り回しているはずだ。……要するにかなり乗り気な感じだ。

 何故かと言うと「……ま、まさか……最高級北海道産鮭児の鮭フレークが景品なのっ!?」と、決まってもいない賭けの内容を想像し、それでならば乗ってきてくれそうな回答を自ら、ノリノリで暴露してくれたからだ。……なんだこの可愛い生物は!


「……よく分かりましたね! 景品は北海道産鮭児の最高級鮭フレークです!」

「…………っ!?」ごくりと喉を鳴らす瀬能先輩


 まだ押しが弱いか!?

 くっ……今更引くことなどできぬ!

 ここは押しの一手だ!


「しかも2個……」

「…………」ぷるぷるしている瀬能先輩

「かと思いきや3個……」

「…………」ぷるぷる+貧乏ゆすりをしている瀬能先輩

「に見せかけて4個……」

「……ん (んんっ)」更に小さく唸り出した瀬能先輩

「だったはずが! 今ならなんと……おまけにもう1個ついて……合計5個です! こんなチャンスはもう二度とありませんよ!? さぁ、伸るか反るか?」

「のったぁぁぁぁっ!!」ロケットのように飛び上がって椅子を倒す瀬能先輩


 ――こうして瀬能先輩の体調不良を見破るための真剣勝負が始まったのだった。


 ……あれ?

 これって……あっちむいてほいが始まった瞬間に俺の目的って達成されるよな?

 しかも全然知らないで景品ってことにしちゃったけど、北海道産鮭児の最高級鮭フレークって一体いくらするんだ!? 誰か教えてくれぇぇぇ……!!

しきはら新年会のため、代わりに更新しました。

もし操作間違えて変なことになっていたら教えていただけると嬉しいです!

よろしくおねがいしますね!

よしの

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cool
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