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5 『パンツ一丁のまま部屋の中をグルグルと歩き回る弓削くん』

前話は私としてはシリアスだったので、今回はギャグ回です。


 昼過ぎに目が覚めると二日酔いの症状もかなり緩和されていたので助かった。

 スッキリとした視界で辺りを見回してみると、既に瀬能先輩の姿はなくなっていた。

 あれはやはり白日夢(デイドリーム)で幻だったのかもしれない。

 そう考えてベッドから降り、ふとテーブルに目をやったら、何やら折りたたまれたメモのようなモノが置いてあった。

 手に取って中身を確認してみると、いつも見ている瀬能先輩の几帳面な字で書いてあったので、やはりあれは幻ではなかったようだ。

 それと何故だか、ところどころ水で滲んだような跡がある。……瀬能先輩が水でも飲んだ時に少し零してしまったのだろうか?


 ……え~っと、何々?


『お寝坊さんな後輩くんへ


 昨日は遅くまで付き合ってくれてありがとう。

 酔っぱらった弓削くんは中々に面白かったわ。

 それと改めて伝えておくわね。

 来週の木曜日から九州に出張だから準備しておくこと。

 後、7月1日付けで私は弓削くんの教育係ではなくなるから。

 ……でも安心して?

 弓削くんのことは私が責任を持って、立派な後輩くんにしてあげる。

 それにきっともっといっぱい弓削くんのことを見てあげられるようになるから。

 来週の人事発表を楽しみにしていてね?


 カッコイイ先輩より


 追伸

 パジャマ代わりに弓削くんからお借りしたYシャツは、クリーニングしてお返しします。

 弓削くんのYシャツ大きいのね?

 少しビックリしたわ』


 ――メモの内容を見て、ぶつ切りになっていた記憶の糸が徐々に繋がっていく。


 ……そうだ。

 1軒目で瀬能先輩から「来週の木曜日、私と弓削くんのふたりで出張がある」と言われて、若干酔っぱらっていた俺はひとりで勝手に盛り上がってそこからハイペースで飛ばしてしまったのだ……。


 率直な感想を言えば、瀬能先輩とふたりきりで出張なんて最高過ぎる。

 憧れの女性とふたりでどこかに行けるなんて、たとえ出張だとしても俺にとってはご褒美なのだ。


 ……だが酒が抜けている今は不安しかない。

 ただでさえ瀬能先輩に俺の勝手な好意が伝わらないようにと、最近はふたりでいる時間を極力減らしていたというのに……。

 天然でぽんこつなのに変なところは鋭い瀬能先輩相手に、これ以上気持ちを隠すことが果たして俺にできるのだろうか?

 ……もし瀬能先輩に好意がバレてしまったら……今まで通りの関係でいられなくなるのではないだろうか?

 不安どころか恐怖にも近い感情だ。……さすが俺。ヘタレビビリは今日も健在だ。


「先輩が教育係でなくなる……」


 これも素直な気持ちとしては残念で仕方ない。

 けど瀬能先輩と距離を置いて、クールダウンができると考えれば悪くもない……いや、強がりを言った。

 本心を言えば残念どころか悲しい。

 近くにいたいのに自分を律することができないから自ら距離を空けて、それなのに強制的に離れることが分かった途端、やっぱり瀬能先輩と一緒にいたいと思ってしまうのだ。


 ワガママ過ぎるだろ俺。


 自分のことだというのにままならない。


 ――これが人を好きになるということなのだろうか。


 ……一先ず瀬能先輩に電話をしておこう。

 恐らく昨夜のお礼などはベロベロ状態では言っていない気がするので。

 テーブルの上に置いてあったスマホを手に取り、電話帳に登録されている瀬能先輩の番号に掛けた。


 そういえば瀬能先輩はどうやらRINE(ライン)をやっていないらしい。

 以前尋ねたら「……(ライン)? ……糸……あやとり? あやとりは得意!」と、謎の解釈をしながら得意げな(どや)顔で語っていたので、恐らく間違いない。


『――あっ先輩』

『――こちらは留守番電話サービスです――』


 数コールの後に繋がったと思ったら留守番電話サービスのアナウンスで、ひとり恥ずかしさに悶えながらメッセージを残した。


『先輩、昨夜は色々とご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。家にまで送ってくださって、心配だからと泊まって俺のことを看てくれたんですよね? 本当にありがとうございました。それと書き置きの内容承知致しました。出張の準備を進めておきたいと思います。……また、そ、その……ふたりで飲みに行け――』

『――録音を終了いたしました』

「あぁぁぁッ!? やっちまった!」


 恥ずかしがったせいで無駄に時間を使った挙句いいところで録音終了となり、思わず叫んでしまった。

 もう一度メッセージを残すのはいくらんなんでもダサ過ぎる気がしたので、スマホをベッドに放り投げてから一旦落ち着こうと風呂に向かった。


 さっきの留守電には俺の想像で言ってしまったが、どうして瀬能先輩が家に泊まったのかまでは思い出せなかった。多分完全に寝落ちしていたのだろう。


 脱衣所で()()()()()()()()を脱ぎながら…………え? ちょっと待てよ?

 いつも通り過ぎて気が付かなかったけど、なんで俺着替えてるんだ?

 着替えたってことは少なからずパンツ姿になったってことだよな……?

 う、嘘だろ!? 瀬能先輩にパンツ姿見られたのか……なっ……どうしよう……って俺は女子か!!


 何だかマズいことに気が付きつつあったが、強制的に思考を停止させてスウェットの下を脱いで――呆然となってしまった。


 …………あれ? なんで俺……パンツまで穿き替わってるんだ?

 お、おい!? 昨日ナニもやってないよな!? 答えてくれよ俺の息子(マイサァァァンッ)!!


 そして俺は必死になって記憶を掘り起こそうと、パンツ一丁のまま部屋の中をグルグルと歩き回った……。

弓削くんの身に一体何があったのか(瀬能先輩が何をやらかしたのか)は……皆様のご想像にお任せします。

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