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6 『良い雰囲気をぶった切る釣井先輩』

昨日は急遽飲み会になりまして更新できませんでした……

ちなみに本日もしきはら飲み会のため、予約投稿となります。

今回は瀬能先輩の心情を想像しながら読んでもらえると嬉しいです。

「お店……ここみたいですね」


 スマホのナビアプリを片手に繁華街を歩くこと数分。

 かなり大きめの真新しい雑居ビルの地下1階に、お目当ての店舗はあった。

 和柄テイストの電子看板(デジタルサイネージ)には『釣り堀居酒屋――(うお)ごころ――』の文字が表示されている。ふたりで確認するために暫く眺めていたら、スライドショーのように表示が変わり、次に映像が流れ始めた。おそらく店内のものと思われるが、巨大な木造船の周りを取り囲むように生け簀が設置されていて、様々な種類の魚が悠々と泳いでいた。

 映像を見る限りでは居酒屋ではなく、ちょっとしたアミューズメント施設みたいだった。


「そうね。行くわよ弓削くん」

「はい」


 店前には誰もおらず皆既に店内に入っているようだったので、瀬能先輩に続いて地下に向かう『アクアチューブトンネル』と書かれたエスカレーターに乗った。

 雑居ビルでエスカレーターがある事自体そもそも珍しいと思ったが、降りている最中に納得した。

 地下1階に向かっているはずなのに、随分と長かったからだ。エスカレーターの降り口が相当先に見える。

 体感だと2階分は移動できそうな程、長距離のエスカレーターだった。


 そして更に驚いたのが……、


「弓削くん見て見て! お魚がいっぱい泳いでるわ!」

「凄いですね……これはテンション上がります」


 エスカレーターが水中トンネルのようになっていたことだ。

 水族館なんかでよくある巨大水槽の中を通っているものと同じで『アクアチューブトンネル』の名前にも得心がいった。


 左右を見ても上を見ても色々な種類の魚が泳いでいる。

 水族館と違うところとしてはイルカやらアザラシの哺乳類がおらず、泳いでいる魚が全て食用に適したものだということぐらいだろう。


 泳ぐ魚を仰ぎ見ている瀬能先輩は「あっ! ヒラメ? カレイ?」だの「伊勢えび! ――ウツボ!? …… (こわいぃぃ)」だのと無邪気に喜んでいた。

 俺は魚ではなく、指をさして天真爛漫に喜んでいる瀬能先輩にテンションが上がってしまった。

 唯一残念だったことは俺から見えるのは瀬能先輩の後ろ姿なので、どんな表情をしているのか分からなかったことだ。


 そういえば魚が苦手かどうか聞いた時は微妙な反応をしていたが、実は好きなのだろうか?


「瀬能先輩そろそろ降り口ですから前を見ないと危ないですよ」

「ちゃんとわかってる!」


 そう言いながらも泳ぐ魚に合わせて顔を動かしている瀬能先輩。


 もしかすると……いや、もしかしなくても鮭を探している気がする。

 そして多分このまま降り口について、転びそうになる未来しかみえない。


「……鮭いな――っ!!」

「だから前見ないと危ないって言ったじゃないですか」


 案の定、鮭を探していた瀬能先輩は降り口に着いたことに気が付かず、前のめりになって倒れかけた。

 俺はそうなることを予想していたので、とっさに瀬能先輩の片腕を掴んで倒れないように支えた。


 不可抗力と言うか、なんというか……初めて瀬能先輩に触れてしまった。


 トレンチコートの上からでも分かる細い腕。

 支えてみて分かった女性らしい軽さ。


 ただそれだけのことで心臓が激しく鼓動したのが分かった。

 顔面はひどく熱いのに、指先は凍えるように冷たい。身体中の血液が心臓と脳に集中したのだ。


 憧れの人である瀬能先輩は俺にとって、身近にいながら決して追いつくことのできない遠い存在だった。

 だからこそ触れてしまったことに対して、喜びよりも緊張と自己嫌悪が上回ってしまった。


「うん。ありがとう弓削くん」


 俺の内心は様々な感情が入り乱れて嵐が吹き荒れているというのに、そんなことを知る由もない瀬能先輩は一切慌てた様子もなく、楚々とした()()を浮かべてこちらを見ているだけだった。


 ――初めて瀬能先輩がちゃんと微笑んでいるところを見てしまった。


 これまで何度か真顔の誤差範囲内と言えるような笑み(俺の希望的観測)を見たことはあったが、ここまでしっかりとした表情を表に出してくれたのは今が初めてだった。

 その笑みを見ただけで緊張はほぐれ、自己嫌悪は薄まっていく。瀬能先輩の表情一つでここまで揺れ動くなんて我ながら情けないと思う。


「す、すいません! いきなり掴んでしまって!」

「どうして弓削くんが謝るのかしら? ……()()()()をしたのは私の方でしょう?」


 そう言った瀬能先輩はまた違った――大人の女性らしい色香を漂わせた妖艶な笑みを湛えて、いつの間にか逆に俺の腕を掴んで引っ張ってきた。


 な、何!?

 なにされちゃうの俺!? とひとりでバカみたいに興奮していたら……、


「皆待ってるから、早くいこっ?」

「……了解です」


 普通に入口へと向かう瀬能先輩に引っ張られただけだった。


 俺は一体何を考えているのやら。

 ついさっきまで緊張と自己嫌悪に陥ったかと思いきや瞬間的に喜んで、今度はこのざまである。自分のことだというのにあまりのアホな思考に呆れてしまった。


「……海のにおいがするわ!」

「確かにさっき泳いでた魚って全部海水魚でしたね」


 地下深くに降りたからなのかフロアの天井は高く、立派な数寄屋門をくぐり店内に入ると、確かに海のようなにおいがした。

 瀬能先輩はくんくんとにおいのもとを辿るように、俺の腕を掴んだままどんどん進んで行く。


 ちょっ、瀬能先輩!! いつまで俺の腕掴んでるんですか!? このままじゃ皆に見られますよ!?


 ……なんて考えつつも口からはそんな言葉は一切出ない。

 本心では今の状況が延々と続けばいいと考えているからだ。


 そのまま瀬能先輩に引っ張られて細長い通路を抜けた先に――突如巨大な木造船が現れた。

 木造船の周りは全て生け簀になっていたので、店先で見た映像の通りだ。


「……結構デカいっすね」

「……えぇ。少しビックリしたわ」


 瀬能先輩に腕を掴まれたまま想像していたよりも遥かに巨大なその姿に圧倒されて、ふたりそろって棒立ちしていたら、声を掛けられた。


「おぉ~い! やっと来たな本日の主役! 席こっちだぞ~! ……瀬能はどうした~?」


 見れば生け簀の外周は全て個室になっているようで、そのうちのひとつから釣井先輩が引き戸を開け身を乗り出して、俺に向かって手を振っていた。


 釣井先輩の「瀬能はどうした~?」という言葉に何を言っているんだ? と本気で首を傾げそうになったが、理由に気が付いて自己完結した。

 釣井先輩の位置からでは木造船が絶妙な死角となって、俺の横に立つ瀬能先輩の姿が見えなかったのだ。


 ちなみに瀬能先輩は釣井先輩の声が聞こえた瞬間、まるで何事も無かったかのように手を離していた。

 ……釣井先輩は何も悪くないが、一方的に恨んだのは言うまでも無い。


「一緒に来ましたよ!」

「…………」


 先程までのハイテンションはどこにいったのか。

 瀬能先輩はいつもの真顔に戻って無言のまま歩き出し、個室に向かって行く。

 会社で普段見せているはずの凛とした姿だったのに、俺の気のせいかもしれないがどこか少しふてくされているようにも見えた。

 すぐさま俺もその後を追って個室に向かったのだった。

~レビューのお礼~

皇沙織様、4件目のレビューありがとうございます!

ほっこりと温かいレビューで飲み会が続くしきはらは癒されました! ありがたやぁ~!\(^o^)/

今日も頑張って飲み会参加 (いきたくない)してきます!(白目)


「……天然系の女性……だれのこと?」小首を傾げる瀬能先輩

「さ、さぁ……誰のことなんでしょうか?」とぼける弓削くん

「――ま、まさか! 弓削くんて実は女の子なのっ!?」勝手にびっくりしてる瀬能先輩

「はいそうですよ?」悪乗り弓削くん

「( ゜Д゜)」驚きのあまり固まる瀬能先輩

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