13 『Q.瀬能芹葉先輩が好きなんです!』
2次会の途中でドロンしました。
なんとか本日中に更新間に合って一安心です。
長くなったので分割してます。こっちは短め。
ふたりで飲み始めて2時間弱が経過した現在……、
「ゆげくん! のんでるのー?」
俺の目の前に座る瀬能先輩の目はとろけていた。
おまけに喋り方も何だかふわふわとしている。
終いには俺の手を握って「しょうぶっ!」と、何故か指相撲をしようとする始末。
「飲んでますよ。先輩はそろそろ控えた方が――」
「――さけ・らいむ!」
指相撲に飽きたのか今度は空になったグラスを掴んで、天高くピーンと掲げる瀬能先輩。
上を向いてグラスを眺めながら「きらきらしてる!」と嬉しそうに呟いている。
そんな瀬能先輩の頬には薄紅が差し、先程からずっと上機嫌にニコニコと微笑んでいた。
……完全に酔っぱらいだった。もはや泥酔に近い気がする。
何度も俺に対して「酔ったらなでなでしてあげる」だの「介抱なら任せて!」と言っていたはずなのに……一体何が起きたのか。
まぁ、酔っぱらった可愛い瀬能先輩が見たくて本気で止めなかったというのもあるのだが。
「さっきからずっとそれ飲んでますけど、気に入ったんですか?」
「うんっ! わたし、にほんしゅ……いっっっっっっっっちばんすきなの!! だから日本酒・らいむもすきーっ! おいしいの!」
目を瞑ってもの凄いタメを行ったあたり、心の底から日本酒が好きなようだ。
だからこそついつい飲み過ぎてしまったのかもしれない。
……ふむふむ。
瀬能先輩は日本酒が好きなのか。
今度飲みに行く機会があったら、日本酒が美味しいお店を紹介できるように調べておこう。
密かにそんな決意をしながらそろそろ本気で瀬能先輩を止めないとマズイと悟り、俺は行動を起こした。
「先輩、もうそろそろいい時間なので〆ましょうか」
「……いま、なんじー?」
「23時前です」
終電は24時過ぎまであるのだが、瀬能先輩をそんな遅い時間に帰すのは俺が嫌だった。
……そもそもこんな状態の瀬能先輩をひとりで帰すのは不安しかない。
送り狼なんてする気は一切ないが、瀬能先輩が家にちゃんと帰ったことを見届けないと心配で眠れなくなる気がする。
これは瀬能先輩に素直に「送らせて下さい」と言い出すべきなのか?
……だがもしそれで逆に恐怖心とか嫌な思いをさせたらと思うと、つい躊躇ってしまう。
グルグルと同じようなことを考えるばかりで、なかなか言い出すことが出来ない。
瀬能先輩の酔っぱらい度が全開であるように、俺もまたヘタレビビリ度が全力で振り切れていたのだ。
「23じ……よるはこれから! さけ・らいむくーださい!」
個室の引き戸を開け放った瀬能先輩が、たまたま通りがかった店員さんにすかさずおかわりを注文した。
俺は慌ててそれを止める。
「店員さんその注文なしでお願いします! それとお会計とお冷2個貰えますか?」
「かしこまりました」
店員さんを見送ってから反論すらしてこなかった瀬能先輩のことを恐る恐る見てみたら……、
「……わたしといっしょ……つまんない?」
瞳を潤ませて伏し目がちに俺のことを見ながら静かにいじけていた。
てっきり頬っぺたを膨らませて怒っているものだと想像していたので、想定外の様子に脳を巨大なハンマーで強打されたかのような衝撃が走った。
可愛いという言葉では表しきれない程の愛らしさ。
普段の毅然とした態度からは想像も出来ない弱さ。
そのしおらしくいじらしい姿は庇護欲を刺激した。
「そんな訳ないです! 俺はいつまでも先輩と一緒にいたいです!」
気が付けば翼を生やした本音が口から飛び出していた。
嘘偽りのないその言葉は捉え方によっては告白じみたものだったが、今はそんなことはどうだってよかった。
憧れの人にこんなことを思わせてしまった自分の不甲斐無さにイラついてしまったからだ。
ヘタレてビビッている自分が情けない。
だからといって自分の想いを無責任に押し付ける様な真似もしたくはない。
……けどそれ以上に瀬能先輩にこんな顔をさせたくなかった。
「…………」
「本当です! もう何度も言っている気がしますが、先輩は俺の憧れなんです! 人としても社会人としても尊敬していますし、いつかは先輩の横に並べるような立派な社会人になりたいと俺の中では勝手に目標にさせてもらってます!」
完全に俯いてしまった瀬能先輩を見て俺はいてもたってもいられなくなり、堰を切ったように誤魔化しのきかない本心が溢れ出てしまった。
もう取り繕うことなんてできなかった。
誤魔化すことなんて無理だった。
「…………」
「だからそんなこと言わないで下さい! 俺はカッコイイ先輩……瀬能芹葉先輩が好きなんです! だから絶対につまらないなんて思ったりしませんから!」
――そして俺は全てをぶちまけてしまったのだった。
今週は飲み会&忘年会が4日入ってます。
死ぬかもしれない。