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2 『初めてのデート』

総務課の皆のノリの良さ、仲の良さ、そして団結力。

ふたりはほっこりと見守られています。

 飲みに行くことを宣言した瀬能先輩の行動は早かった。

 すぐに立ち上がって、会議室の電気を消し。

 棒立ちになっている俺に「何をしているの? お酒は待ってくれないから早くしないと」なんてツッコミどころしかないボケ? のようなことを言って、スタスタと歩いて行ってしまった。……きっと瀬能先輩なりの冗談を言ってくれたのだと思う。


 電気を消されてしまったのでさすがにいつまでも立ち尽くしている訳にはいかない。

 いつもより気持ち軽やかな足取りの瀬能先輩を追って俺も会議室を後にした。


「ま、待って下さい先輩。会議室で話があるって言ってませんでしたか?」


 デスクに戻ったところで瀬能先輩に追い付いたので聞いてみたら……、


「えぇ、そうね。だからその件は居酒屋さんでさせてもらうわね」

「は、はぁ」


 そんな答えが返ってきた。

 話しながらも手を動かして手際良く帰宅の準備を進める瀬能先輩。

 時刻は丁度定時の17時30分を回ったところだった。

 瀬能先輩はあっという間にPCのシャットダウンまで済ませて、俺のことを見て一言。


「……私と飲みに行くの……いや?」


 ほんの僅かに潤んだ瞳は俺の錯覚かもしれないが、そんな状態から放たれる呟きの破壊力ときたら……。

 俺は即座に返答を口にしていた。それもかなり力強く、だ……死ぬほど恥ずかし過ぎる。


「そ、そんなことありません! むしろ喜んでお供いたします! こちらこそよろしくお願いします!」

「……よかった。じゃあ行こっか?」

「はい!」

「おっ! なんだ!? 定時上がりしてふたりで飲みに行くのか?」


 俺があまりにも大きい声で返事をしたからか、自席に座っていた釣井先輩から声を掛けられてしまった。

 なんて答えればいいのか考え付かず、無言で固まっていたら瀬能先輩が代わりに答えてくれた。


 さすが瀬能先輩! 頼りにな――、


「えぇ……デートしてきます。ふたりっきりで」


 ――らないッ!?


 な、ななな何言ってるんですか瀬能先輩!?

 デートって!? そ、そんな訳ないじゃないですか!?

 また冗談言ってますね!


 ……もしかして……マジでデートなのかこれ!?


 内心でしどろもどろになりながら誰に対してなのかひとり言い訳をする俺。

 もはや軽いパニックだった。

 対して瀬能先輩はいつも通りの真顔だ。

 外見からは冗談なのか、はたまた本気で言っているのかどうかは全く分からない。


「そうかそうか。楽しんで来いよ~」


 そして釣井先輩も至って平常通りの対応だった。

 俺達に向かって手を振りながら「明日休みだからって飲み過ぎには気を付けろよ~! それと痴話喧嘩するなよ~!」と、笑っていた。


 ……いやいやいや! なんでそんな普段通りの反応なんですか!?

 色々とツッコミどころだらけですよね!? おかしいですよね!? 


「その点は大丈夫です。私と弓削くんは相性が良いので喧嘩はしません」


 えぇぇッ!?

 瀬能先輩何言ってるんですか!?

 ちゃんと真実を言わないと皆に誤解されちゃいますよ!?


「そうかいそうかい。お熱いこったねぇ~」

「なになにー? ふたりで飲みに行くのー? 弓削くん、飲み過ぎて歓迎会みたいにならないように頑張ってねー!」

「おい瀬能、弓削のこと可愛いからってあんまり引っ張り回すなよ? 俺らの後輩でもあるんだからな」

「なんだい? 弓削くんと瀬能くんはこれから飲みに行くのかい? 〆のラーメンならオススメは――」


 俺がひとりでおろおろしていたら、瀬能先輩と釣井先輩の会話を聞きつけた恵比寿課長や他の先輩達も輪に加わってきた。

 けれど何故か誰も「デート!? ふたりって付き合ってんの!?」みたいなことを言わず、むしろ「居酒屋だったらここオススメ!」だの「デートなら駅前のイタリアンバルがオシャレでオススメかな!」だのと、ノリノリだった。

 新入社員歓迎会の時にも思ったけど、総務課の仲の良さと団結力が半端無いんだが……。


 このままだったら誤解されて瀬能先輩に迷惑がかかってしまう。


 俺は意を決して言った。


「あの! 俺と瀬能先輩は付き合ってないですからね!?」

「「「「「…………」」」」」


 すると途端に静まり返る皆。

 妙なしじまが場を支配し、気まずくなった俺は何となく照れ笑いをしてしまった。


 この反応は一体?

 ま、まさか皆瀬能先輩の冗談だと分かって話に乗っていたのか!?

 や、やっちまった! 最高に空気読めてない発言をしてしまった!!


「……真面目かよ、全く。付き合っていようがなかろうが、ふたりで飲みに行くのは事実なんだろ? ならそれでいいじゃねぇか」

「あははー♪ 弓削くん反応が若いねー!」

「おい弓削。照れ笑いしながらそんなこと言っても説得力ないぞ?」

「こらこら皆、弓削くんを困らせたらいけないよ? せっかくの定時上がりなんだから、ふたりは早く行っておいで」

「…… (ゆげくん) (か、かわい) (いっ!)


 やっぱり皆冗談だって分かってたのか……あぁぁ恥ずかしい! 誰か俺を一発殴ってくれぇぇぇ!!


 こうして恵比寿課長始め全課員の先輩方に見送られて、俺と瀬能先輩は会社を後にしたのだった。

 そういえば瀬能先輩がさっきっから俺のことを見てくれないんだが、俺の空気読めない発言で怒らせてしまったのか?

☆★☆ふたりが帰ったあとの会話★☆★


「ホントですよねー! まさか芹葉ちゃんが冗談を言うなんて思いもしませんでしたー」

「瀬能があんなにご機嫌なのは、初めてみました……」

「……どうだろうな? 瀬能のやつ案外本気で言ってるかもしれないぞ? あいつの考えてることは凡人には理解できんからな」

「弓削くんと瀬能くん……僕はお似合いのカップルだと思うけどな~」


 ふたりがいなくなった後の総務課はそんな会話で盛り上がったらしい……。

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