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神に選ばれた男の一生  作者: 秋の桜子
3/3

旅の終わり

 フォースタスは、その場で私と少し談笑した後、静かに部屋を下がって行った。


 しばらくの間、私は再び、彼との思い出に浸ると、足元で座って待っている相棒に目をやる。


 グリフォンとの出会いは、何処かの、深い森の中だった。魔王の城へと向かっていた、道中だったと覚えている。


 潤ん瞳で、見つめてくる今でこそ良き相棒だか、グリフォンにとっては、私は憎い親の敵。


『最初の大物』あの者が彼の親と想像が容易についた。


 何故なら、あの場に居合わせた複数の人間の中で、ピンポイントに私のみ襲って来たのだから、身体に染み着いている、親の血の臭いを敏感に、かぎとったのだろう。


 贖罪の為に、好きにさせてやっても良かったのだが、私は何故か戦い、力でねじ伏せ、この者を使役したくなった。


 数々の討伐の中で知り得た知識。巨大な力を持つ魔物を、力で押さえる事が出来れば、配下として、使役出来る。そして結果は、望み通りとなった。


 力が大きい者に従う習性がある魔物は、相手が親の敵でも、負けたら潔く主と認め、従順に仕えるらしい、あの時より此方、私は相棒に襲われた事は一度として無い。


「お前は、私に負けたのだ、あの時に」


 頭を撫でながら、グリフォンとの出会い感謝する。


「さあ、そろそろ、私達も部屋に戻るか」


 ……再び椅子に深々と身を委ねる。相棒も元の位置で丸くなり、眠りに入る。


 私は、また目を閉じ、旅の終わりへと記憶をたどって行く。


 私に課せられたミッション『魔物を統べる王の討伐』早い話が『魔王を殺せ』ということだ。


 討伐だの、成敗だのと、上手く言葉をすり替えているが、それも仕方ない事なのだろう。


 何事にも、もったいつけるのが権力者だ。この辺りは『俺』の世界でも対して変わらない。


 フォースタスの調教のお陰で、そこそこにはなったメンバー達と共に、魔王の宮殿にたどり着くにはそう時間がかからなかった。


 何せ、すこぶる真面目な勇者と、それに付随する石頭だからな、わき見や寄り道など、言語道断、日々鍛練と討伐以来をこなす日々。


 そんな生活に、嫌気がさした女好きな剣士と賢者がパーティーを抜けたいと、言い出したが、その頃には、私も幾分したたかになっていたので、


『魔王討伐』成功のあかつきには、特別報酬を出す。と金を提示すると、欲深いところは変わって無いらしく、その場で発言を撤回した二人。


 その時も思ったが、呆れるほどの変わり身の早さだったな、ちなみに魔法使いの女は、もっと早々に、報酬の交渉を密かにしてきた。


 勿論、こちらも金で釣ったのは言うまでもない。それにしても、私のパーティーの面々は、こうも、金が好きな奴らばかりと、改めて認識をした出来事。そしてたどり着く。


 ………それから間もないある日、闇に全てを覆われた夜の出来事、


 我々は魔王の城の前に、皆で攻め入るべく、闘志を高めていた。


 密かに、この城奥深くに君臨している『魔王』を弑する為に。



 ―――「そなた達は、な、何を」


 慌てふためく『王』に対していた私達、既に守りの者達は一掃し、城の中は閑散としている。


 私に迷いはなかった、『王』と称されているただの生物なのだから、今迄殺して来た者達と、一体何が違うと言うのだ。


 この地でもがき苦しみ、足掻き、勇者として討伐を繰り返し、成長した私には、最早力で敵うものはこの世界ではいない。


 薄ら笑いを浮かべる勇者の前で、生きるためなのか、震える身体で剣をとり、身構える愚かな『王』


 かつては、それなりに強い者であったのであろう、気配は感じるが、守られる事に慣れきった者が、私に敵うとでも思っていたのだうか、


 結果は、誰の目にも明らかだった。私はゆっくりと、聖剣を鞘から抜くと、一閃する。


 あっけなく終わる、この国の王、彼の死をグリフォンが皆に知らせる。彼方此方から、湧き上がるように姿を現わす魔物達。


 魔物の一人が、玉座の前に倒れているかつての王だった老人に近づくと、手をかざす。そして


 そのきらびやな衣装の下は、枯れ枝と思われる躯を、火を放って焼き付くし、処分した。


 そして私は全ての世界の王となった。



「私はこの世界に来て、良き出会いをしたものだ」


 私は旅すがら、色々と見聞きし、討伐を繰り返す内に、二つの部族が別れているから、無駄な血が流される事に気が付いた。


 人々と魔物どちらか一つ。しかし、この事を実行すると、私は一応、人間の部族に属しているので、魔物達にはあきらめて貰うしかないアイデアなのだが。


 それをフォースタスに話すと、以外にも同じような考えをしていたらしい。


 彼にとっては、メンバー達の様な、選ばれた者達の私意にまみれた行動が許され無いらしい。


 一つの世界になれば、戦いのために、異世界から愚かな者が、送り込まれる事も無くなるのでは無いかと、常日頃から思っていた。


 そして魔物達は、彼等の『王』が私によって、弑された後は、恐らく、王より力を持つ私に従うだろうから、終わった後で考えればよい、と


 そう聞かされた私は、足手纏いなメンバーを夜の闇に乗じて、置き去りにし、フォースタスとグリフォンのみ連れて、城へと向かった。


 私の持つ覇気に、恐れをなして、近づいてくる者は少なかった。多くの者は逃げ隠れしていたらしい。


 そして、あつけなく魔王を討伐、魔王もまた、守られる事に慣れている者だった。そして、そこで以外な事が起こった。


 私の持つ『闇の心』に引かれたのか、魔王の持つ巨大な魔力が、彼が、倒れる寸前に抜け出すと、身体の中に入って来たのだ。


 魔王を討伐すれば、全てが終わると浅はかな私の考えは覆された。


 本来なら、勇者が与えられた『神の光の力』で『魔王の闇の力』は、相殺されるのだが、


 私の持つ『闇』が深すぎたらしく、相殺されるどころか、私のそれと同化してしまい、思いもよらず次なる『魔王』として立場を得てしまった。


 とんでもない事になった私に対して、フォースタスが、主従の契約を持ちかけながら、一言、


 我輩が、手引きをいたしますから、彼方の『王』も討伐するのがよろしいかと。


 そして、一つの世界とし、貴方様が王として、統治されれば丸く収まる。


 四角い石頭は『策士』だった、このままだと、どう考えてもこの先に進めそうも無いので、私はその進言に乗ることにした。


「先ずは小うるさく出てくるであろう神官を」


 フォースタスの組んだ作戦に従い、我々は地中に魔力で道を作り、かつて旅立ったあの国を目ざし進む。


 最短距離で造れるので、たどり着く迄にはそう時間はかかない。そして神官を密かに弑しする。


 次に、フォースタスの手引きで『人間の王』の元へとたどり着いた。守りの衛兵達は、配下の魔物達にまかせておけば良いので、この点はかつてのメンバーより、使えることが出来たのが、良かったと思う。


―――魔王討伐、人間界の王も討伐、僅か一夜の出来事。


 まさか、この様な事態になるとは、こうして振り返っても、未だに、よくぞ完遂したと思う。


「あの後からは、それはもう、寝ずに動かねば国が滅亡するところだった」


 記憶の旅からもどると、私は天井を仰ぎながら、そう漏らす。選ばれた者達の処遇、魔物と人間の住み分け、これまで、この世界を占めていた思考の改革。


 成すべき事が、山の様に立ちはだかっていた。そして、その高さは少しづつ低くはなってはいるが、まだまだ平坦とは、言えない。


「しかし、退屈はしないな、何せ、二つの力を入れた時より、私はどうやら『不老不死』とやらに化けたからな。」


 足元に目を向けると、頭をあげてくる相棒の姿、それを眺めながら、色々と思い出した後なので、意味もなく少し愉快になる。


 実際、私は何年生きても姿が変わら無い、私の時と共にする、フォースタスや、グリフォンもまた同じ。ずいぶん長く生きたものだ。


「何もなければ、退屈のあまり、世界を全て滅ぼしてみようかと考えてしまうからな、そうは思わないか?グリフォン」


 相棒にそう話しかけた時、フォースタスが部屋へと入ってくる。


「陛下、そろそろ会議の時で御座います」


 私と二人きりの時は『我が君』と呼ぶフォースタス、今は臣下を引き連れている時は、わざわざ呼び名を変えてくる。


 彼もまた何も変わらない、生真面目に私を待つ。ふと、何かを思い出した。そう、彼の目論みの事だ。


………神の意に反した私の行動に、神様達は、呆れられたのか、この世界にあれ以来、異世界から送り込まれる人間は、皆無となった。


 四角い彼の計画は、見事に完遂されたということか。私は、彼を見ると自然に顔が綻ぶ。


 つくづく面白い男だな。さぁ、四角い男が急かしている。私は立ち上がると、了承の答えをかえす。


「わかった。行こうか、フォースタス」


 四角い石頭と共に、片時も離れぬグリフォンと部屋を後にする。


 ―――旅は終わり、今、私を取り巻く現実に向かい、ゆっくりと歩を進める。



「完」















































 















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