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1 『今日――ふたりで飲みに行こっか』

明けましておめでとうございます!

皆様、今年もよろしくお願い致します!

物語も区切り良く新章からのスタートとなります!

この章はボリューミーなので、長くなるかと思います……!

 入社して1か月半が経ち、ようやく日々の仕事が滞りなく進められるようになった今日この頃。

 最近は瀬能先輩の手を煩わせる事もほぼ無くなり、先手を打って行動ができるまでになった。


「すみません先輩、明日のプレゼン資料を確認していただきたく、少々お時間よろしいでしょうか?」


 隣席で電話対応を終えた瀬能先輩にすぐに声を掛ける。こうでもしないと忙しい瀬能先輩を捕まえることができないのだ。

 始めの1か月間はほとんどマンツーマンに近い状態で仕事を教えてもらっていたが、瀬能先輩の抱えている仕事の量を徐々に理解できるようになり、分からないことや確認したいことがあった時のみ聞くようなスタイルに切り替えてもらった。

 瀬能先輩の仕事の邪魔をするような真似はしたくないので、当然と言えば当然かもしれないが。


「えぇ。ここだと集中できないから、ミーティングスペースでも大丈夫?」


 ミーティングスペースはフリーのオープンスペースのため、誰でもすぐに使用できるのだが、周囲の雑音が入って気が散ってしまうので、実は既に会議室を押さえておいた。

 基本的に瀬能先輩に声を掛けるタイミングは全ての準備を終えた後にしている。そうすれば瀬能先輩を拘束してしまう時間は最小限で済むからだ。


「あっ、私の方で12A会議室を押さえてあるので、そちらでよろしくお願い致します」

「そう、弓削くんの段取りが良くて助かったわ……ありがとうね。会議室ならば丁度私からも弓削くんに伝えておかなきゃいけないことがあるの」


 瀬能先輩に少し褒められただけで鼓動が早くなる。

 こんな些細なことでペースを乱してはならないのだが、誰よりも仕事をこなしている冷静沈着(クール)な瀬能先輩に褒められるというのは、この上なく嬉しいものなのだ。

 ついさっき瀬能先輩の仕事の邪魔をしたくないという理由でマンツーマンから切り替えた、とカッコつけたことを言ったが……。

 実際はこのように少し褒められた程度で表面に感情が出てしまうので、瀬能先輩と長く一緒にいることができなくなったという、実にヘタレでビビリな理由だったりする。

 俺ダサ過ぎんだろ……。


「伝えておかないといけないことですか?」


 こんなに改まって言われると少し怖いな。

 不特定多数に聞かれるようなオープンスペースで出来ない会話となるとなんだ?

 ……秘匿性(コンフィ)の高い(デンシャル)情報(インフォメーション)しかないよな?


「もう……そんなに緊張しなくても大丈夫よ?」

「は、はい」


 どうやら顔に出ていたようだ。

 死ぬほど恥ずかしい。

 そして瀬能先輩は鋭すぎる。人のことを良く見ているんだな~と、またひとつ瀬能先輩に対する憧れポイントが増えた。……もう憧れどころじゃないんだけどな。


 瀬能先輩が僅かに口角を上げて柔らかい声音で「会議室行こっか?」と言ってから、俺の先を歩いて行く。

 前を歩く瀬能先輩の背は一直線に伸びていて、ランウェイを歩くモデルさんのように凛々しかった。


 俺もいつかは隣に立って同じ目線でモノをみれるように、同じペースで歩めるように、頑張っていこうと心の中で改めて誓った。


「――といった内容でいこうと思っていますが、どうでしょうか?」


 結局プレゼン資料の確認だけではなく、全体を通したリハーサルまで付き合ってくれた瀬能先輩。

 正直お偉いさんに見られるよりも、俺の教育係である瀬能先輩に見られるのが一番緊張する。


「全体的な構成も分かりやすく順序立ててまとめられていたし、弓削くんの話し方もハキハキとしていて良かったわ」

「ありがとうございます!!」


 瀬能先輩に褒められるのは素直に嬉しい。

 それこそお偉いさんに褒められるよりもだ。


 ……だからこそ俺は早くひとり立ちをしなくては、と再確認した。

 このままでは瀬能先輩に気が付かれるのも時間の問題だ。


「普通ならばこれで全然問題ないのだけれど……ひとつだけ教育係の先輩としてアドバイスさせて?」

「よろしくお願い致します」

「そんなに畏まらないで楽に聞いてね? 弓削くん、このプレゼンは誰が行っているのかしら?」


 どういうことだ?

 指摘ひとつで感じる瀬能先輩との明確な差。

 浮かれた心は即座に静まり返り、瀬能先輩の言葉の真意を読もうと思考回路を全力で稼働させた。


「誰が行っているか……ですか?」

「えぇ。プレゼンって誰が何のために行うの?」

「……私が今回行う取り組みを他部署に説明して、活動承認をもらうために行います」

「そうね。これは弓削くんが行うプレゼンなの」

「……はい」


 仕事モード全開になった瀬能先輩。

 放つ空気はいつも以上に身が引き締まるような厳しいもので。

 視線は鋭く、俺に対して真摯に向き合ってくれていることがすぐに分かった。


「だけどこの資料には弓削くんがどうしたいのかという将来構想(ビジョン)が入っていないでしょう? それって一番重要なことだと思わない? ……もしこのままだと私が説明するのと弓削くんが説明するのとでは何も差は出ないわ。それは裏を返せば誰でも作れるし、誰でも出来てしまうってことになるの」


 ……確かにそうかもしれない。

 俺の資料は概要を説明するだけのもので、自分で考えていることはあまり出せていない。

 これだと俺がプレゼンする必要はない。

 作った資料を読むだけでいいのなら、瀬能先輩が言ったように俺以外の人間でもできる。


「……瀬能先輩の仰る通りです。概要説明ばかり気にして、私の考えが全然入っておりませんでした」


 瀬能先輩がどれだけ俺の先を歩いているか。

 瀬能先輩がどれだけ真剣に仕事に向き合っているか。

 瀬能先輩がどれだけ俺のことをしっかり見てくれているか。


 その全てを一気に理解してしまったため、少し惑乱してしまった。


 俺と瀬能先輩の差はひとつではなかった。


「……もう、そんなに深刻そうな顔しないの」

「すみません」

「……かわ……んっ! とにかく弓削くんは普通に凄いのよ? プレゼンだってこんなに早く任されている同期の子はいないと思うわ」

「……普通じゃダメなんです」


 瀬能先輩に追い付くには普通ではダメだ。

 このペースじゃいつまで経っても横には並べない。

 もっと早く、もっと的確に仕事をこなさないと瀬能先輩に釣り合う男にはなれない……。


 などと深刻に考えていたら、瀬能先輩の口からありえない言葉が飛び出したのだった。


「弓削くん……今日――ふたりで飲みに行こっか」

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