異世界バチェラー始めました。エピローグと……。
「さて、これで全員去った、というわけね」
暗い顔をした男二人、それに相対するミリアル。俺は一人残されたカミルを連れて自宅に戻ってきていた。
「で、どうするの?」
「どう……とは?」
「情けないわね、シンディのことよ。追っかけるの? 諦めるの? はっきりしなさいよ、だから振られるのよ」
「うう……」
「……そのくらいにしてやれよ、ミリアル」
元懸想相手にそんなこと言われたら男としては立ち直れないぞ?
「……正直、私もよくわからないのだ」
「分からない?」
「ああ、好きだとは思うのだ。だが、逐一彼女のどこに惹かれたかと訊ねられると、どれも言語に出来ないというか……」
俺は思わず頭を抱える。
「……まさかお前、それでミリアルっぽいところばかり褒めたのか?」
「し、仕方ないではないか!? 他に何といえば……」
ミリアルも俺も思わずあきれ顔になった。
「実は……恋愛下手だったのね」
「童貞ゆえ仕方ないだろそこは」
「こら! 好き勝手言うな二人とも!」
「だって、適当な嘘ついてもバレるでしょう?」
「むぐぐ……」
「兎も角だな、シンディ捕まえてこいカミル。話はそこからだ」
「捕まえるも何も……どこにいると?」
「どっかにいるだろ? そもそも異界の門を通らなきゃ帰れないんだし」
正直ここから先はぶん投げたい。男と女なんてなるようにしかならないのだ。最終的には外野が何を言っても二人の問題に帰結するのだ。
「でも、彼女はもう……」
「追っかけられて、必要とされていやがる女なんてそんなにいないから安心して追いかけろよ。それとも、まだ好きな理由を言語化出来ないから嫌だとか抜かすのか?」
「……いや、今なら言える、と思う」
カミルは神妙な顔になり、そう答えた。
「――楽しかったのだ。彼女との食事が」
カミルの顔に赤みが射す。
「純粋に彼女は私を楽しませてくれた。予想もつかない方向へと案内してくれた。これが縛られた見合いであることを理解したうえで、私のことを考え、最大限のもてなしをしてくれたと思う。それが、嬉しかった」
カミルの言葉に熱がこもる。
「私が求めていたものは――団らんだったのだ。幼くして、家を背負うことが決まっていて、心許せる者も少なく、友もあちらにはいない。彼女は真摯に私の傍で楽しませてくれた。その温もりが、心地よかったのだ」
カミルは俯き、手を握りしめる。
「それを与えてくれる存在、彼女との親交を深めたい。そう、今は思っている……」
しん、と辺りが静まり返る。その中で、深いため息が漏れる。
「……だ、そうよ、シンディ?」
「「は?」」
唐突に蜃気楼のようにミリアルの背後がぼやけ、シンディが現れた。
「ん、が……、ま、まさかそこに、居たのか?」
こくり、とシンディが頷く。
「悪い? べ、別に隠れているつもりはなかったのだけど」
シンディは、ツンとしてはいるが、何処となく、気恥ずかしそうに見える。
「――というか、私に気付かないくらいヌボッとしてるからあんな心無い台詞が言えるのよ! もう……」
「す、すまない。だが、私もなにぶん、君を意識したのはついさっきのことで、それまでは出来の悪い妹程度にしか……」
「はあぁ? 何様!? やっぱ無理よあんたのことなんて!」
「いや違うのだ! 今はちゃんと一人の女性として……」
「……行きましょうか、伸介」
「うむ」
俺達はヒートアップする二人を置いて、そっと席を外した。外に出た後も家の中からはうるさい声が漏れ、二人は痴話げんかしたまま、俺達が家を出たことも気付いていなかったようである。やれやれ。
◆
「――では、さらばだ、親友」
「それじゃね、豚」
「……お前ら、なぜ手を繋いでいる?」
異界の門の前でなぜか二人は恋人手つなぎをして笑顔である。
「ん? ハハ、気にするな友よ!」
「……シンディ、お前の何処か遠くの地で夢の結婚をする的な……」
「え? カミルと旅すればよくない?」
「あ、さいですか」
もはや付き合うのも馬鹿らしいので俺は笑顔のまま二人を送り出すことにする。そう、当人が良ければそれでいいのだ。
「それでは、色々ありがとう。また会おう!」
「じゃね~」
こうして二人は光の中へ消えていった。残されたのは……。
「さて、これで邪魔者は全部消えたね」
「……やっぱ帰ってなかったか、ニャルラトホテプ」
虚空からスポンと抜け落ちてきたかのように、長い黒髪に白衣の少女が現れる。
千の顔を持つ異界の神、一度俺がラーメン行脚で連れまわした後に、記憶を消され忘れていた存在である。
「帰らないよ~今回は、用事があって来たんだから」
「用事て、カミルの見合いでカレーを食べる以外に何かあるのか?」
「ノンノン、せっかく恩を売ってチェリッシュちゃんを想い人のところへ送り届けて上げたというのにご挨拶だね。それで君にはちょっと、他に頼みごとがあるのさ」
「――いや、別にチェリッシュの件は俺には関係なくない?」
「でも、君も何とかしたいって思ってたろう?」
「さあ~どうでしょうね~」
そりゃ俺も何とかしてあげたいなって思ったよ? でもお前の協力は怖いから嫌だったわ。
「……で、頼み事ってなんだよ? 世界の危機を救ってくれ、的なことは御免被るぞ?」
「あれ? なぜバレた?」
「可及的速やかにお帰り下さいほんまお願いします」
「……って言うのは冗談でね。これから暫く滞在するから、その間の食事を頼みたいってだけだよ」
「……はぁ、でも満足しなかったら地球を滅ぼしたりとか……?」
「そんなことしないよ~、でもま、もしかしたら、殺されちゃうかもね」
「いや、くんなし」
「ふふ、もう断れないよ。君に持て成してもらいたいのはね……」
「――げ」
俺はその人物を紹介され、本気で逃げ出したくなったのだが、それはそれ、別の話である。
ようやくおわった……。えーと次は作者本人が疲れているため新宿紹介の外伝に戻ります。まじで疲れた。というか9月からの3連休の嵐は家族サービスに費やされており本人に多大な疲労を積み重ねております。子供は可愛いんですがね!




