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神に選ばれた男の一生  作者: 秋の桜子
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旅の半ば

 そこまでの、過去の旅を終えると、少し疲れを感じる。


 神よりの祝福のせいか、肉体的な疲れは感じないのだが、精神的部分は、今も昔もたいして変わらない。


 一息入れようと、大人しく寝ている相棒に目をやり、頭を撫で、声をかける。


「グリフォン、少し外の風に当たろうか」


 私が、椅子から立ち上がると相棒は、目を開き気持ち良さげに背を伸ばし、身震いをした後、嬉しいのか、尾を振る。


 本来の姿は、小山の如く巨体な黒い犬なのだが、私と出会い、主従の契約を交わした後、そのなりだと、色々不便なので、


 普段は、私の望む姿に形を変えて、何時もかたわらにいる存在。


 黒く濡れた瞳が、私を見上げる。今宵はそれが何時もより、せつなく感じるのは、旅のせいだろうか。


 ……開け放たれているフランス窓から、バルコニーへと歩を進める。目の前に広がる、夜に覆われた時の世界。


 静かで、穏やかな、深い漆黒に、空も地も包まれている。この国に住まう者達は、ある者達は、眠りにつき、ある者達は、この時に働く。


 私はこの時間に、ここで、こうして眺める事が何よりの楽しみだ。かつて旅をしていたときは、静かに世界を眺める事など、出来なかった。


 空を見上げているうちに、記憶がまた蘇る。傍らで、ハッハッと、息遣いをする相棒に気がつき、様子をみると、何かを懸命に目で追っている。


 ふわり、と灯りに導かれたのか、大きな白い蛾が、広いバルコニーへと入り込んで来ていた。


「遊んでいいよ」


 頭に手を置き、許しを与えてやる。喜び勇んで、それを追いかけ無邪気に、戯れる相棒。


  旅がはじまる。


 ――――「出来れば、独りで旅をしたいから、抜けさせてくれないか」


 あの事からしばらくして、私は皆にそう伝えた。その頃の私は、強くなる事だけを追及していた為に、


 共に旅をするメンバーが足手まといと、感じていたからだ。


 あの時、最初の手で終わらす事が出来なかった為に、苦しみもがく姿を目の当たりにし、私の中で何かが、吹っ切れたのか、壊れたのかはわからない。


 ただ、強くなりたかった。何物にも揺るがぬ強さが欲しかった。命を奪うその時にでも、心が動かされない、冷静な強さを求めていた。


 二度と酷い苦しみを与えぬ様に、一撃をもって奪えるようにと、日々鍛練を積み重ねる『勇者の私』


 対して彼らは『虎の威を借る狐』の如く、日々最強と名が上がりつつある、私の名前の元で、各々に、好き勝手な事をし、楽しんでいたらしい。


 何故に、討伐意外の行動を離れていた私が、知り得る事に、なったのかというと、


 当時、討伐に関する金、全て先ずは私の元へ、一度集まって来ていたからだ。


 私はきちんと国の規程に従い、彼等達に誤魔化す事なく配分している上に、私の活躍のお陰で、かなりの金額を渡せていたのだが、


 彼らは何時も足らない、とぼやいていた。


 しかも、私に相談も何もなく何時の間にか、支援魔法使いやら、回復師、格闘士やら増えて行く、


 旅の途中、宿を求めて街に立ち寄る度に、知り合うのか、何時の間にか共にいる者達。


 しかも彼ら、彼女達は頻繁に入れ替わる。私の知らぬうちに、飽きたら変えるかの様に、そして、許され無いことに、


 元メンバーは、彼らを追い出す時には、私の名前を使って追放していたのだ。


 その事を知った私は、最初から、愛想も何も持っていなかったのを幸いに、このパーティーから抜けるべく、彼等達に提案したのだが、


 当然、慌て引き留める、共に旅をしてきた者達。 色々と説得されたが、私の気持ちは既に固く決まっており、この先強くなるであろう、相手の事を考えると当たり前の事なのだが、


 メンバー達は気が付いていなかった。向上心を持たない彼等は、旅立ちの時から成長をしていないことに。



 ―――ある討伐が終わり、この機会に出ていこうとしていたある街で、私に王宮からの使者が訪れた。


 自分達の説得に応じない私に対して、無い知恵を絞った、こざとい賢者が、


 国元へと手紙を送り、私の説得だけの為に、わざわざ使者が辺境の街に迄やって来たのだ。


 私は、何も使えない人材を、引き連れて行かなくても『強い勇者』が独り出向けば、良いだろう、


 と最近弱体化している、元メンバーの為に使者に対して話したのだが、


 この世界も、政治的に色々あるらしく、『勇者』が抜けることは許され無い、との一点張り。


 どちらも、後にも先にも引けずにいるので、ここは石頭の使者殿を、上手く使う事で、私が折れる事にした。


 これ以上、好き勝手しないように、お目付け役で石頭を雇う事にしたのだ。


「あれは、我ながらいいアイデアだった。」


 その後の事を思いだし、私はしばらくこみ上げてくる笑いが止まらない。


 あのお目付け役の石頭は、誠にいい存在となった。


 だらけきったあやつらを、叱り飛ばし、尻を叩いて修練をさせ、相応しい振る舞いをするように、と、昼夜問わず目を光らせ、規律を乱すと、容赦なく鉄拳を飛ばす石頭。


 笑える事など、何一つ無い、過去の旅の中でも面白き出来事、


この世界で、使える唯一の存在との出会いに、あの時ばかりは、神とやらに感謝したものだ。


 それにしても痛快な石頭よ、この世界にもあのような者がいろうとは。


 バルコニーで遊んでいた、グリフォンが飽きたのか、此方に向かい跳ねるように駆けてくる。


「もう、いいのか?」


 私は両の手で迎えると、艶やかな、ビロードの様な毛皮に覆われた背を撫でてやる。その時、室内に入ってきた、配下が私に声をかけてきた。


「我が君、そのご様子を拝見致しますと、失礼ながら、私めの事をお考えにならている様に、見えますが」


 石頭こと、今は私の配下になったフォースタスだ。


「何故わかった」


「貴方様が、その様な笑顔を、お見せになられる時は、私めの事で御座いますから」


 そうかと、彼を見ると再び笑みが浮かんでくる。


 目の前で生真面目にひざまづき、礼を取りながら見上げて来るフォースタス。


 今も昔も変わらぬ、角ばったフォースタス、私が初めて、主従の契約を結んだ配下の男。












































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