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新宿ダンジョンその6

 スコーンを食べ終えた俺達はバスタ新宿の階層を降りていく。


「こちらでいいのか? というか、外に出てしまったのだが」


「ええ、なんとなくですが、こちらのような……」


 スコーンを食べたかっただけで駅ナカに入ったとは言い辛いので適当にはぐらかす。


「ええ、――連なる蛇の上に冠する馬の王。その王の元――地の宴集いし場所。となれば……」


 俺は一軒の心当たりがあった。バスタがTVで特集された時に見かけたあそこが正しければ――。

 バスタNEWoman1F。新宿駅新南口のすぐ下、そのまま直進すれば高島屋に直結しているその場所は入口にパンの香りも素晴らしい、ジュエルロブションの出店がある。そのすぐ奥へ行くとお洒落な珈琲ショップがあり、若者が多く席に着き、憩いの場になっている。そして俺の目指す場所はその目と鼻の先の――。


「ここですね、多分」


 店の入り口は広く、そのディスプレイにはなんと米俵がいくつか置かれている。


「これは……米、か?」


「米ですね。そちらにもあるので?」


「ああ、というかこの店は米屋なのか?」


「米――をテーマにした生活雑貨店、ですかね。米に関しては全国から集めたものを各種取り揃え、売ってます。他にもほら、全国各地の特産物や食器など色々あります。まさに、『地の宴集いし』でしょう?」


 店のカウンター近くには米がガラスケースに入れられ見比べられる。そして全国各地から集められたご飯に合いそうなお供の数々も店の奥に並べられている。この店、銀座が本店であり、新宿にはバスタが出来ると同時に出店したのだ。品ぞろえもよく、ご飯もの以外も可愛い雑貨もちらほら見て取れる。東口のほうが混みやすい、と個人的には思っているのでこちらで買い物をする選択肢はなかなか悪くはないと思う。この店はそのうちの一つとしては有力だ。


「お土産選びには割と重宝されますね。気に入ったものがあったら買っていくといいですよ?」


「――そうだな、特にこの色とりどりのガラスの器は素晴らしい。是非持って帰って……いや、目的を忘れてはいかんな」


「ああ、そうでしたねえ……でも、どこかな……?」


 店内を見渡してもそれらしい人物は見当たらない。というか、そもそもそんなファンタジーな人間が歩いていたら通報されそうな気もする。いや、案外コスプレだと思われて何も言われない可能性も無きにしも非ずだが……。


「――取り込まれているって言ってもなあ、よくわからん。壁にとか埋まってたらそもそもわからないだろうし……」


 ウィザードリィシリーズみたいに一発ロストされたらどうしようもない。『いしのなかにいる』は怖いのだ。


「いないのであれば別の場所も……」


「……待て」


 キヨノさんの瞳がキラリと光る。


「……いましたか?」


「ああ、臭う」


 くんかくんか、とキヨノさんが店内を文字通り嗅ぎまわり始めた。袴美女がするその行為は軽く、不審者である。


「あ、あの……もうちょっと穏便に」


「――これだ」


 キヨノさんが目を付けたのは……お鍋?

 店内の試食コーナーに置かれた鍋の前に彼女は陣取り、動かない。店員さんは今席を外している様子で鍋の近くには誰もいない。紙コップがおいてあるからご自由によそえばいいのだろう。


「……お腹空いてたんですか?」


 スコーンだけでは足りなかったのかな? 育ち盛りかしら。


「ち、違う! そこから、臭うのだ。身内の匂いが!」


「またまたご冗談を」


 鍋蓋を開けてみたが、中身はただの味噌汁である。俺はそれを紙コップに一掬いして彼女に渡す。


「ほら、何もないですよ?」


「違う! ええい、私がやる!」


 そう言うと彼女は俺の手からお玉を奪い取る。俺にも味噌汁をよそってくれるらしい。黒髪袴美少女に味噌汁を提供されるとかなんというご褒美。長生きするもんである。そんなことを考えて彼女のお玉の動きを見ていたのだが……。彼女が何事か唱えると――。


「え」


 ざっぱあ。


「ぶっぶっはっ!」


 みそ汁の鍋をひっくり返し、中から本当に人間が現れたのだ。


「見つけたぞ、勇者リーチ!」


 蒼髪を味噌汁で濡らし、息も絶え絶えな男が店の床に転がる。


「ぶっは、ご、ごへほ……こ、ここは?」


「貴様のせいで――」


「ちょ、ちょっと待った!」


 掴みかかろうとする彼女を俺は押しとどめた。


「止めるな! こやつらのせいで……」


「いや、逃げないとまずいってば! お前も来い!」


 俺はリーチと呼ばれた男をどやしつけると一緒に店の外へと引っ張り出す。


「ええっと、いいから先に連れてあっちの方へ行っててくれ! 警察来て捕まったらまずいから、特にキヨノさんとそこのリーチは!」


「わ、わかった。しかし、お主は?」


「俺には、やることがある。君たちがいると面倒になるから先に行っててくれ」


「そ、そうか、かたじけない」


 俺は駆けだした彼女らを見送ると――踵を返し、店内に戻った。

 そう、俺のやるべきこと、それは――。


「ごめんなさい。掃除させてください……」


「あ、お客様その……顔をお上げになって下さい」


 謝罪のベストオブベスト、土下座であった。

 俺は店内の掃除を手伝った後に、お土産と称して色々購入し、店を後にしたのだった。うん、この鯖缶とかレイ喜びそう。

NEWOMAN内は思ったより面白い、というのが第一印象です。バスタが出来る前まで新南口自体は高島屋を除くとほぼランドマーク足りえる場所がなかったのですがこれで店の候補がまた増えました。駅ナカで買うもよし、駅外で買い物を楽しむもよし。この辺り、私がよく通っていたカードショップがあったのですが閉店してしまい、以降結婚も相まってカードゲーム引退した経緯があります。なお現在シャドウバース内の2ピックランキングで私の名前が確認できると思うのでユーザーの方は確かめてみるのも一興でしょう。というかシャドバの小説出すなら私に任せてくれないですかねえ、めっちゃ立候補するのに。

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