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5 『改札で通せんぼされる瀬能先輩』

 次話から章タイトルである歓迎会へ突入するので、ほのぼのとしたなんてことのない日常を一幕入れておきました。

「弓削くん少し急ぐわね」


 議事録の処理で後発になった俺と瀬能先輩は更衣室で着替えた後、連れだって会社を後にした。


 俺より早く来て遅く帰る瀬能先輩。

 なので初めて見る瀬能先輩の仕事着(スーツ)以外の格好は、俺のイメージ通りのシックで落ち着いた大人の女性そのものだった。

 丈の長いベージュのトレンチコートに、気持ちばかりのフリルがついた白のブラウスとダークグレーのロングフレアスカート。

 決して目立つようなファッションではないのに、瀬能先輩が着ているだけでファッションモデルが目の前にいるような錯覚に陥った。


 眠さのあまり油断していた朝一の可愛い瀬能先輩の姿はどこにもいない。

 今俺の前にいるのは正真正銘の冷静沈着(クール)美女――瀬能芹葉先輩だった。

 纏う雰囲気は厳かで、その表情は身の引き締まるような凛としたものだ。

 綺麗過ぎて、美し過ぎて、目を逸らすことができずに、ただただ見惚れてしまう。


 ……やっぱり瀬能先輩は社会人としても、大人の女性としてもカッコよかった。もし瀬能先輩が同性だったら間違いなく秒で弟子入りを志願するレベルだ。


「……あ、了解です」

「? ……少し疲れているの?」

「大丈夫です。行きましょうか」

「えぇ」


 私服姿に見惚れてぼんやりと返事をしたら、すぐに俺の体調を気遣ってくれる瀬能先輩。

 誰もが息を呑むような美人でありながら、相手を思いやる心遣いができる。


 俺もこんな大人になりたいと本気で憧れてしまう。


「私、お魚釣りなんて初めてだから……少し緊張してる」


 最寄りの駅に向かって歩き始めたところで、確かに若干緊張しているような声音が瀬能先輩の口から漏れた。

 ヒールパンプス特有の、コツッコツッという音が横から聞こえてきて、妙に緊張してしまう。

 社内では教育係と新入社員ということで連れ立って歩くのは当たり前だが、外で……それもふたりきりで並んで歩みを進めるのは初めてのことだったからだ。


 思えば今日は初めて尽くしである。


 寝ぼけて可愛い姿。

 天然でぽんこつな姿。

 弱気で守りたくなる姿。

 そしてこの私服姿である。


 男とすれ違う度に全員が瀬能先輩の方へ視線を向けていることが分かった。

 露骨なやつは俺達に聞こえる様、わざと大きめの声で「今の見た!? めっちゃ美人じゃね!? 声掛けてみる?」と口にしていた。大方それで瀬能先輩の反応を見ようとしているのだろうが、そんな軽薄な言葉は俺が口を開くことで全て遮った。


「瀬能先輩、魚が苦手ってことですか?」

「………………別に、苦手じゃないわ」


 微妙な間があった気がするが、瀬能先輩がそう言う以上、特に追及するつもりもない。


「食べる方はどうなんですか? お刺身とか焼き魚とか煮魚とか」

「全部好き。特に鮭のちゃんちゃん焼きと鮭のムニエルが好き」


 ですよねー。

 ……だから今朝のおにぎりの具も鮭フレークだったんですね。

 それ魚が好きというか鮭が好きなんじゃ……というツッコミは胸中に押し止めた。


「お刺身とかお寿司はサーモン派ですか?」

「……どうして分かったの?」


 目を細めて恐ろしく真剣な顔付きで首を傾げる瀬能先輩。


 むしろなぜバレないと思ったのか……。

 自分からヒント……どころか答えを出しておきながら、不思議そうに首を傾げるその様は控えめに言って、最高に可愛かった。

 うん。最高とか言ってる時点で全然控えめじゃないな。


「でも私お寿司だったら……」

「お寿司だったら?」


 ……「いくらも好き」とか言いそうな気がする。


「――いくらも好きよ」


 すいません瀬能先輩。

 それは正直予想出来てました。

 ……どんだけ鮭好きなんですか。もしかして瀬能先輩の前世はヒグマだったんじゃないですかね?


 わざわざ言葉を切って気持ち口角を上げた控えめなどや顔で、瀬能先輩が得意げに答えた。俺はそれを微笑ましく見ることしかできなかった。


「俺もいくら好きですよ」


 瀬能先輩との他愛のない会話を続けていたらいつの間にか最寄り駅の改札に辿り着いていたので、俺はポケットから定期を出して通過した。

 横を歩いていた瀬能先輩も同じようにICカードを出して、自動改札機にタッチして――、


「あうぅぅっ!!」


 残額不足でフラップドアに通せんぼされていた……。

 そんな反応可愛いに決まってるだろ! と叫びたい衝動を押し殺して「チャージしてくる!」と告げて、足早に去っていった瀬能先輩の背を見送りながら気が付いた。


 そう言えば残額不足で引っ掛かったってことは、瀬能先輩って電車通勤じゃないのか?

 もしかしたら会社から近いので朝早く来ていて、あんなに寝ぼけた無防備な姿を見せていたのか?


 ……よし。来週から俺も今日と同じ時間で出社しよう。

 それで寝ぼけた可愛い瀬能先輩を見ることで日々の糧としよう。


 瀬能先輩がチャージを終えるまで、俺はそんな邪な考えをしていたのだった。

~お礼~

いつの間にやらブクマが3000件、ポイント評価者数が200人を突破しておりました。

皆様、応援ありがとうございます。とても励みになります。

これからもよろしくお願い申し上げます。

それと今更Twitter始めたのですが、何を呟けばよいのか分かりません……誰か教え下さいませ!

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