4 『勘違いするぽんこつな先輩と気が付いていないぽんこつな後輩』
もうお正月になるというのに未だにクリスマスSSを書いているぽんこつな作者です……。
釣井先輩ならぬクリスマス釣井先輩を無事に退け、俺と芹葉先輩はふたりでお昼休みに入った。
今日は使用予定の無い無人の会議室に忍び込んでのご飯タイムだ。
「人影…………なしっ!」キョロキョロと辺りを警戒する芹葉先輩
「こちらも人影ありません!」
「んっ! 明弘くん、後方警戒よろしくね!」意を決した表情で頷く芹葉先輩
「了解!」
「……動くなっ! 全員武器を捨てて大人しく投降しなさい!」手をピストルの形にして会議室に入って行く芹葉先輩……実にノリノリである
いつも会議室を使う際はこのような寸劇を行っている。
芹葉先輩は刑事ドラマの『相方』という番組が好きらしく、その中で敵のアジトに突入するシーンの再現なんだとか。
俺はそのドラマにあまり詳しくないのだが、芹葉先輩が楽しそうにわくわくしながらやっている姿があまりにも可愛いので、毎回きっちりと付き合っている。
……そういえばこんなにドタバタと行動しているので、忍び込めてない気がする。まぁ、誰にもバレていないので問題はないだろう。
月・水・金は芹葉先輩とお昼ご飯を共にしている。会議室の他には会社近くの公園に行って日向ぼっこをしながらピクニック気分で昼食をとったり、時間をずらして屋上のテラス席でこっそり食べたりと様々だ。
ただ近頃はかなり寒くなってきたので、その日空いている色んな会議室で、芹葉先輩お手製のお弁当をまったりしながら食べる、というのが最近のお決まりになりつつある。
ちなみに火曜日は釣井先輩達と社外で食べる習慣があり、木曜日も同じく同期のコミュ力お化けこと、工藤と舞野のWあさひとドS穂村も加えて社食でランチをするのが恒例となっていたりする。
「今日は一番上手くできた! 突入の時スムーズに入れたのも日頃の訓練のおかげ!」
「確かにスムーズでしたね」
訓練って……芹葉先輩は一体何を目指してるんですか?
芹葉先輩は得意気な顔でコクリと頷き「 」と上機嫌な鼻歌を交じえながら、テーブルにお弁当を広げ始めた。
会議室の照明を点けると中に人がいることがバレてしまうので、俺はブラインドを全開にして、暖房のスイッチを入れる。
陽の光で明るくなった室内で芹葉先輩とのんびりご飯タイム……あぁ、幸せ過ぎて最高かよ!
「はい! これ明弘くんの分!」
「いつもありがとうございます!」
手渡されたお弁当箱は芹葉先輩の可愛らしいサイズの物よりふた回りくらい大きい。
ふたを開け、箸を持ってふたりで「「いただきます」」と口に。
お弁当箱のおかげでご飯もおかずも、そしてなんと汁物も温かい状態なのだ。
「おぉ~! 鮭ときのこのホイル焼き! これ滅茶苦茶美味しいです!」
今日のメニューというか、金曜日はメインのおかずは必ず決まっている。
1週間頑張ったご褒美ということで、必ず鮭が入っているのだ。
だが鮭でも毎回違う調理方法なので飽きることはない。
料理も出来て綺麗でカッコ良くて、それなのに面白くて可愛い……おかしいな……欠点がない気がする。
「よかったぁ……いっっっつも、明弘くんが一口目食べる時……すっっっごい、緊張してるの」
「いつも言ってますけど、俺は芹葉さんの料理なら本当は毎日、いや毎食、食べたいんです! それくらい美味しいです!」
「うん! ありがとっ♪」
目を閉じて言葉をためる姿が可愛過ぎて今日も白米が美味い! ……はっ!? 俺は芹葉先輩をおかずに白米が食べられるのか!?
なんておふざけ思考を切り替えてから箸を進める。
実際毎日芹葉先輩と一緒に食べたいのは本心だ。
……だがそれをするとただでさえ仕事が忙しい芹葉先輩の負担が大きくなってしまう。
一緒に食べるようになって始めのうちは社食なんかも利用していたのだが、秘密の関係なのに堂々としているのはマズイとふたりで話し合って、それからは毎回芹葉先輩がお弁当を作ってきてくれているのだ。
お弁当を作るということは献立を考え、食材を買いに行って、夜のうちに仕込みやら準備をして、次の日は早起きをして料理をするのだ。
芹葉先輩はもちろんのこと、お弁当を毎日作っている主婦の皆さんがいかに大変なことをやっているか最近になってやっと分かった。
だからこそこれも毎度言っているのだが、
「芹葉さん、いつも美味しいお弁当ありがとうございます。でもお弁当作りが大変になったらちゃんと言ってくださいね? 俺は芹葉さんに無理はしてもらいたくないので」
「大丈夫! 明弘くんに食べてもらいたくて私が勝手に作ってるの……だから気にしないで?」
芹葉先輩の欠点……そういえば、あったな。
今まで誰にも弱音を吐かずに頑張ってきた芹葉先輩は、辛いことがあってもため込んでしまうことがあるのだ。
まだ芹葉先輩が俺の教育係だった頃、ふたりで初めて出張に行くことがあった。
あの時は芹葉先輩の体調が悪いことに気が付けず、無理をさせてしまった……。
だからこそ俺がしっかりと芹葉先輩のちょっとした変化に気が付かなくてはならないのだ。
俺が何度「無理はしないで」と言っても芹葉先輩のことなので、知らず知らずのうちに頑張ってしまう。
それならば俺がサポートをして、ちゃんと支えてあげればいいだけのことだ。
……ということを今の現状に当てはめると、これは俺もお弁当作りをできるようになればいいのではなかろうか?
お出かけ当番のように、ふたりで順々にお弁当作りをすれば芹葉先輩の負担は半分になる。
――なぜ俺は今までこんな簡単なことに気が付かなかったのか!
恐らく心のどこかで芹葉先輩の手料理が食べたいあまり、深く考えないようにしていたのかもしれない……。
よし! 俺も料理を覚えよう!
それからお弁当作りを交代制にして、少しでも芹葉先輩の負担を軽くするのだ!
そうと決まれば料理の先生は目の前にいる。
幸いなことに仕事もあと少しで正月休みに入るので、教えてもらう時もある。
俺は決意を胸に口を開いた。
「……芹葉さん!」
「……ひゃ、はいっ!」何故か緊張した様子の芹葉先輩
「俺……芹葉さんと……そ、その作りたいです……」
決意を胸にしたというのに、いざ「料理を教えてください」というのが何だか恥ずかしくて、上手く言えなかった。
昨今は男も料理をするどころか、できた方がモテるということも分かっているのだが、なんか無性に恥ずかしいのだ。
具体的には俺自身がエプロンをつけてキッチンで料理しているという場面が想像できない。まぁ、そもそも料理の基礎すら分かっていないので、想像できていないだけなのかもしれないが……。
「ん゛~っ!? ……ま、まだ、わたしは……はやいと、おもいますっ!!」
芹葉先輩が顔を熟れたトマトのように朱に染め上げてから、慌てたように手をブンブンと振りながらそんなことを言ってきた。
自分が無理をしていることを余程隠したいのか、目尻に涙を溜めて上目遣いに俺のことを見てきた。
……また芹葉先輩が無理をしようとしている。
よかった……今回は俺が先手を打てた。
この調子で頑張りすぎてしまう芹葉先輩を支えられるようになりたいと思う。
「生意気かもしれませんが、俺は芹葉さんを支えられるような男になりたいんです! だから……やらして下さい! お願いします!」
「明弘くんの覚悟……分かった……こ、こちらこそっ! ふつつつつつつか者ですが……よろしくおねがぃ ……」
異様に緊張している芹葉先輩。
何回「つ」を連呼しているのか……全く、そんなところも最高に可愛い。
きっと今まで人に料理を教えた経験が無くて緊張しているのだろう。
俺も教えてもらったら一度で覚えて、芹葉先輩にあまり迷惑を掛けないよう頑張ろうと思う。
……今日の帰りに料理本でも買って予習しておくか!
――ちなみに作るを違う意味で捉えた芹葉先輩が、後日奇跡的に裸エプロンで待ち構えていたのは、それはまた、別の話……。
ちなみにまだ続きます!
首に吸い付いてた謎もまだ明かせてないですし……!(恐らく皆さん気付いているでしょうが……)